第20話 昇級

第20話 昇級


 朝の光がギルドハウスの窓を通して室内に差し込む中、リディア、エレン、フェン、そしてセバスは朝食を終えて、次の任務の計画を練っていた。


 リディアが紅茶を一口飲みながら切り出した。「昨日の受付嬢の反応を見ると、ゴブリンをもう少し多く倒しても目立たないみたいだね。薬草も、昨日の倍集めて、ゴブリンは50体ぐらいにしてみようか」


 エレンが優雅に紅茶をすすりながら頷いた。「そうしましょう。薬草の種類を増やすことも考えた方が良いかもしれませんわ。異なる効能の薬草を集めることで、錬金術の練習にもなりますし、ギルドからの評価も上がりますわ」


 その時、フェンが茶化すように言った。「にゃ!ゴブリンスレイヤー様がいれば無敵にゃ!」その言葉に、一同は心からの笑顔を見せた。



 リディアは心の中で考えていた。転生前の世界でも、ゴブリンの集落対策は小説でよく読んだことだった。




 エレンが次なるステップを提案した。「それでは、出発する前に、私たちが必要とする装備の最終確認をしましょう。また、薬草が豊富にある地域と、ゴブリンの活動が報告されているエリアの地図をもう一度しっかりと確認しておきましょう。」




 朝の準備を終えたリディアとエレンたちは、新たな一日の冒険に向けて宿屋を後にした。ギルドへの足音が響く中、「では、昨日と同じく、薬草集めとゴブリン退治ですね。今日はちょっと工夫してみましょうか。」とリディアが提案し、エレンたちも頷く。




「薬草はリディアにお任せして、私たちはゴブリン退治に専念しましょう。エスガルドの城門前で2の刻に集合ですわ。」エレンが計画をまとめ、一同は同意した。




 城門を出ると、彼らはすぐに2つのグループに分かれ、それぞれの任務に向かった。




 ▼リディア視点


 リディアが森の葉陰を進んでいくと、彼の足が突然止まった。周囲は静寂に包まれ、唯一聞こえるのは遠くの小川のせせらぎと、彼の落ち着いた呼吸だけだった。彼は右手を軽く振り、身につけていた特別なアクセサリーに目を落とし、ソフトに話しかけた。「ルーク、お前の出番だ。」


 アクセサリーからはまるで応えるかのように、ゴットスライムのルークが「スルルッ」という満足げな音を立てて姿を現した。彼の姿は透明な粘液でできており、光を受けてきらめいている。「主様。何をする?」と、ルークが尋ねた。


 リディアは指示を出した。「ルーク。薬草の群生地を探して回収してきてくれ!」ルークは快く「わかった」と答え、周囲を慎重に探り始めた。


 一方、サクラに向けてリディアは別の命令を下す。「サクラ、魔物を探して倒してくれ。」サクラからは元気いっぱいの「ジュラ~♪」という鳴き声が返ってきた。その声は、森の中で一際明るく響き渡る。


 ルークはその独特の能力を使って、短時間で薬草の群生地を発見し、彼の体内に一つずつ丁寧に保管していった。彼の動きは素早く、そして確実に薬草を集めていく。


 その間に、サクラは身軽に森を駆け巡り、一角ウサギやウルフなどの魔物に遭遇するたびに、迅速かつ効果的に狩りを行っていく。彼女の狩りは、まるで自然の一部であるかのようにスムーズで、魔物たちも彼女の前では瞬く間に力を失う。


 リディアは、ルークとサクラの協力を背にして、任務を着実に進めていく。




 ▼エレン達視点

 森の深く、薄暗い道をエレン、フェン、そしてセバスが進んでいく。その足取りは軽やかで、彼らの間には戦いの前の緊張よりも、仲間との絆と楽しみが満ち溢れていた。


 エレンが優雅に笑みを浮かべながら言った。「リディアさんなら一人でも、ゴブリンなんて朝飯前よね。」その言葉にフェンが軽く跳ねるように応じ、「にゃはは!ゴブリンスレイヤー様ですにゃ!」と茶化す。


 セバスは彼女たちの言葉に微笑みを返しながら、剣を手に固く握りしめた。「しかし、私たちだけでも十分強い。今日はリディアさん抜きでその実力を証明しましょう。」



 彼らが森の中を進むと、ゴブリンの群れに遭遇した。ゴブリンたちは一見して脅威には見えなかったが、油断は禁物。エレンは杖を構え、「私たちも負けてはいられませんわ。全力でいきましょう!」と声を上げる。



 フェンはその言葉を受け、「にゃっ!この勢いならもっと行けるにゃ!」と興奮を隠せず、その小さな体から繰り出される鮮やかな動きでゴブリンを一匹また一匹と倒していった。セバスも、盾を前に押し出しながら、的確な一撃でゴブリンたちを圧倒していく。



 彼らの戦いは、まるで練習されたダンスのように流れるようで、ゴブリンたちには全く歯が立たなかった。「ドスッ!」「ガシャン!」という効果音と共に、ゴブリンたちが次々と倒れていく中、エレンたちの息ぴったりのチームワークが光っていた。



 10匹ほどのゴブリンを倒した後、彼らは一息つきながら、今の戦いを振り返った。エレンが「リディアさんにも負けない素晴らしい戦いでしたわ」と満足げに言うと、フェンとセバスもうなずき合い、「リディアさんがいてもいなくても、私たちは強い!」と改めてその絆を確認し合った。




 夕暮れが迫る中、エスガルドの城門前に向かうリディアの足取りは軽やかだった。時計塔の針が2の刻を指し示す間際、彼の目には既に到着して待っているエレンたちの姿が映った。「おお!」と声を上げながら、リディアは大きく手を振る。遠くからでもその勢いが伝わるような、力強い振り方だった。




「遅れてごめん!」リディアが駆け寄ると、エレンは優雅に微笑んで返事をした。「お待ちしておりましたわ。」フェンとセバスもにっこりと笑みを浮かべた。




 一行は冒険者ギルドへの道を共に歩き始めた。ギルドの扉を押し開ける際の「ガチャリ」という音が、彼らの成功を告げるようだった。




 ギルドの中は活気に満ちており、彼らは討伐した部位、魔石、そして薬草をカウンターに提出した。「今日の収穫です。」リディアが堂々と報告すると、受付嬢はそれらを一つ一つ丁寧に確認し始めた。




 薬草の価格は銀貨10枚とされ、ゴブリン討伐には銀貨100枚、すなわち金貨1枚が支払われることになった。「これは立派な成果ですね!」と受付嬢が賞賛の言葉をかける中、ゴブリンの部位を詳しく見ると、彼女の表情が一変した。




「これは…レッドキャップとホブゴブリンの部位が混ざっていますね?」彼女が驚きの声を上げると、周囲の空気が一瞬で緊張に包まれた。「少々お待ちください。これはギルドマスターに報告しなければ…」と言い残し、彼女は「たたたたっ」と急ぎ足で奥の部屋へと向かった。




 ギルドの深奥から、ゆっくりとした堂々たる足音が響き渡り、「コツコツ…」という重厚な響きが一行の緊張感を高めた。扉が開くと、ギルドマスターの威厳ある姿が現れる。その一瞬、ギルド内のざわめきが静まり、空気が一層引き締まったように感じられた。




 ギルドマスターは落ち着いた声で話し始めた。「私の耳に入った情報によると、お前たちがレッドキャップとホブゴブリンも含めたゴブリンの集落を討伐したそうだな?」




 リディアは直立して、はっきりと答えた。「ええ、事実です。ただ、ゴブリンがあまりにも弱すぎて、種類の違いに気づかなかったのが実情です。」彼の声にはわずかな苦笑いが混じり、心の中ではサクラと共に戦ったことを回想していた。その詳細はギルドに伝えていなかったが、サクラがいることで戦いがどれだけ影響を受けていたかを、リディア自身が痛感していたのだ。




 このやりとりの間、ギルド内には一時的に静寂が訪れ、「シーン…」とした緊張感が漂った。リディアの回答を聞いたギルドマスターは、一瞬考え込むように顎に手を当てた後、深い理解を示すように頷いた。






 ギルドマスターがリディアたちの前に立つと、その大柄な体躯からは元金級冒険者の風格が漂っていた。彼は少し声を低めて、ゴブリンの問題について話し始めた。




「聞いてくれ、ゴブリンってのはな、一匹や二匹じゃたいした脅威じゃない。だがな、それらが群れをなして組織的に動き出すと、話は変わってくる。放っておけば、いずれはゴブリンキングなんて大物まで現れかねない。そうなっちまったら、こっちとしても緊急提案を打ち出さざるを得なくなる。全地域にとって厄介な問題に発展するんだ。」




 彼は一息ついて、目の前の一行をじっと見つめた。「まぁ、お前らがモンターニャの森を潜り抜けてこられるくらいの実力があるんだったら、実力は問題ないはずだ。」




「今回のお前らの活躍、しっかり判断させていただく。ここでお前らを2つランクアップさせて鉄級に昇格させることにする。」ギルドマスターのこの宣言は、力強く、そして何よりもリディアたちへの信頼と期待を示していた。




 ギルド内はその瞬間、沸き返った。「おおっ!」という歓声が響き、拍手が彼らの新たなスタートを祝福した。リディアたちは、ギルドマスターの男らしくも温かい言葉を胸に、これからの冒険に対する意気込みを新たにしたのだった。

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