第4話 筋膜リリース
「筋膜リリースというのは、端的に言えば注射による治療だ」
「ん? なんだ、単なる痛み止めの注射かって? ふふふ、痛み止めとは根本的に全く違うものだよ。注射するのは生理食塩水、つまり塩水だ」
「塩水なんか注射して何の意味があるのかって? ことごとく予想通りの反応をしてくれるね、君は」
「極端な話、無菌であればただの水でもいいくらいなんだ。生理食塩水を使うのは、血液とほぼ同じ濃度に作られていて、人体との親和性が高いからなんだ」
「その生理食塩水を痛みの原因となっている部位の筋膜に注射し、筋膜をほぐしてあげるんだ」
「実は、昔からある鍼治療なんかも、痛みを発している筋膜をほぐすという点でほぼ同じ原理なんだ」
「筋膜性疼痛症候群という診断が正しくて、注射する部位がきちんとあたっていれば、魔法のように痛みが消える」
「……ことが多い」
「肝心なところで頼りない言い方だって? いやー、すまない。私たち医者は概して、絶対とか、100%とか言えない人種なんでね」
「私はこの筋膜リリースをもう100例以上やっているが、一発ですっと痛みが消えた患者さんはざっくり80%くらいかな」
「さて、能書きはこのくらいにして、すぐに取り掛かろう」
「ん? どうしたんだ?」
「え? 注射が怖いって?」
「いい歳した男が、何を情けないことを……」
「え? 怖いものは怖いって?」
「まったく、しょうがないなー……」
顔を近づけてきて、耳元でささやく。
「大丈夫。やるのは私だ。最初だけすこしチクリとするが、そのあとはほとんど痛みがないようにうまくやるよ。だから、私を信じてくれ……」
「やる気になってくれたかい?」
「うん、ありがとう。私を信じてくれて……」
「さあ、今度こそ取り掛かろう!!」
立ち上がって、診察室の外にいる看護師に必要な薬と機材を指示をだす。
「もう一度上の服を脱いで、そこの処置台に横になてくれ」
「そう、うつ伏せで、背中を上に向けて」
看護師が診察室の外から超音波検査機を、キャスターを引いて持ってくる。
「生理食塩水を注入する細い位置は、この超音波の機械で探り当てる」
「超音波を使うから、正式な名称はエコーガイド下筋膜リリースと言うんだ」
看護師がさらに生理食塩水の入った注射器とアルコール綿を持ってくる。
「準備は整った。始めようか!!」
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