第22話 救出
第22話 救出
夕暮れ時、ダンジョンの静かな風呂場でリディアはひとときの安らぎを楽しんでいた。「シュー...」と水面が揺れる音と、「ポコポコ...」と小さな泡が湯面を破る音が響く。満足げに湯から上がり、ダンジョンウォークの呪文を唱える。「フッシュ」と一瞬の風と共に、彼は宿屋近くの街へと戻った。
宿屋の食堂で、リディアはエレン、フェン、セバスと合流し、今日の出来事を共有する。「今日はね、ポーション作りに挑戦したんだ。見てこれ!」と言いながら、リディアは革のバッグから瓶を取り出す。「カチャ」という軽やかな音とともに、輝くポーションがテーブルの上に並べられた。下級ポーションが10本、そして少し緑色に輝く中級ポーションが2本。
「すごいじゃない!中級ポーションなんて、一般の冒険者にはなかなか作れないわよ!」エレンが驚嘆の声を上げる。
「にゃんと!リディア、これは凄いにゃ!」フェンも目を輝かせる。
セバスは少し控えめに、「素晴らしい。リディアの努力が実を結んでいますね」と賞賛した。
リディアは笑顔で「これはみんなの冒険のお供になるといいな。一本ずつ持ってて」と言い、それぞれに下級ポーションを手渡した。「ブゥーン」という音と共に、残りのポーションはアイテムボックスに収められた。
次の日、冒険者ギルドに足を運ぶと、異様なざわめきが。リディアたちは顔を見合わせながら、ギルドの中心へと進んでいった。「なにかあったのか?」リディアが近くの人に尋ねる。
「ああ、今朝、銅級の冒険者が数人、森から戻って来ないんだ。探索隊が組まれることになったようだ」という情報が返ってきた。
リディアは仲間たちを見回し、「どうする?僕たちも何か手伝えることがあるかもしれない」と提案する。エレン、フェン、セバスも同意の表情を見せる。
受付嬢は少し心配そうな顔で、リディアたちにゴブリンが多く潜む森の情報を伝えた。「ゴブリンの活動が活発になっているみたいです。皆さん、どうかお気をつけて…」彼女の声はギルドホールのざわめきに紛れながらも、リディアたちの耳にしっかりと届いた。
「了解した。安心して、僕たちに任せて」とリディアは頷き、エレン、フェン、セバスも覚悟の表情を浮かべる。「では、出発しましょう」とエレンが優雅に立ち上がり、四人は城門を目指して歩き出した。
城門を抜け、森へと続く道を進むと、すぐにその緊張感が空気を支配する。「ガルル…」遠くでウルフの威嚇する声が響き、ゴブリンの不気味な笑い声が時折聞こえる。「皆、気をつけて。敵はどこからでも現れる可能性がある」とリディアが警戒を促す。
突然、「キャッキャッ!」というゴブリンの叫び声と共に数匹が木陰から飛び出してきた。「今だ!」フェンが猫のような敏捷性で一匹を倒し、「ズバッ!」と刀で斬りつける音が響く。
エレンは杖を振り、「プロテクション!」と呪文を唱える。淡い青色の光が四人を包み込み、「キンッ!」という魔法の盾が形成される音がする。
セバスは冷静に状況を見極め、「タウント!」と敵の注意を引きつける。赤色に輝く挑発の波動が広がり、「ガアッ!」と敵が彼に集中する。
森の入口に差し掛かると、四人はさらに警戒を強めた。「ここからは本格的に危険だ。全員、隙を見せるな」とリディアが低く囁く。森の中は静寂に包まれ、足音だけが鮮明に響き渡る。「カサカサ…」という枯葉を踏む音が、不気味なまでに耳に残る。
先を行くリディアの手には、ミスリルの刀が握られ、月明かりに照らされていた。森は以前訪れた時と変わらないが、ゴブリンの気配が明らかに増しており、四人は心を一つにして、行方不明の冒険者を捜すため、深い森の闇に足を踏み入れた。
森の奥深く、リディアたちは緊張の糸を張りつめたまま進んでいた。その時、「ゴソッ」という音がし、足元に皮の鎧を纏った男性が倒れているのを発見した。リディアがゆっくりと男性の側に膝をつき、彼のプレートを手に取る。「こ、これは…」リディアの声が震える。
エレンが優しく言葉をかける。「残念ね…でも、まだ二人がいるわ。彼らを見つけ出しましょう。」
「にゃ、にゃんとも…でも、リディア、進むにゃ!」フェンが勇気づけるように言った。
セバスは深く息を吸い、「冷静さを保つのだ。これからが正念場だ。」と仲間たちを落ち着かせる。
森をさらに進むと、獣のような臭いが強くなってきた。「これは…ゴブリンの匂いだ。集落が近い」とリディアが囁く。四人は身を隠しながら集落の様子をうかがった。
リディアの目からは、細かく集落内の状況を把握しようとする意志が伺えた。「ゴブリン約40匹、ホブゴブリン10匹、レッドキャップも10匹…それに、魔法使いもいるかもしれない。数は前回よりも多い」とリディアが詳細を口にする。
エレンが慎重に言う。「この数では正面からの攻撃は避けた方が良さそうね。戦略を練る必要があるわ。」
「にゃ、そうだにゃ。でも、人間がいるかもしれないから、大技は使えないにゃ」とフェンが懸念を示す。
月明かりがかすかに照らす森の中、リディアは冷静かつ迅速に行動を開始する。「よし、行くぞ」と低く呟き、彼の周囲には静かなる決意が漂う。彼の指先から魔法弾が発射され、「ドッドッ!」という効果音と共に、一つまた一つとゴブリンたちが倒れていく。
エレンはその隙を逃さず、呪文を唱える。「プロテクション!」と声を張り上げると、彼女たちを囲むように淡い青色の光が広がり、「キンッ」という音を立てて防御壁が形成される。その安心感が、彼女たちにさらなる力を与える。
サクラがリディアの左手から解放されると、彼女の真の姿である巨大なバジリスクへと変わる。「ジュラ~」と低く唸りながら、サクラはリディアと共に敵陣へと突入する。その迫力と存在感は、敵を震え上がらせるに十分だった。
リディアの右手には、ルークが巻き付いていたが、彼の防御に専念する役割は三人には秘密にしてある。「ルーク、お願いする」とリディアが静かに話しかけると、ルークは「主様。わかった…」と応え、彼を守る緑色のバリアを強化する。
戦いは約10分間続き、リディアは見事にゴブリンたちを駆逐していく。その間、エレンとフェンとセバスは、逃げ惑うゴブリンたちを追い詰め、「ズバッ!」「キャッ!」と斬撃と叫び声が森を満たす。
戦闘の余韻が森に残る中、リディアたちは生存者を探し始める。リディアは慎重に足を踏み入れながら、「こっちだ、気をつけて」と低く呼びかける。崖の近くに来ると、「ゴソゴソ」と小さな石が転がる音が聞こえ、その方向に目を向けると、一人の男性が崖の穴に倒れているのを見つけた。彼は血に染まり、瀕死の状態だ。セバスが下級ポーションをかけ応急処置をとり、回復魔法をかけてもらうために、エレンを呼びにいった。
エレンとフェンは別の場所で意識のない女性を発見する。「あら、大変!」エレンが驚きつつも冷静に対応する。女性の上半身は裸であり、彼女の状態を考慮して、エレンはマントを脱ぎ、女性にかけてやる。「フェン、ポーションをお願いね」とエレンが指示する。
「了解にゃ!」とフェンが答え、彼女たちは慎重に女性にポーションを飲ませようとする。「シュッ」と蓋を開ける音と共に、下級ポーションがゆっくりと女性の口へと運ばれる。
一方、セバスは周囲を見張りながら、警戒を続け、二人の回復を待つ。
リディアは集落を見て回り、倒れているゴブリンたちを一つ一つアイテムボックスに収めていく。「ブゥーン」という音と共に、ゴブリンの体が光に包まれ、消えていく。その間も、リディアの耳は常に環境の音に敏感であり、「カサカサ」という葉っぱが触れ合う音一つにも警戒を怠らない。
しばらくして、リディアはセバスの元へ戻り、「周囲にはもう敵はいない。二人を救助した。セバス、支援を頼む」と報告する。
夜が深まるにつれ、森の静けさと満点の星空がリディアたちに一時の安息をもたらす。彼らは集落の中央で、キャンプ火を囲んで夕食の準備に取り掛かる。リディアは肉を棒に刺し、「ジュウジュウ」という焼ける音を立てながら、塩をまぶして丁寧に焼き上げる。「こんな夜に食べる肉は格別だな」とセバスが言うと、全員がうなずく。
エレンがシチューの準備を手伝い、「シュコシュコ」と木のスプーンで鍋をかき混ぜながら、にんじんとジャガイモ、そしてヤギのような動物のミルクを加えていく。「美味しそうなシチューね」と笑顔で言う。
一方、リディアはお風呂の準備に取り掛かる。「ルーク、少し力を貸してくれるか?」と頼むと、ルークは「リディア様。わかった…」と応え、リディアの指示に従って魔法でお湯を温め始める。「ゴボゴボ」という音が聞こえる中、火加減が完璧に調整される。リディアはルークに感謝の言葉をかける。「ルーク、さすがだね。いつも助かるよ。」
食事が準備されると、救出された冒険者の2人も加わり、全員で夕食を楽しむ。「「おいしい…」」と二人が涙を流しながら言う。
お風呂の存在を知らされた時、2人の冒険者は驚きを隠せなかったが、その後の入浴で「ああ、これぞ天国…」と感激する姿が見られた。リディアたちはそんな彼らを見て、心の底から安心する。
夜が更けていく中、リディアが寝ずの番を引き受ける。「大丈夫、みんなゆっくり休んでくれ。ここは俺が見ている」と静かに宣言し、周囲を警戒する構えをとる。
朝が明けると、リディアたちはエスガルドの冒険者ギルドへの出発を準備する。夜を共に過ごした冒険者2人も、エレンの回復魔法と彼らが用意したポーションのおかげでずいぶんと元気を取り戻していた。彼らは感謝の言葉を何度も繰り返し、リディアたちの後をついて行く。
ギルドに到着すると、救出された冒険者2人はリディアたちに改めて深い感謝を表し、「本当にありがとう。あなたたちがいなければ、私たちはもう…」と言葉に詰まる。リディアは「冒険者は助け合いさ。気にすることない。報酬もあるしな」と慰め、彼らを励ます。
ギルドに到着したリディアたちは、受付に向かい、彼らの冒険の報告を始める。受付嬢が彼らの話を聞きながら、深い同情と敬意を表す中、「ちょっと待っててくださいね、ギルドマスターを呼んできます」と言い、少ししてからギルドマスターが現れる。
ギルドマスターが深刻な面持ちで彼らの前に立ち、「事情を聞かせてくれ」と言う。リディアは落ち着いた口調で、冒険の詳細、そして悲しい結果について報告する。「一人は残念ながら亡くなりましたが、二人はなんとか生きています」と。
ギルドマスターは深く頷き、「お前たちの勇気と行動力には頭が下がる。ギルドを代表して、感謝の意を表したい」と言い、報酬として金貨5枚をリディアたちに渡す。
リディアは「私たちができることをしたまでです。報酬はありがたく受け取ります」と答え、同伴者たちも感謝の言葉を述べる。
このやり取りが終わると、ギルド内の他の冒険者たちからも彼らの勇敢な行動が語り草となり、リディアたちに対する敬意がさらに高まることとなった。
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