III

 みずからの意思に逆らい踊っているようにも見える死の直前の間隔の長い周期的な痙攣のように、人や自分がみずからのコントロールを失った様子に人間は恐怖を覚える。人間は弱すぎるとアンは思う。人間には物理的にも精神的にもストッパーがあってしかもあまりにも早く限界に近づいてしまうため決して遠くへは行けない。その点、ロボットには限界もなく躊躇もない。ロボットは人間の弱さからくる反射反応的な限界を克服し、可能性を広げてくれるであろう。

 コントロールできないという点においてセックスもまた人間に恐怖を与えるようではあるがそれは単なる見せかけにすぎない。繰り返すにつれてそれは自然により管理された恐怖であることが分かる。アンも昔は鏡の前で性器を広げ、そこにぶら下がるピアスの列にみずから興奮したものだった。それは銀色のひげを生やした鼻の長い陰気なノルウェー人にも似ていた。しかし今ではホッチキスされたアワビを見るように退屈だ。この退屈な日常からなんとか逃れるすべはないものか。

「政治が悪いんだわ」

「そうかな」

 日に日に弱気になっていくギルバートにはもはや愛想がつきそうになっている自分を発見して驚くアン。まずこいつの奴隷化計画から始めようとアンは突然思いつき、急激な興奮のあまりヒイという音が口から洩れそうになるのを両手でかろうじで押しとどめた。

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