第17話 アイテムボックス
第17話 アイテムボックス
リディアたち一行は、グラン王国の「エスガルド」を目指し、密林を抜ける旅を続けていた。
木々が空を覆い隠し、日差しはほんのわずかしか地面に届かない。
疲労感が漂う中、リディアたちは森の一角に開けた場所を見つけ、ようやく重い足を休めることができた。
「さあ、ここで休憩しよう。」
リディアが提案すると、みんなは安堵の息をついた。
「ついでに食事にしよう。サクラ、周りの警戒を頼む」
「ジュラ~♪」
サクラが、警戒を始めたので、リディアは右手を上げ、集中した様子で「アイテムボックス」と小声で呟いた。
その瞬間、「シュワッ」という軽やかな音と共に、彼の手元に小さな黒い穴が現れる。不思議な光景に一行は息をのんだ。
リディアは穏やかな表情でその穴に手を突っ込み、ブワッという音と共に、その穴から肉を取り出す。この行動に、周囲は驚愕の声を上げた。
「「「まさか!?それはアイテムボックス??」」」
一行の反応に、リディアは少し驚いたように首を傾げる。
「あれ?そんなに貴重なスキルだったりする?」
「そうにゃ。そのスキル所持者は帝国でも数人程度しかいないにゃ」
エレンも感嘆の声を上げる。「まさか、こんなにも便利なスキルをお持ちだったなんて…」彼女は感心した表情でリディアを見つめた。
「さて、みんなでこれを味わおう。」
リディアがそう宣言し、アイテムボックスから取り出した新鮮な肉を木の棒に刺し、焚き火の上に丁寧に置く。
静かな森の中で、「パチパチ」という肉が焼ける音が心地よく響き渡り、一行は自然と笑顔になる。彼らは協力して食事の準備を進め、久しぶりに心からの笑い声が森に広がる。
リディアが焼けた肉に塩を振りかけながら、フェンに目を向けて言った。
「フェン、これ試してみな。塩とハーブをちょっと振っただけで、こんなにも味が変わるんだよ。」
フェンは興味津々で近づき、「にゃ?、本当にそんなに違うのかにゃ?」と疑問を口にするが、一口食べるとその表情がパッと明るくなる。
!?「これは…うますぎるにゃ!」
彼女は目を輝かせ、リディアに感謝の言葉を述べる。
「リディア、天才にゃ!」
「私もいただきますわ。」
と言いながらエレンも肉に手を伸ばし、一口味わう。
「これは…!」彼女の目が輝き、「宮廷の料理と同じような味ですわ!」と歓喜の声を上げる。
「エレン様。この美味しさは共有すべきですね。」とセバスは言いながら、自らも料理を手伝い始める。「シュッ、シュッ」とナイフで肉を切り分ける音が、彼らの楽しい会話に混じる。
サクラも「ジュラジュラ〜!」と喜びの声を上げ、まるで料理の香りを楽しんでいるかのよう。
笑い声と楽しい会話が絶えず、焚き火の周りは温かい雰囲気に包まれる。
「ははは!」とリディアが笑い、「みんな、こんなに美味しい肉を食べられるなんて、かなりラッキーだったかな。」
食事の準備が進む中、一行の絆はさらに深まり、彼らの旅の一コマが楽しい思い出として刻まれていく。薪の「パチパチ」という音と、仲間たちの笑顔が融合し、夜の森に温かな光を灯すのだった。
リディアは、焚き火のゆらめく炎を見つめながら、サクラとの出会いについて話し始めた。一同は静かに彼の言葉に耳を傾ける。
「サクラとの出会いは、まさに運命だったんだ。僕がサクラに出会ったのは、彼女が何者かに深い傷を負わされ、弱っているところだった。その時は、ただの大蛇で、体長は3メートルほどだったんだけど、その瞳には不屈の光が宿っていたんだ。」
リディアはサクラを見つけた時のことを思い出す。「彼女をそのままにするわけにはいかなくてね。僕の回復魔法で彼女の傷を癒やしたんだ。それがきっかけで、サクラは僕の従魔となり、共に旅をすることになった。」
「始めは、3メートル程度の蛇だった。だけど、サクラは一生懸命にレベルアップを重ね、そしてある日、見事な白蛇に進化したんだ。その姿は、まるで薄いピンクの光を纏うかのようだった。そしてさらに修行を続けた結果、ついにバジリスクへと進化を遂げた。今や彼女は、その圧倒的な力と美しさで周囲を圧倒する存在になっている。」
リディアの声には誇りが溢れている。
「ジュラ~♪」
「その後、僕たちは数え切れないほどの戦いを共にした。どんなに強大な敵に立ち向かう時も、サクラはいつも僕のそばで戦ってくれた。サクラの勇敢さには、何度も助けられたよ。」
リディアは一時、言葉を失うかのように沈黙し、そして深く息を吸い込んだ。
「サクラとの出会いは僕の人生を変えた。彼女はただの従魔じゃない、僕にとってはかけがえのない友だ。」
サクラは「ジュラジュラ〜♪」と嬉しそうだ。
リディアの話が一段落すると、夜の空気は一層冷え込み、焚き火の周りに集まった一行の間には、暖かい光が優しく揺れていた。
その穏やかな空気の中で、エレンがゆっくりと声を上げた。
「私たちの声も、お聞きいただけないでしょうか?」エレンの話し方は優しく、その眼差しには強い意志が映っていた。周囲の人々は彼女に目を向け、静かに彼女の言葉を待った。
「私の正式な名前はエレン・アズーラ・シエロニア・セレスティーナ、シエロ帝国の第3皇女です。我が父、皇帝は長年にわたり、人間を優遇する政策を推し進めてきました。その結果、獣人たちが苦難を強いられている様子を、私は幼いころから目の当たりにしてきました。」エレンは話の途中で一時、フェンの方を見つめる。フェンからは、励ますような笑顔が返ってきた。
「フェンは、私がこの世に生まれた時からの親友です。彼女は獣人ですが、私にとっては実の家族同様です。だが、父の政策は数多くの獣人を迫害しています。これは明らかに誤りだと、私は父に何度も伝えました。」
この時、セバスが静かに言葉を続ける。「その都度、エレン様は皇帝陛下との間に、深い隔たりを作ってしまったのです。」
「そして、私の立場は次第に危うくなっていきました。何度か暗殺の危機にさらされたこともあります。」エレンの声にはほのかな震えがあった。
「その時、私はセバスとフェンに命を救われました。彼らのおかげで、私はここにいます。」エレンはセバスとフェンを見つめ、深い感謝の意を示した。
フェンがにっこり笑って言った。「エレンが危ないってなったら、フェン、何度だって駆けつけるにゃ!」
セバスもうなずきながら加えた。「私の命はエレン様のもの。どんな困難も共に乗り越えましょう。」
エレンは優しく笑い、「皆さんと出会えたこと、そしてこうして共にいられることが、私にとって何よりの力です。この旅は困難かもしれませんが、皆さんと一緒なら、どんなことも乗り越えられると信じています。」
一同はエレンの言葉に心を打たれ、彼女を支えることを改めて誓った。この夜、彼らの絆はさらに深まり、それぞれの心には新たな決意が芽生えていた。エレンの物語は、一行にとって勇気と希望の源となり、共に進む未来への道を照らす光となったのだった。
リディアは、キャンプファイアの炎を見つめながら、仲間たちに声をかけた。「みんな、街に入る前に、ちゃんとした設定を考えておく必要がある。エレンの正体は秘密にしておかないといけないし、4人でのパーティの設定が必要だ。」
エレンは首を傾げ、「確かに、私の立場がばれたら面倒なことになるわ。冒険者としてのカバーストーリーが必要ね。」と考え込む。
フェンはわくわくして提案した。「にゃ、私たち、ただの冒険者グループになるのはどうにゃ?森を探索する探検家って感じでにゃ!」
セバスは「それは良い考えだ。しかし、我々の役割分担もはっきりさせておく必要がある。不審に思われないように、それぞれのバックグラウンドも練っておこう。」と付け加える。
サクラが「ジュラ~」と一言。リディアが翻訳して、「サクラは自分がペットか何かだと思われたくないって言ってるよ。」と笑いながら話した。
「サクラ、僕の右腕に巻き付いておいて!」リディアが言うと、サクラはその言葉に応じて、自身の大きさを自在に変え始めた。通常は10メートルもの巨大な姿を持つサクラだが、彼女は一瞬で縮小し、リディアの右腕にしっかりと巻き付く小さな姿になった。その姿は、あたかもリディアを守るための護符のようで、サクラの力と意志を感じさせるものだった。
エレンが提案する。「じゃあ、リディアは魔法使いで、セバスはタンク、フェンはスカウト、わたくしは、プリーストにします」
フェンがにっこりと「にゃ、そしてサクラは私たちの可愛いマスコットにゃ!」と笑った。
リディアは「それじゃあ、明日エスガルドへ向かって、冒険者として登録する。この王国の森に一番近い城塞都市で、新しい情報も集められるし、冒険もたくさん待ってる!」と意気込む。
エレンは「エスガルド…新しいスタートね。わくわくするわ。」と目を輝かせる。
セバスが「しかし、長い夜になりそうだ。準備は万全に。」と静かに言った。
全員がキャンプファイアを囲みながら、彼らの新たな冒険に向けての計画を練る。笑い声と楽しい話で、夜は更けていった。
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