第24話 護衛依頼2

第24話 護衛依頼2


 朝霧が広がり、キャンプの焚き火はすでに消えていた。リディアたちは朝食を終え、クレストへと向かう再出発の準備に取り掛かっていた。ウルフの群れとの遭遇から一夜明け、商人のジェラルドは明らかにほっとした表情を浮かべていた。


「リディアさん、おかげさまで無事にここまで来れたよ」とジェラルドが感謝の意を述べる。


 リディアは冷静に応じた。「私たちの役目です。時間がないので、クレストに到着するまでは速やかに進みましょう」


 エレンが静かに言葉を加えた。「昨夜は皆、お疲れさまでした。しかし、これからも気を抜くことはできませんわ」


 フェンは尻尾を軽快に振りながら、「んー、まだ眠たいけど、行くしかにゃいにゃー」と、出発準備を進めていた。


 セバスは一行を見守りつつ、慎重に武器を点検していた。「皆、準備はいいでしょうか?クレストにはなるべく早く着きたいと考えています。問題が起きたら、すぐに声を上げてください」


 こうして、彼らの旅は再び始まった。日々繰り返される移動の中でも、毎日が新たな冒険である。前日の戦闘での疲れを癒やし、新鮮な気持ちで前に進んでいくのだった。


 平和な二日間の旅を経て、彼らは遂に山脈の麓に到着した。風に揺れる緑豊かな木々の間を進む彼らの目に、突如として空からの脅威が映った。それは、山脈に迷い込んだ一匹のワイバーンの影だった。


 リディアは瞬時に状況を理解し、声を落ち着かせて指示を出した。「皆、態勢を整えて。今までに戦ったどんな魔物とも違う。空からの攻撃に備えろ!」


 空の圧迫感が増し、ワイバーンの咆哮が山脈全体を震わせた。その咆哮は、皮膚の下まで振動を送り込んでくるような力強さで、周囲の空気を揺るがせた。それはまるで、空気自体がその声に反応して震えているかのようだった。その恐ろしい響きに、エレンとフェンは恐怖で固まり、動けなくなるほどだった。


 エレンが震える声で言う。「こ・こんなに強力な咆哮は…」




「にゃ…動けないにゃ…」と恐怖に震えながら、尻尾を地に押し付けた。




 その時、セバスが咄嗟に反応した。彼は何も言わずエレンの前に立ちはだかり、盾となって守る。「エレン様。私がおります」




 しかし、その緊迫した混乱の中でも、リディアは驚くほどの落ち着きを保っていた。彼の心の中では、かつて目にした「〇ラゴンボール」における伝説的なか〇はめ波のシーンが蘇る。その瞬間、彼はまるでその物語の英雄のように、両手を体の横に持ってきて、掌を向かい合わせる。彼の掌からはわずかに炎が漏れ、静かに灼熱の炎が集まり始める。彼は息を吸い込み、魔力を自身の中心に集約させながら、その力を両手の中に凝縮していく。


「ファ…イ…」彼の口から、一語一語、意識的に力を込めて呟かれる。そのたびに、彼の手の中の炎が強まり、周囲の空気が振動し、灼熱の炎が形を成していく。


 そして、最後の「ヤーぁぁぁぁぁぁっ!」の叫びと共に、彼は前に両手を突き出し、蓄えたエネルギーを一点に向けて放つ。空間を裂くような炎の波が、彼の手から解き放たれ、凄まじい速度で目標に向かって飛んでいく。


 彼の手から放たれたビーム状の炎は、一瞬の閃光を伴い、直接ワイバーンの頭目を狙い撃った。炎のビームがワイバーンの頭部を貫き、大爆発と共に巨大な敵を空中で吹き飛ばした。その圧倒的な速度と力に、仲間たちは言葉を失い、リディアの力にただただ驚嘆した。


 ジェラルドが驚愕で目を見開き、「一体、あれは何だったんだ…?」と言葉を失った。


 サクラもジュラ〜と驚きの声を上げる。


 エレンは深く感謝の意を表して、セバスとリディアに向かって言った。「セバス、リディア、二人ともありがとう。あなたたちのおかげで助かりました」彼女は彼らに向けて優雅に頭を下げ、その敬意は言葉以上のものを伝えていた。




 フェンがようやく動きを取り戻し、「す、すごいにゃ!リディア」と興奮を隠せずに声を上げた。




 その間にも、セバスは常に前を見据え、「無事で何よりです。しかし、引き続きの警戒を怠ってはいけません。未知の危険がまだ多く潜んでいますからね。」と冷静に忠告した。




 リディアは手を下ろし、周囲を見渡す。「これで一件落着です。しかし、この山脈にはまだ危険が潜んでいます。引き続き、警戒を怠らずに進みましょう」




 ノエルがリディアの心に囁く。「マスター、さすがです!!」




 リディアは頷き、一行は再び旅路を進む準備を始めた。ワイバーンとの戦いは終わりを告げたが、彼らの前にはまだ多くの試練が待ち受けていることを、彼らは知っていた。




 ▼リディアの配下たち

 リリィは、精霊としての軽やかな羽ばたきで、夜が訪れた工事現場にバルドのもとへと現れた。


「バルド!今日の進捗はどうなの?」リリィはいつものように明るく尋ねた。


 疲れた表情のバルドは、エンシャントドワーフとしての誇りを胸に応える。「おかげで順調に進んでいるよ。ただ、魔法石の調達には頭を悩ませているんだ。」


 その時、ルミナが加わった。「リディア様は特に衛生設備にこだわりを持っておられます。水回りはあちきの出番でありんすね。立派なものを作りんしょう」


 一方、ロゼッタは冷静に自分の役割に集中していた。「私は工房を発展させ、リディア様のために最高品質の薬を作ることが使命です。」


 リリィは仲間たちを励まし、「リディア様とみんなのために、私たちのこの街が夢の場所になるように頑張るの!」と力強く宣言した。


 そこにセリーナがその場に威厳を持って姿を現し、仲間たちへ声をかけた。「何か手伝えることはないかしら?私の役割はモンターニャの森の魔物を抑えるだけではないわ。この街が成長することで、多くの生命が平和に共存できる場所になるよう尽力しますわ。」


 バルドが安堵の息をつきながら応える。「セリーナ、あなたが支えてくれると心強い。実は特別な木材が森から必要なんだ。」


 セリーナは落ち着いた声で言った。「それなら、任せて欲しい。フィオナと私が協力して、必要なものを集めよう。」


 このやり取りを通じて、リディアの配下たちはそれぞれが持つ特技を活かし、新しい街を築き上げるために互いに協力する決意を新たにした。彼らの結束力と献身的な努力が、リディアの抱いていた期待を遥かに超える成果を生み出すことになるだろう。


 リリィは仲間たちに向けて力強く宣言した。「みんなで一緒に頑張るの!リディア様もきっと喜んでくれるの!」彼女の言葉が、夜空の静寂を破り、希望の光を灯した。

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