第7話 発熱、喉の痛み

「次の方、どうぞ」


「あ……キミか……」


「キミが私の外来に来るなんて、何か月ぶりだろうね……」


「というか、体調が悪いんだったら、電話でもLINEでも相談してくればよかったのに……」


「え? プライベートで仕事に関係する話は迷惑だと思ったって……ありがとう、気を使ってもらって。でも、そんな遠慮は無用だよ。その……知らない仲じゃないんだからさ……」


「あ、そういえば、この前はありがとう。キミが連れて行ってくれるお店はいつも美味しいね。あのときは、それでつい飲みすぎてしまった……」


「そうだね。キミもかなり飲んでいたよね。お互いかなり酔っていたから……それで、その……帰り道に、になってしまって……」


「正直言うと、それでかなり意識してしまって……あのあとずっと連絡できなかったんだ」


「この1か月、このままキミとの関係が途切れてしまったらどうしようかと、少し不安だった……」


「でも、今日、キミがここに来てくれて、キミの顔を見ることができて、ほっとしたよ」


「ああ、ごめん!! 今日は患者として来ているんだったね。それで、どんな具合なんだい?」


「え? 熱が出て、喉が痛い……そういうことは早く言ってくれ!! コロナだったらどうするんだ!?」


「え? 昨日、市販の検査キットで陰性だった……そうか。なら少し安心だけど、念のため、今、もう一度調べておこう」


「そんな嫌そうな顔をしないでくれ。どんな検査も完璧じゃない。1日後に陽性に変わるなんてのはよくあることなんだから」


「さあ、顔をこっちに向けて……はい、おわった」


「15分ほどかかるから、すまないけど、発熱患者専用の待合で待っていてくれ」




「お待たせ。やっぱり陰性だったよ」


「それじゃ、改めて診察させてもらうよ」


「まず、喉を見させてもらう。さ、口をあけて……あー、かなり赤く腫れてるな。しかも、扁桃へんとう白苔はくたいが付いてる。こりゃ、A群溶連菌だな……」


「ああ、大丈夫、心配しなくていいよ。A群溶連菌というのは扁桃炎を起こすありふれた菌なんだ。抗菌薬できちんと治療すればすぐに治るよ」


「あと、頸部のリンパ節をチェックさせてもらう。首回りを触るよ」


「あー、けっこう腫れてるねー。ん? おかしいな。後頚部のリンパ節まで腫れてる……」


「あー、ごめん。そのA群溶連菌による扁桃炎だと、首のリンパ節は前の方しか腫れない。だけど、キミのリンパ節は首の後ろの方まで腫れてる。少し妙なんだ」


「うーん……ごめん、私もまだ考えが絞り切れない。とりあえず、全身の状況を把握するために血液検査をさせてくれ」


「大丈夫だよ。何が起こってるのか必ず私が突きとめて、絶対にキミを治してみせるよ」


「え? 医者は、絶対とか100%とか言えないって言ってたじゃないかって。そうだね。普段なら言わないよ」


「でも……私とキミの仲だからね……」


「うん……キミは私にとって特別な人だ……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る