IV

 ひったくりや恐喝それに美人局などの地道な生活を続けながら、一方で密かに「運動部」の訓練もおこたりなかった。ひょんな事から足長おじさんの弱みをガッチリつかむことに成功した二人は、彼を脅迫して支配階級にコネを広げ、政界と経済界にちゃくちゃくと魔の手を伸ばしていった。

 ある日、有力者たちが集まる秘密パーティーの割引入場券を手に入れたアンは、奴隷と化したギルバートをひきつれ出かけることにした。

 一丸となって自分たちの権益を守ろうとする有力者とアンの指揮する「運動部」は真っ向から対立した。会場につくやいなや中央のビュッフェに直行し、黙々と大量のキャビア、フォアグラ、殻つきの牡蠣、それにタラバガニを食い続けるアン。やがて、そのまま帰ると見せかけ、突然司会者を襲いマイクを奪うと演説を始めた。

「世界は病んでいる。胸糞の悪くなるこの病んだ世界にカタをつけるには暴力による革命しかない。暴力により一切を破壊し、破壊し尽くし、すべてをさら地に戻して土建屋の新たな活躍を見るときが来た。というのは冗談です。(安堵の笑い。)難しいこと考えず自分だけちゃっかり生きていくのが今の流行。振付師ニジンスキーは精神病院に入る直前に貧乏人へ金を分け与えていたがこれは危険な兆候。資本と権力の側に立つものは決して貧乏人を甘やかしてはならない。特にあの、公共の空間である公園に空色のキャンプを張る浮浪者ども、彼らの姿がこれ以上増えることのないようゴミ箱に爆竹を仕掛けたり、日本の未来を担う若者たちのグループで取り囲み殴る蹴るの暴行を加えることによって警告を与えねばならない。(まばらな拍手。)彼らが生き延びるためには我々の奴隷として働くしか道がないのだということをよろしく理解していただくのだ。(ふたたび拍手。)以上で、わたくしからの簡単な挨拶とさせていただきます」

 ここでアンは密輸品のマカロフを乱射したため資本家たちの耳や鼻や指が白い絨毯の上に散らばり、まるでちらし寿司のようだったと、のちにある老政治家が親しい人物に語った。このようにアンとしてはこの胸糞悪い会合に二度と呼ばれないようベストをつくしたはずだったが、何かの手違いでまた呼ばれることとなった。そこで今度は抜かりなく、奴隷のギルバートに命じて地下の駐車場には武装した「運動部」を待機させ、精鋭の特殊工作部隊にはマスタードガスと炭素菌を準備させた。

 ところが黒のハイヤーで会場に向かう道中ものすごい渋滞に巻き込まれ、退屈しのぎにみずから考案した体操をするうちにいつしかうとうとと眠り込んでしまった。そこに過積載のダンプが突っ込んだ。忠実な奴隷のギルバートを亡くしたアンは深い悲しみに打ちひしがれ、鬱になってしまった。

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