第2話 身体診察

「ん? どうしたの? 早く脱いでよ」


「え? いや、別に変な意味じゃないよ!! 上脱いでくれないと診察できないだろ!!」


「え? 同級生の女子の前で脱ぐのは恥ずかしい? 何を童貞の男子高校生みたいなことを……」


「え? もう男子高校生ではないけど、どうて……いや、そんなことカミングアウトしないでくれ!!」


「もう、診察が進まないから早く脱いで!! 私は医者なんだから、保健の先生に見られるのと同じと思えばいいだろ!!」


「まったく……恥ずかしいのはこっちのほうだよ……同級生の男子を診察するなんて……」


「な、なんでもない!! ちょっとした独り言だよ!!」


「……うーん、外表上は何もなさそうだね。痛みが出始めたときに、赤い発疹が出たりとかはなかった?」


「そう……じゃあ、帯状疱疹後神経痛とかじゃなさそうだね」


「次は、音、聴かせてね」


「呼吸音左右差なし、肺雑音も心雑音もなし。胸膜摩擦音や心膜摩擦音もなしと……」


「次、軽く叩くよ」


トントン、トントン、トントン……


「清音で、特に左右差もなしと」


「次、触診していくね。痛みの原因として肋骨骨折も候補に上がるから、肋骨はかなり入念に触るよ。痛かったら言ってね」


「こら、くすぐったがらないで!! 大事な診察なんだから!!」


「うん、触診上は肋骨の変形はなさそうね。わかりにくい骨折もあるから最終的には骨条件でCT撮ってみないといけないけど」


「あ、そうなの……よその内科でCTは撮ったんだ。で、何も無いっていわれたんだね?」


「うーん、自分の目で見たわけじゃないから何とも言えないけど、たぶん気胸とか、肋骨骨折とか、見てすぐわかる所見はなかったんだろうね。そこのCT取り寄せて確認するのが一番いいんだけど、画像のCD-ROM作って送ってもらうと時間かかるからねー」


「あとで頼んでおくけど、とりあえずもうちょっと診察続けるね」


「で、一番肝心なことなんだけど、痛む場所ははっきりとわかる? ある程度範囲はあると思うんだけど、痛みの中心みたいな……」


「ほんと!? どのあたり? うん、うん……この肩甲骨の真下あたりだね?」


「ごめん、ちょっと押すよ……あぁっ、ごめんっ、痛かったね!?」


「でも、かなり重要な情報が得られたよ」


「痛みは大きく分けて、体性痛と内臓痛にわけられるんだ。体性痛というのは皮膚や筋肉、骨などからくる痛みで、痛みは鋭く、場所がはっきりしている。一方、内臓痛というのは文字通り内臓の痛みで、痛みは鈍く、場所もぼんやりしているんだ」


「キミの場合、痛みの場所がはっきりわかっているし、一点を刺激してはっきりと痛みが誘発されたから体性痛に合致する」


「体を曲げたり、ひねったりしたときに痛みが強くならないかい?」


「そうだろう。それも体性痛の特徴だ」


「さっきの身体診察と、CTで何も異常がなかったという情報から、気胸や肋骨骨折は否定的だ」


「もう敵の正体は見えたよ。キミの病名は……」


筋膜性疼痛症候群きんまくせいとうつうしょうこうぐんだ」



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