第3話 筋膜性疼痛症候群

「聞いたことないっていう顔だね。大丈夫、そんなに怖がらなくていいよ。世間一般にあまり知られていないだけで、よくあるものなんだ。別に恐い病気じゃない」


「筋膜性疼痛症候群というのは、筋肉を包む膜――筋膜に炎症や損傷が発生し、慢性的な痛みが生じる疾患だ。肩こりやぎっくり腰なんかも、実はこの筋膜性疼痛症候群の一種だと言われている」


「仕事や運動などで、同じ部位の筋肉を過度に、あるいは不自然に使用することで発生する」


「そんな身近な病態であるにもかかわらず、筋膜性疼痛症候群という名前は一般にはあまり知られていないし、医者でも知らない人が少なくない。命に影響がない軽症の病気というのは、得てしてスポットを浴びにくいからね」


「さらにレントゲンやCT、血液検査ではまったく異常がなくて、長い間つかみどころがなかった。だけど、超音波検査機器の発達により、筋膜の癒着や重積が観察されるようになり、最近ようやく注目されるようになってきたというわけさ」


「だから、キミがここに来る前にかかった内科や整形外科の先生たちは、筋膜性疼痛症候群を知らないか、知っていても意識していなくて鑑別に上がってこなかったんだろう」


「そう怒らないでやってくれ、彼らは彼らで、自分の専門領域をカバーするための知識や技術を維持するだけで精一杯なのさ」


「そこで、私のような医者の出番だ。他の診療科がカバーできない疾患、見落とされやすい疾患、そういったモノを残さず拾って、患者さんを助けるのが、総合診療科の仕事なのさ」


「ん? どうした? 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして……」


「え? お前、本当にあのどんくさかった吉田かって?」


「キミは、本当に失礼だな……」


「『男子、三日会わざれば刮目して見よ』というだろ? 昔の私のままだと思わないでくれよ」


「え? お前は女子だろって……いや、そういう話じゃないだろ!?」


「もういい!! 治療の話に移ろう!!」


「筋膜性疼痛症候群のミクロな病態はまだまだ解明されていないが、炎症の要素もあると言われているので、消炎鎮痛剤――いわゆる痛み止めの薬や湿布でもある程度効く」


「だが、痛みを発している筋膜に直接アプローチし、魔法のように痛みを除去する必殺の治療法があるのさ!!」


「え、治療法なのに、しちゃダメだろって? まったく、キミの揚げ足取りは本当に鬱陶しいことこの上ないな……」


「わかった、わかった。!!これでどうだ」


「よし、OK。では、その内容を教えよう」


「その名も、“筋膜リリース”だ!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る