第18話 城塞都市
第18話 城塞都市
朝露が葉を濡らす静かな森の中、一行は、エスガルドへ向かっていた。しかし、その平和は突如として破られる。
「ザザザザッ!」という音と共に、地面が揺れ、4匹の軍隊蟻が現れた。
リディアが即座に指示を出す。「エレン、セバス、フェン、この1匹はお願いする!サクラと僕で残りを処理するよ!」
リディアとサクラは迅速に行動に移った。「スタンプ!」リディアが大地を沼地に変え、3匹の蟻を泥に閉じ込める。「ドッドッ!」と魔法弾が3匹に直撃し、さらに「ガガガガガガ!」と魔法弾ガトリングで追撃。サクラも「シャドウヴェノムストーム!」と毒の嵐を巻き起こし、3匹はたちまち倒された。
残った1匹に対し、セバスが挑む。「タウント!」と強力に挑発し、「おい、こっちを向け!」と叫ぶ。
蟻の注目がセバスに集中したその瞬間、フェンが身体を強化し、「にゃっ!」と素早い攻撃で蟻にダメージを与える。しかし、蟻の反撃も激しく、セバスは予想外のダメージを受けてしまう。
エレンがすかさず反応し、「ヒール!」と淡い緑色に輝く手でセバスの傷を癒やす。「大丈夫、セバス!もう一度、引きつけて!」とエレンが声をかけると、セバスは再び「タウント!」と挑発し、蟻の注意を引く。
フェンの次の攻撃が蟻の急所を捉え、「にゃーっ!」という雄叫びと共に蟻は地に倒れた。「よし、これで終わりだ!」リディアが蟻の遺体をアイテムボックスにしまう。
フェンがリディアに感心しながら言った。「なんて便利なアイテムボックス!リディア、すごいにゃ!」と褒めちぎる。
軍隊蟻との戦いが終わり、森の中の静けさが戻ってくる。リディア、エレン、フェン、セバス、そしてサクラは一息つきながら、再びエスガルドへの道を歩き始める。
エレンが不意にリディアを見て、「リディア、あなたのレベルはいくつなの?」と尋ねた。その質問に、フェンとセバスも興味津々の表情を浮かべる。
リディアは少し考えた後、「うーん、実は…90かな?」と控えめに答えた。その数字に、3人は目を丸くした。
「えっ、90って…!」エレンが驚きの声を上げる。「セバスが元騎士団長でレベル60なのに、リディアさん、あなたは規格外です!」
セバスがうなずき、「確かに、リディアは私たちとは一線を画している。しかし、それが彼の真の力だ。冒険者登録の時は、レベル30くらいで登録するのが賢明だろう。」と冷静に提案する。
フェンも「にゃー、リディアってば、すごすぎるにゃ!」と感心しきり。
その時、彼らが歩く道が徐々に明るくなり始め、木々が少なくなってきたことに気づく。森を抜けると、広大な平原が広がっていた。遠くの地平線には、エスガルドの壮大な姿が見えてきた。
「あれがエスガルドだ!」リディアが指さし、エレンは「日が落ちる前に着こう」と言って、皆の足取りが自然と速くなる。
サクラも「ジュラ…」と小さな声で鳴き、リディアの右手に小さくなって巻きついた。バジリスクの姿では注目されすぎるためだ。
彼らは足早に進み、ついにエスガルドの壁高くそびえる門前に到着した。城塞都市らしく、周囲は高い壁で囲まれ、その迫力に圧倒される。
門番の前に並ぶ彼らの表情は、一抹の緊張と冒険への期待で満たされている。
リディアが口を開く。「こんにちは、我々は遠くの村から冒険者になるためエスガルドにやってきました。入城を許可していただけますか?」
門番は鋭い眼差しで彼らを一人ひとり観察し、「冒険者か。では、この水晶に触れてみろ。犯罪歴があるかどうか確認する。」と一つの輝く水晶を指差した。その時、リディアの心の中でノエルが話し始めた。
「マスター、水晶の検査は良くある手続きです。」
リディアは心でノエルに感謝し、躊躇することなく水晶に手を伸ばし、触れると水晶は白い光を放った。「異世界あるあるだな・・・」とリディアは内心で思う。
門番がうなずき、「よし、犯罪歴はないな。エスガルドへの入城を許可する。だが、この町の身分証を取得するように。」とアドバイスをくれた。
エレンが「ありがとうございます。身分証の取得方法は?」と尋ねると、門番は「町の中央にある冒険者ギルドで手続きができる。そこで全ての情報を教えてくれるだろう。」と教えてくれた。
門番の視線がサクラに移る。「それにしても、その小動物は何だ?」と疑問を投げかける。リディアが即座に答える。「これはサクラ、私の従魔です。害はありません。」
一行は門番に礼を言って、エスガルドの内部へと足を踏み入れた。彼らの目の前に広がるのは、新たな冒険への扉だった。
エスガルドの内部は、彼らが想像していたよりも活気に満ちていた。市場では様々な品物が売られ、人々の声が賑やかに響き渡っている。リディアは、この新しい世界の一部になれることにわくわくしながらも、彼らの即座の課題は宿屋を見つけることだった。
午後過ぎ、一行はセバスの案内で『夕暮れの宿』へと足を運んだ。セバスは宿屋の主人と受付の若い女性に対して礼儀正しく話しかけた。
リディアは、後ろを歩きながら内心で考える。「金がない…。これはどうしよう…」と。リディアは静かにエレンに耳打ちする。「えっと、実は…お金を持っていなくて…」。エレンは少し驚いた顔をした後、笑顔で「心配しないで、リディア。私が払うわ」と答えた。
「私たち、夕ご飯付きで2部屋をお願いしたいのですが」とセバスが静かに言い、受付の女性に向けて微笑みを浮かべた。
宿屋の主人が嬉しそうに応答した。「夕ご飯付きですと、一部屋銀貨5枚になりますよ。素泊まりだと4枚です。どちらになさいますか?」
セバスはエレンの方をちらりと見た後、「夕ご飯付きで、2部屋を10日お願いします。長旅の後ですから、皆、きちんとした食事が必要でしょう」と丁寧に答え、財布から適切な金額の銀貨を取り出して支払った。
「ありがとうございます。そこの階段を上がって右手の一番奥の部屋とその手前の部屋が皆さんのお部屋になります」と宿屋の主人が案内してくれた。「お食事は、こちらの食堂で7の刻の鐘がなるまでにいらしてくださいね。今夜は特別な料理を用意しておりますよ。」
その時、受付の奥から10歳くらいの元気な男の子が駆け寄ってきて、「僕がお部屋まで案内するよ!」と言いながら先頭を切った。彼は階段を上がり、丁寧にそれぞれの部屋を指し示してくれた。
リディアはエレンに感謝を表しながらも、「早く魔石を交換してお金を返したい」と内心で決意を新たにした。
宿屋も確保できたし、食事まで少し時間も早いため、冒険者ギルドへ行くことにする。午後過ぎに一行は冒険者ギルドに到着した。大きな扉を押し開けると、ガラガラとした静かなホールが彼らを迎えた。
昼過ぎの静けさの中、一行は冒険者ギルドに足を踏み入れた。時間帯が時間帯だけに、ギルド内はほとんど人がおらず、彼らの足音だけが、木でできた床に反響してカツカツと響き渡った。その音が、まるで新たな始まりを告げる鐘のように、静寂を切り裂いた。
受付には、二人の受付嬢がいて、彼らの姿に気づくとすぐに対応の準備を始めた。セバスが彼女たちの前に進み出て、礼儀正しく言葉を交わす。「私たち全員で冒険者登録を希望しています。どのように進めればよろしいでしょうか?」
受付嬢は一行に、魔力を感知する水晶に手を置くよう指示した。リディアは、内心で危機感を覚えた。
やばい!やばい!やばい!
レベルを30にしてから、スキルは風と土以外は全て隠蔽せねば。
ノエル任せた!!「承知しました。マスタ~♪ おまかせください」
ノエルがリディアのステータスを瞬時に調整した。
マジでノエル様最高です。
しかし、リディアはすぐに現実の問題に直面した。ただ、目立ちすぎるのも問題だ。森で手に入れた魔石や魔物の部位も、ランクが上がるまでは売却できないな。当分の間、エレンたちには借りが増えるばかりだ…。
セバスから始まり、フェンと順番に水晶に触り登録されていった。リディアの番が来たとき、受付嬢は彼のイケメンぶりに思わず見とれてしまい、「あの…、こちらに手を置いていただけますか?」と赤面しながら頼んだ。
リディアが水晶に手を置く瞬間、周囲は静まり返り、ピピッという電子音のような効果音が鳴り響いた。「見習いスタート、ですね。銅級に昇格すると、より刺激的な討伐依頼が待っていますよ。この世界でミスリル級の冒険者はたったの5名、金級も稀です。皆様の努力次第で、星空のように遠いその頂を目指せます」と、受付嬢がギルドの階級システムを説明し、その声にはやや夢見るようなトーンが混じっていた。
冒険者のシステムは、
「見習い」→「銅級」→「鉄級」→「銀級」→「金級」→「ミスリル級」
という感じでランク分けされているようだ。
登録の際、それぞれ薄いタブレットに名前を書き込み、チーンという明るい音と共に、カードサイズの冒険者IDを受け取った。このプロセスには、一人頭銀貨1枚が必要で、リディアは再びエレンの財布に手を出す羽目に。「ああ、これでまたエレンに貸しを作っちゃったよ…」と、リディアは半ばあきらめ気味につぶやいた。
受付嬢の様子を見たフェンは、逃さずに「おーい、リディア。受付のお姉さん、顔が赤くなってたにゃ。君のイケメンオーラにやられたみたいにゃ!!」とクスクス笑いながら茶化した。その言葉に、受付嬢はさらに顔を真っ赤にしてしまい、リディアは恥ずかしそうに頭をかいた。
リディアはフェンに向かって苦笑いを浮かべつつ、「フェン、そのネタはもう十分だよ…」と言いながらも、新しい冒険に向けたワクワク感を隠せなかった。一行は新たな冒険者IDを手に、これからの冒険に胸を躍らせながらギルドを後にした。
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