第23話 護衛依頼1

第23話 護衛依頼1




 リディアたちは、朝の光が冒険者ギルドの窓から差し込む中、次なる依頼を探していた。ギルドは、計算された動きで武器を磨く者、新しい鎧を身につけて満足そうにうなずく者で賑わっており、その活気が四人にも伝わってくる。




 リディアが掲示板を前に立ち止まり、目を光らせながら一枚の依頼書を手に取ると、仲間たちに向かって興奮を抑えきれない声で言った。




「ねえ、みんな。これ見てよ。クレストまで商人を護衛する依頼があるよ。」




 セバスが紙を受け取り、深く考え込むように眉を寄せて内容を読み進めた後、落ち着いた口調で話し始める。




「クレストへの護衛依頼ですか。あの地はダンジョンもあるし、私たちにとっても有益な経験になりそうですね。」




 フェンはその話に胸を躍らせ、尻尾を振りながらはしゃいで言った。




「あー、クレストのダンジョン!聞いただけでワクワクするにゃ!何かいいアイテムが見つかるかもしれないにゃ!」




 エレンは、一同が期待に満ちた様子を見て微笑み、依頼書を丁寧に手に取りながら静かに言葉を紡ぐ。




「私たちの旅にとっても、新たな挑戦ね。クレストでの護衛任務、私も賛成よ。」




 リディアは仲間たちの反応に満足し、頼もしそうにうなずいた。




「よし、じゃあ決まりだ。クレストへの護衛依頼を受けよう。ダンジョンの探索もできるし、一石二鳥だね。」




 次の日の朝、エスガルドの東門で、リディアたちは待ち合わせの商人と出会う。商人は中年の男性で、風雨に耐えた茶色のローブを身に纏っていた。彼の名前はジェラルドといった。




 ジェラルドはリディアたちを見て、最初はわずか4名の護衛に心配の色を隠せない様子だったが、リディアたちが先日の救出劇の主役だと知り、安堵の息を吐き出す。




 エレンが一歩前に出て、穏やかな笑顔でジェラルドに挨拶した。




「ジェラルド様、私たちはあなたをクレストまで安全にお送りします。どうぞご安心を。」




 ジェラルドは微笑みを返し、礼儀正しく頭を下げた。




「おお、お嬢様たちには感謝しております。ええ、皆さんのことはすでに耳にしておりました。私の荷物を安全に運んでいただけるとは、何と幸運なことか。」




 フェンが耳をピンと立てて、興奮を抑えきれずに言葉を挟む。




「大丈夫ですにゃ、おまかせくださいにゃ!」




 セバスが落ち着いた声で追加する。




「その通りです。我々はチームとしての連携も確立しておりますので、どうぞご安心ください。」




 旅の始まりとなる一行は、一直線にクレストを目指して進んだ。夕方になると、リディアは野営地の準備を始める。彼は土魔法で平らな場所を作り、火魔法でお風呂を沸かし、水魔法で清潔な水を用意する。




「みんな、ちょっと待ってて。今から最高の夕食を用意するから。」




 リディアが言うと、エレンが手伝いを申し出る。




「私も何かお手伝いできることはありますか?」




 リディアは笑いながら答えた。




「エレンは休んでて。今日は僕の特製料理を楽しんでほしいんだ。」




 ジェラルドは驚いた様子で周りを見回しながら言った。




「ここが野営地だとは思えませんね。まるで、屋外のレストランです。」




 夜が更けるにつれ、一行はリディアが作った豪華な料理を囲みながらワイワイと楽しい時間を過ごした。フェンがお腹をさすりながら満足そうに言う。




「リディアの料理、最高にゃ!」




 セバスも含み笑いを浮かべながら、感謝の言葉を述べる。




「リディア、いつもながら素晴らしい料理をありがとう。おいしい食事ってだけでとても旅が楽になります」




 二日目の旅路が始まり、リディアたちはクレストに向けて順調に進んでいた。昨夜の楽しい時間がまだ心に残っている中、午後になって林から怪しい気配を感じ取る。




 フェンが異変を察知し、緊張した声で警告する。




「何か来るにゃ。大勢の気配がするにゃ!」




 その時、ルークも念話で報告した。




「リディア様、ウルフの群れがいる。数は10匹くらい…。」




 リディアは冷静に指示を出し始める。




 リディアが戦闘の指揮を執り、声を張り上げる。




「みんな、準備しろ!前面は僕が引き受ける。セバスとフェン、ジェラルドさんと馬車の周りを固めて守ってくれ。エレン、後方支援は任せた!」




 組織的に襲い来るウルフの群れの中、力強いアルファウルフが先頭に立ち、その咆哮と共に攻撃が始まった。




 戦闘が開始され、リディアは即座に魔法弾を連射、群れの中心を狙い、迫り来るウルフたちに対して圧倒的な火力で応戦する。「ダダダダッ!」という魔法弾の音が響き渡る中、後方から忍び寄ろうとするウルフの多くを一掃するが、2匹が馬車に向かって進む。




「しまった、2匹が抜けた!フェン、セバス、あいつらを頼む!」




 この混沌とした戦況のなか、ウルフたちのリーダーであろう巨大なウルフが、狙い定めたかのようにリディアに直接襲いかかってきた。その爪は、風の魔法で暴風を纏い、獰猛な一撃を繰り出すかと思われたが、リディアの動きはそれを軽々とかわした。彼の動きは流水のように滑らかで、巨大なウルフが攻撃の余波でわずかに体勢を崩したその瞬間をリディアは逃さなかった。




「月影斬り!」リディアの声が、戦場を切り裂くように響き渡る。彼の剣技は、計算し尽くされた動きと共に、巨大なウルフの攻撃を避けつつ、敵の油断を突いた。リディアは、その場で軽やかに反転し、瞬時に位置を変えながら剣を振り上げた。その一振りは、まるで月明かりを受けて輝く刃のように、下から上へとアルファウルフの顔目掛けて振り上げられた。その刃は、巨大なウルフの顔を精確に真っ二つに裂き、圧倒的な力の差を見せつけるかのようだった。巨大なウルフの巨体がその場に崩れ落ちるのを見届けると、リディアは冷静に次の行動を見据えた。彼の戦い方は、まるで古の戦士のように、圧倒的な強さと優雅さを兼ね備えていた。


 リディアは息を整えながら、セバスとフェンが馬車に迫る2匹のウルフを素早く片付ける様子を確認する。




 戦いが収まり、緊張が解けた空気の中でリディアとその仲間たちは、一時の休息を得る。彼らは、戦闘による損害の有無を確認するため、ジェラルドと共に馬車の様子を見に行く。その時、エレンが温かみのある声で周囲に問いかける。




「皆、怪我はない?ジェラルドさん、馬車が無事かどうか、見ていただくことは可能でしょうか?」




 この言葉に、ジェラルドはほっとしたような笑顔を浮かべて応えた。




「ええ、全く問題ありません。本当に感謝しています。皆さんがいてくれたおかげで、ウルフの襲撃を何とか凌ぐことができたんですから。」




 彼の言葉には、深い感謝の念と、リディアたちの勇敢な行動への敬意が込められていた。




 野営地の準備が整い、リディアは土魔法を用いて仮設の城壁を構築し、魔物からの襲撃を防ぐための安全措置を講じた。バジリスクのサクラも外周を警戒し、夜が更けるにつれて、最初の見張り番としてリディアとエレンが配置される。




 リディアとエレンは、夜空に輝く星を背景にしながら、見張りの任務を開始した。




 静寂に満ちた夜、リディアとエレンは見張り任務の最中、夜空に輝く星々を眺めながら会話を交わしていた。




 エレンが興味深く尋ねた。「リディア様、エルフの方々はこの美しい星空にどのような意味を見出すのですか?」




 リディアは穏やかに答えた。「星々は、自然の調和と永遠の美を象徴している。我々エルフは、星に願いをかけるというより、それらの美しさを通して自然との絆を感じ取るんだ。」




 エレンは微笑み、「素晴らしい考えですわね。星空の下、私たちはいつも何か大きな存在に包まれているような気がしますわ。」




 リディアは少し目を細めながら、「確かにな。星々は、我々が日々の暮らしの中で忘れがちな、広大な宇宙の一部であることを思い出させてくれる。そして、生きているこの瞬間の美しさと、その一瞬一瞬を大切に生きることの重要性を教えてくれるんだ。」




「リディア様のお話を聞いていると、いつも心が洗われるようですわ。」エレンが感嘆の声をあげる。「あなたはいつもそんなに哲学的なのですか?」




「哲学的かどうかはわからないけど、長い時間を生きると色々なことを考えるようになる。特に夜、静かに星を眺める時はな。」リディアが優しく微笑みながら答えた。




 エレンは、彼の答えに深くうなずき、「リディア様と共に夜空を眺めることができて、本当に幸せですわ。」と心からの感謝を述べた。

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