第31話 胡椒の木

第31話 胡椒の木




 リディアたちは久しぶりにギルドに立ち寄った。ギルド内は依頼を求める冒険者たちで賑わっており、掲示板には数多くの依頼が貼られていた。




「今日は何を受けましょうか?」エレンが掲示板を眺めながら言った。




 フェンが尾を振りながら答えた。「ここにあるゴブリン退治と薬草取りの依頼はどうかにゃ?どちらも常設依頼だし、今日中に終わらせられるにゃ。」




「そうだな。ゴブリン退治と薬草取りを分担すれば効率が良いだろう。常設依頼ということは、薬草が不足しているし、ゴブリンも増えると厄介だからな。」リディアは考え込みながら答えた。




 フェンが嬉しそうに尻尾を振った。「ゴブリン退治は任せてにゃ。リディアも薬草取りも気をつけてにゃ。」




 セバスが地図を広げながら、「ゴブリンの巣は山の中腹にある。気をつけて進もう。」




 リディアは微笑んで頷いた。「ありがとう。私も森での薬草取りには注意を払うよ。」




 受付嬢が依頼書を手渡しながら、「それぞれの依頼の詳細です。ゴブリン退治は山の中腹、薬草取りは森の奥となります。気をつけてください。」




 ▼ゴブリン退治


 エレン、フェン、セバスの三人は山道を進みながら、ゴブリンの巣へと向かっていた。道中、コボルトやゴブリンの姿がちらほらと見え始め、緊張感が漂う。




「見つけましたね、さっそく始めましょう。」エレンが杖を構えながら言った。




「承知しました。私がタンクを務めます。二人は後方から支援してください。」セバスが盾を前に出し、前進した。




 最初に現れたのは、二体のゴブリン。セバスが前に出て、その巨大な盾でゴブリンたちの攻撃を防ぎ、フェンとエレンが連携して攻撃を開始した。フェンの俊敏な動きでゴブリンの注意を引き、エレンが火魔法で致命傷を与える。




「うん、いい感じですね。次もこのパターンでいきましょう。」エレンが満足げに言った。




 進むごとにゴブリンの数が増えてきた。セバスが盾で複数の攻撃を防ぎ、フェンがその間を駆け抜けて素早い攻撃を加える。エレンは魔法でフェンの速度を強化し、バフをかけることでその動きをさらに速くし、敵を翻弄した。




「エレン様のバフのおかげで、かなり楽に戦えるにゃ!」フェンが叫びながら、次々とゴブリンを倒していった。




 次の戦闘では、新しい戦術を試すことにした。エレンが前に出て、バフをかけたフェンが敵の注意を引きつける。その間に、セバスが後方から強力な攻撃を繰り出す。




「これでどうだ!」セバスが大きな一撃を繰り出し、ゴブリンの群れを一掃した。




「このパターンもなかなかいいですね。」エレンが言いながら、次の戦闘に備えた。




 さらに奥へ進むと、ゴブリンの数が一層増え、コボルトも混ざっていた。セバスが盾を構え、「こっちに来い!」と挑発し、敵の攻撃を一身に引き受けた。その間に、フェンとエレンが素早く敵を片付けていく。




「このままでは不測の事態に対応できない可能性もあります。もう一つ戦術を考えましょう。」エレンが言った。




「例えば、私が防御に徹して、フェンがもっと大胆に攻撃に回るのはでしょうか?」セバスが提案した。




「それは良い考えだにゃ!」フェンが同意し、次の戦闘でその戦術を試すことにした。




 セバスが盾で敵の攻撃を完全に防ぎ、フェンが素早く動き回り、敵を一体ずつ確実に倒していく。エレンはその間に魔法でサポートし、必要に応じて回復も行った。




「この戦術も悪くないかな。」エレンが微笑みながら言った。「これで、いくつかのパターンを試したことになります。どれが最も効果的か、今後の戦闘で確認していきましょう。」




 こうして、彼らは新たな戦術を試行錯誤しながら、ゴブリンの巣を着実に攻略していった。




 ▼薬草取り


 リディアは一人、森の中を進んでいた。今回の任務は薬草取り。錬金術のスキルアップを目指し、必要な薬草を集めるために、彼は注意深く周囲を観察していた。森の静寂の中、風が木々を揺らす音だけが響いていた。




「さて、サクラ、ルーク、そろそろ出番だ。元の姿に戻れ。」リディアが呼びかけると、彼の左手に巻き付いていたバジリスクのサクラと、腕輪に擬態していたスライムのルークが姿を現した。




「主。了解です。」ルークが地面に降り立ち、元の大きさに戻ると、その体は輝きを放っていた。




「さあ、薬草を探そう。」リディアが言うと、ノエルも心の中で応えた。「リディア様、薬草の位置をスキャン中です。周囲に魔物の気配もありますので、注意してください。」




「分かった。ありがとう、ノエル。」リディアは森の中を進みながら、薬草を探し始めた。サクラの鋭い目で周囲を警戒しつつ、リディアは慎重に草むらをかき分け、必要な薬草を見つけ出していった。




 しばらくして、リディアはふと立ち止まった。彼の目の前には見慣れない木が立っていた。その木には小さな実がたわわに実っている。




「これは……胡椒の木か?」リディアは驚きの声を上げた。日本人だった頃、胡椒がどのように実を付けるのか知らなかった彼にとって、この発見は驚きだった。




「主。胡椒の木です。食べるとピリッとします。」ルークが説明した。




「ノエル、これが胡椒の木なのか?」リディアが心の中で問うと、ノエルが応えた。「はい、マスター。これは胡椒の木です。この実をダンジョンに持ち帰れば、胡椒を栽培することができます。」




 リディアはその場に立ち尽くし、木を見上げた。小さな実が風に揺れ、輝いているように見えた。「日本では胡椒の木がこんな風に実をつけるなんて想像もしていなかった。まさか、ここで出会えるとは……。」




 彼は手を伸ばし、そっと胡椒の実を摘み取った。その感触はしっかりとしていて、生命力に満ち溢れていた。リディアはその瞬間、自分の中に小さな感動が湧き上がるのを感じた。




「ルーク、サクラ、やったよ。胡椒だ。」リディアは嬉しそうに二人に見せた。




「主。これでダンジョン内に胡椒を栽培できます。」ルークが答えた。




 ノエルも心の中で喜びを表現した。「マスター、これで私たちはさらに多くの料理の可能性を手に入れることができますね。」




 リディアは笑顔を浮かべ、胡椒の実を大切にポーチに収めた。「これでダンジョンの食生活も豊かになる。みんなが喜ぶ顔が目に浮かぶよ。」




 その後も、リディアは薬草を探しながら森を進んだ。魔物が現れるたびに、彼はサクラとルークと協力してそれを撃退し、無事に薬草を採取していった。




「ここには多くの薬草がある。ノエル、次の薬草の場所を教えてくれ。」




「はい、マスター。次の薬草は少し先の湿地帯にあります。気をつけて進んでください。」




 リディアは慎重に足を進め、ノエルの指示に従って湿地帯へ向かった。そこには、彼が探していた貴重な薬草が自生していた。彼は丁寧にそれを摘み取り、再びポーチに収めた。




「これで目的の薬草はすべて揃った。ルーク、サクラ、帰ろう。」




「主。了解です。」ルークが答え、サクラも満足げに頷いた。




 リディアは森を後にし、ダンジョンへの帰路についた。彼の心は新たな発見と達成感で満たされていた。胡椒の木という予想外の発見が、彼の冒険に新たな彩りを加えたのだった。




 ギルドに戻ると、エレンたちも無事にゴブリン退治を終えていた。互いの成果を喜び合いながら、彼らは新たな挑戦へと心を躍らせた。




 ▼ギルドにて


 こうして、リディアたちはそれぞれの任務を無事に遂行し、再びギルドで顔を合わせた。新たな発見と共に、彼らの絆はますます深まっていった。




 ギルドに戻ったリディアは、エレン、フェン、セバスと再会し、それぞれの成果を報告し合った。




「リディアさん、お帰りなさい。薬草取りは順調でしたか?」エレンが尋ねた。




 リディアは頷き、「ああ、良質な薬草をたくさん見つけることができた。これで錬金術の研究も進むよ。」




 受付嬢のアリシアが笑顔で近づいてきて、「皆さん、本当にお疲れ様でした。それぞれの任務を完璧にこなしてくれてありがとうございます。こちらが報酬となります。」




「ありがとうございます、アリシアさん。これで今日の任務も無事に終えることができました。」リディアが礼を言った。




「これからもよろしくお願いしますね。」アリシアが微笑んで答えた。




 リディアたちはギルドを後にし、宿屋へと向かった。道中、互いの任務の話をしながら、彼らは新たな発見と共に未来への希望を胸に歩いていった。

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