介護に疲れた人間は、この国ではPー、もしくは異世界に転生するしかありません。
宮藤才
第1話
自分がどんな環境にいるかなんていうことを皆に伝えたところで大した意味は無い。
結局のところ、そういったものは不幸自慢のように聞こえてしまったりもするし、近しい人間からすれば自分に対する当てつけと捉えられかねない。それに何より人間と言うものは他人事と言うのはどこまで行ってもやっぱり他人事なのだ。
例えば、僕が命にかかわる重大な不幸を背負っていたとしても、ある人にとっては大事に飼っているペットの不調への心配の方が勝る。もっと言ってしまえば、毎年、日本人20,000人がジシしていると言う現実よりも、納期までに上がるか上がらないか分からない仕事の方が大事だったりするわけだ。
これは当然誰かが良いとか悪いとか前とか後ろって言う話ではなくそういうものなのだ。こういった例えはいくらでも出すことができるけれど、下手をすると国の不都合な真実に触れかねないので、これ以上はやめておく。
つまりは究極のところ、自分のことは自分で解決する以外に術はない。
と言うわけで、僕はこの数年前向きにこの世を去る手段を探している。
対人関係という点で思い返してみれば、特に僕に対して居なくなって困ると言う人はいないのだが、まぁ唯一心配なのはその時に父を誰が見てくれるかと言う点だ。
さすがに兄姉の誰かがそこは引き受けてくれると思う。逆説的ではあるが、そのためには僕が消えるしかないと言う現実もある。残った兄姉はおそらく僕の手持ちのもので金目の物は全て売り払うだろう。おそらく実家も売却してそのお金で父をホームに入れ、残りは二人の自分たちの借金に充てるに違いない。
自分が世を去った後の事なら気にしないでも良いのではと思うかもしれないが、正直そこに関しては悔しさが残る。
今もこの先も希望は無いわけだから、このままズルズルとこの状況が続いて、ただただ時を重ね、いつか来る父を見送る日を見届けるのも辛いし、僕自身歳を取って身動きが取れなくなり(金銭的にも物理的にも)どうしようもなくなる姿と言うのは考えたくもない。まぁ平たく言っても、僕は絶望していると言えるだろう。
だからといって、僕が誰にも助けを求めなかったわけではない。現に僕には兄姉がいるし、友人もいる。世の声としては、最大限助けてもらえるものは助けてもらうべきだし、それが成功の秘訣だとまでモノの本には書いてある。
しかし実際はどうだ? 親ガチャ子ガチャなんていう言葉はあるが、そういったガチャは世の中にはいくらでもある。富めるものはますます裕福にそうでないものはますますそうではないものになるのは皆知っているが、なぜか認めたがらない。
まさにそれが不都合な真実と言う奴だ。
当たり前だが何一つ不自由なく育ち、そして当たり前のように成功してきた人間が『そうはいかなかった』人間に対し理解を示せるだろうか。大抵の場合は努力が足りない、自分から動かなかったから、意識が低い、まぁなんとだって言えるワケで。これに関してはどちらのE分も正しいと思う。人間は結局与えられた立場からしかモノが見えない。
有名な実験、囚人と看守の例を見れば明らかな様に、囚人の役を与えられば、囚人のように振るまうし、看守になれば、看守のように振るまう。
交差点の真ん中で大の字になってそんなことを考えた。
それにしてもずいぶん長い信号だ。さっきからずっと青だ
なんだかひどく寒いな。
あれ? ああ、そういうことか。
うまく助けられたかな。
結果としては「身を挺して子供を助けた美談」だが、良いしに場所を得たのは僕の方だ。僕の自己都合に付き合わせただけだ。
まあ、感謝される筋合いの話しでもない。
「そうでもないぞ」
あれ。
誰だ? 頭と耳、どちらかがおかしくなった?
ああ、多分ストレス性の突発性難聴みたいなものか? その逆に幻聴が聞こえるというのもあるのかも。
「イエスでありノーだ」
あれ?
【つづく】
介護に疲れた人間は、この国ではPー、もしくは異世界に転生するしかありません。 宮藤才 @hattori2525
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