第30話 リディア杯

第30話 リディア杯




 ダンジョンウォークで、リディアが5Fの水晶の間へ帰還した。静寂に包まれたその場所には、彼を待ち構えていたリリィとロゼッタの姿があった。




「お帰りなさいなの、リディア様!」リリィが元気よく声を上げた。彼女の小さな姿が、光を浴びて輝いている。




 ロゼッタも微笑みながら近づいてきた。「無事に戻られて何よりです。早速ですが、現在の状況についてご報告いたします。」




 リディアは頷き、二人の報告を聞く姿勢を整えた。「ありがとう、リリィ、ロゼッタ。状況を教えてくれ。」




 ロゼッタが口火を切った。「まず、街の区画を東西南北と中央区に分けて整理し、市場経済の基盤作りが順調に進んでおります。しかし、まだ完成には至っておらず、特に経済システムの構築が遅れています。」




 リディアは少し頷き、続けるよう促した。


(やばい、次は何を言うべきだろう。経済システムについて詳しく聞かれたらどうしよう…。)


 リディアは心の中で焦りを感じていたが、平静を装いながら待っていると、ロゼッタは各区画の詳細を説明し始めた。




 その瞬間、ノエルがリディアの心に静かに語りかけた。「マスター、心配しないでください。経済システムについての詳しい知識が必要なら、私がサポートします。あなたは冷静にロゼッタの説明を聞いて、必要な部分だけを確認すればいいのです。」




 リディアはノエルの言葉に少し安堵を感じ、心を落ち着けた。




 ロゼッタは一息つき、再び口を開いた。「北区は、街のゴミ捨て場として機能しています。ここでは、スライムを活用してゴミや不要な物品を効率的に処理するための設備が整えられています。廃棄物をリサイクルする仕組みも導入し、環境への影響を最小限に抑えるようにしています。」




「東区は商業区として開発されており、商店や市場が集めています。ここでは様々な商品が取り扱われ、街の経済活動の中心とする予定です。皆が集まり、取引が活発に行われる場所になる予定です。」




「西区は街の入口となっており、主にゴブリン、コボルト、オークなどが住んでいます。彼らは街の警備や侵入者の迎撃を担当しています。特に門番としてゴーレムが配置されており、堅牢な守りを誇っています。」




「南区は広大な農場が広がっており、スケルトン、グール、ドライアドなどが住んでいます。彼らは昼夜を問わず農場の管理にあたっており、街の食料供給を支えています。この地域は非常に広く、多種多様な作物が栽培されています。」




「中央区には研修室や会議室が設置されており、街の教育や訓練、重要な会議が行われる場所です。ここでは、住民たちが技能を磨き、知識を深めるための様々なプログラムが提供されています。」




「ダンジョンにはリディア様の居住区や会議室があり、街の指導と統治が行われる中心地となっています。ここでリディア様は重要な決定を下し、街全体の運営を監督しています。」




 リリィが続けた。「皆の協力で街の骨組みはできていますの。でも、住む場所や商業の安定にはもう少し時間が必要なの。特に、新たな住民を迎えるための住宅や、商業活動を円滑に進めるためのインフラ整備がまだ十分ではありません。」




 リディアはその説明を聞きながら、街の全体像が頭に浮かんでいた。彼は少し考え込み、「それぞれの区画がどのように機能しているか、よくわかった。今後の発展に向けて、必要な準備を進めよう」と決意を新たにした。


 リディアは少し考え込み、「その件について、実は相談があるんだ。奴隷を購入して街に住まわせるのはどう思う?奴隷が労働力として加われば、街の発展も加速すると思うんだが。」




 ロゼッタは慎重な表情で答えた。「それは一理ありますが、今はまだ市場経済が安定していない状況です。貨幣の流通ができていないため、新たな住民を迎えるには、もう少し時間が必要です。」




 リリィも同意した。「うん、ロゼッタの言う通りですの。今はまだ我々配下が食べるだけで精一杯なの。もう少し待つのが賢明なの。」




 ロゼッタは丁寧に付け加えた。「食事の質や商店ができるまでもう少し時間が必要です。」




 リディアは少し肩をすくめて微笑んだ。「分かった。では、もう少し状況が落ち着くまで待つことにしよう。」




 その時、バルドとフィオナも部屋に入ってきた。二人はリディアに敬意を表しつつ近づいてきた。




「リディア様、お疲れ様です。」バルドが挨拶をし、「何か新しい相談事でも?」




 リディアは頷き、「ああ、実は次のダンジョン攻略のために、6人のパーティを結成したいんだ。魔石を稼ぎ、戦力を増強するためにね。」




 フィオナが興味深そうに尋ねた。「リディア様。具体的にはどうやってそのメンバーを選抜するおつもりですか?」




 リディアは少し考え込みながら、彼の頭の中でアイデアを練っていた。日本人だった頃に愛読していた『ドラゴン〇ール』の天下一武道会が心に浮かんだ。強者たちが集い、競い合うことで最強を決める大会。その形式を、彼の配下で実施することができれば、最も強力な戦士たちを選び抜くことができると考えたのだ。




 リディアは微笑んで答えた。「それについて、いい案がある。リディア杯を開催するんだ。約一か月後に武道会を開いて、そこで上位5名を選抜する予定だ。連れて行くのは、ダンジョンへの入場する関係で、人型になれる者だけにするつもりだ。」




 バルドは考え込むように頷いた。「それは良い案ですね。武道会で実力を確かめられるのは、公平で効果的です。」




 リリィが興奮気味に声を上げた。「わあ、武道会なんて楽しそうなの!皆が競い合って強くなるのは良いことですの!」




 ロゼッタも微笑んで同意した。「確かに、それなら実力のある者たちが選ばれるでしょう。」




 フィオナは慎重に言葉を選んで話した。「ただ、一つ気をつけなければならないのは、怪我や不測の事態への対応ですね。医療チームの準備も同時に進めておくべきかと愚行いたします。」




 リディアは頷き、「その点も考慮に入れて準備を進めよう。ありがとう、フィオナ。武道会の詳細については、後ほど皆で話し合おう。」




 その後、リディアは配下全員に中央区に集まるように指示を出した。召集の知らせが瞬く間に広まり、中央区には次々と集まる配下たちの姿が見られた。中央区は緊張と期待で満ちていた。




 中央にリディアが立ち、その右側にはバルドが、左側にはリリィが並んだ。バルドが大きな声で「静まれっ!」と一喝すると、さっと皆が静まり返った。




 リリィが前に出て宣言した。「今より、リディア様よりお言葉があるの。心して聞くの!!」




 全員が一斉に姿勢を正した状態となり、緊張が走る。その瞬間、リディアは一歩前に出て力強い声で話し始めた。




「約一か月後、ここでリディア杯を開催する。これは我々の中で最強を決めるための大会だ。私たちの力を示し、これからの挑戦に備えるための重要なイベントだ。」




 一瞬の静寂が訪れた後、リディアはさらに声を張り上げ、熱意を込めて続けた。「この大会で上位5名を選抜し、私と共にダンジョンのさらなる攻略を目指す。連れて行くのは、人型になれる者だけだ。皆の実力を見せてくれ。」




 リディアは拳を握りしめ、その目には決意が宿っていた。「私たちは一丸となって強くなる必要がある。このリディア杯は、そのための第一歩だ。自分の力を信じ、仲間と共に戦い、全力を尽くしてほしい!!」




 リディアは拳を握りしめ、その目には強い決意が宿っていた。「私たちは一丸となって強くなる必要がある。このリディア杯は、そのための第一歩だ。自分の力を信じ、仲間と共に戦い、全力を尽くしてほしい!」




 リディアの声はますます力強くなり、配下たちの心に火をつけた。「我々の目標はただ一つ、勝利だ!この大会で自分の限界を超え、我々の未来を切り開こう!共に戦い、共に成長し、そして共に勝利を掴むのだ!」




 配下たちは一斉に声を上げた。「おぉ~っっっ!!」




「ダッダッダッ」と全員が足踏みを始め、その場は興奮と高揚感に包まれた。リディアの言葉は彼らの魂に深く響き、闘志を掻き立てた。




 リディアは再び全員に向き直り、さらに声を張り上げた。「皆、これからの一か月間、互いに切磋琢磨し、最高の自分を見せてくれ。リディア杯で会おう!」




 配下たちは一斉に声を上げた。「おぉ~っっっ!!」




 配下たちの間には高揚感が満ち溢れていた。彼らの中には、すでに次の戦いに向けた決意が固まっている者も多かった。リディアの言葉が彼らの心に深く刻まれ、未来への希望と期待が膨らんでいくのを感じた。




 リディアはその場を後にし、ダンジョンの中心部へと戻った。彼が去った後も、配下たちの興奮は収まらず、リディア杯に向けての準備が始まった。




 演説を無事に終了させたリディアは、5Fへ戻り、ダンジョンマスターの力で闘技場を構築する準備を整えた。地面が揺れ、巨大な闘技場が次第に形を成していく。その壮大な光景を、リリィたち五星が見守っていた。




「皆、後はよろしく頼む。もし訓練する場合は、この闘技場を利用してもいい。修復機能も付けて作成しておいたから、思い切り使ってくれ。」




 リディアの言葉に、五星は一斉にお辞儀をして応えた。「承知しました!」




 こうして、街はリディアの帰還と共に新たな一歩を踏み出した。五星の力を結集し、街の発展とダンジョン攻略という二つの大きな挑戦に向けて、彼らは一致団結して進んでいった。

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