第41話 トンタル遺跡の罠

 デトニアをってから一週間後、僕達はトンタル遺跡の最寄りの町に辿り着く。ここからトンタル遺跡へは歩きで二日間の行程だ。


「調査隊の方はもう着いたんですかね? 旦那」

「どうだろ? まだ着いていないんじゃないかな?」


「レイユ君。野営に必要な物を買うんだよね? 何が必要かな?」

「雨風をしのぐのにテントが欲しいかな。それと食料」


「わかった~。ミムミム聞いてた?」

「ええ」


 僕達は地図の他に野営に必要な物資を買い、準備を整えてからトンタル遺跡へと向かう。道のりのほとんどは森の中で、方角を間違わないように気を配った。


 ◇


「今日はここら辺で野営ですかね? 旦那」


 僕達は野営をするのに良さげな空間を見つけ、そこで野営をすることにした。焚火に使えそうな枝を拾い集め、火を着け食事の準備をする。


「ミムミム、美味しそう」

「そうだね。はい、レイユ様」


「ありがとう、ミム」


 僕はミムから焼いた肉を受け取って、舌を火傷しないように慎重に口の中へと運ぶ。


「焼け具合どうですか?」

「ちょうどいいよ。美味しい」



『きゅいーー!』



(ん? 魔獣の鳴き声?)


 テレーザはその音に反応して、立ち上がった。


「レイユ君、ちょっと気になるから行ってくる」


 ◇


「きゅ、きゅ、きゅぅ」


「ギャシャシャシャ」

「ギャシャシャシャ」


 僕はテレーザの後を追い、音のした場所へ行くと、そこにはゴブリン達に囲まれたグロテスクな芋虫がいた。


『ライトニングショック!』


 テレーザがすぐさま魔法をゴブリンに向かって放つ。


『ライトニングショック!』


 ゴブリン達はこちらを見た後、分が悪いと思ったのか走って逃げていった。


「きゅぅ」


「大丈夫? 怪我してない?」


 ゴブリンを追っ払ったテレーザがその芋虫に近づく。


「きゅぅ」


「あれ? テレトワ、虫苦手なんじゃなかったっけ?」

「そうだけど、この子は何か大丈夫」


(しかしこの芋虫、すごいグロテスクだな)


 テレーザは屈み、芋虫の前に手を置く。


「ここは危ないと思うから、一緒に来ない?」


 芋虫はテレーザの手に乗り、テレーザはそれを見て立ち上がった。


「レイユ君、戻ろっか」


 ◇


「姐さん、何ですかその気持ち悪い虫」

「むぅ、失礼な。――気持ち悪くないよねぇー」


 野営場所に戻ると、テレーザはロサルの言葉に反応し、芋虫に慰めの言葉をかける。ミムを見ると表情は若干引きつっていた。メディサが興味津々に芋虫へ近づく。


「ダメよ、メディサ。この子が怯えちゃう」


「きゅぅ」


「レイユ様、先ほどのお肉――」


 僕はミムに預けていた焼いた肉を受け取り、食べ始めた。ロサルは肉を切ってメディサにあげている。


「君はお肉より葉っぱかな?」


 テレーザはそう言い、食料の野菜を取り出す。そしてそれを小さめにちぎって、芋虫に与えた。


「ねえ、レイユ君。この子の寝床ってどうしたらいいと思う?」

「うーん、虫籠があるといいんだけど」

「じゃあレイユ君、虫籠作ってよ」


 僕はテレーザからお願いされ、芋虫が入ることのできる虫籠を作ることにした。


「旦那って器用ですよね?」

「そうかな」

「そうですよ。籠を作れって言われて作っちゃうんですから」

「ああ、小さい頃からよく籠を作っていたんだ」

「そうなんですか」

「うん。学園でもたまに作ってた」


 僕は虫籠を作り終わり、テレーザに手渡す。テレーザはそれを受け取り、芋虫を中に入れた。


「ここが君のベッドね」


 僕達は野営場所で夜を過ごす。森の中の鳥の鳴き声と葉の囁く音を聞きながら。


 ◆


「あっ! レイユ君、あっちに泉があるかも!」


 翌日の早朝。トンタル遺跡へ向かい歩いていると、テレーザが泉を見つけた。


 ◇


「旦那」

「何?」

「何であっしは目隠しされて木にくくり付けられているんですかね?」

「なんとなくわかるでしょ?」

「そりゃわかりますが、そんなにあっしって信用無いんですかね?」


 泉ではミムとテレーザが水浴びをしている。彼女達は裸を見られたくないと言い、ロサルを木に括り付け、彼に目隠しをした。猿轡さるぐつわをしなかっただけ、まだマシだろう。僕は「美しい、泉と合わせ絵になるな」とミム達をしばらく眺めた。メディサは泉のへりで水に浸かり、芋虫は泉の水を飲んでいる。


「ミム、テレトワ、もうそろそろ行かない?」

「あとちょっと!」


 ◆


「着いたっぽいすね、旦那」

「うん、そうだね」


(すごいな)


 トンタル遺跡は思っていたよりも大きく、外壁にはたくさんのレリーフがあった。


「レイユ君、どうしよう……」

「ん?」


 テレーザの方を見るとテレーザが虫籠を見せてきた。


「あの子が――」


 虫籠の中には芋虫は見当たらず、そこにはさなぎがあった。


「ああ。これ芋虫が蛹になったんだよ」

「蛹?」

「芋虫って幼体なんだ。成体になるためには蛹になる必要があるんだよ」

「ああ。変態ってやつね」


 テレーザは蛹を見つめている。僕は思わずロサルを見た。


「何ですか旦那。あっしの顔に何か付いていますか?」

「いや、何でもない」


 ミムを見るとミムもロサルを見ていた。


「姐御、何かあっしの顔変ですか?」


「別に――、レイユ様そろそろ中に入りませんか?」

「うん、そうだね」


 僕はミムにそう返事をし、テレーザは腰に虫籠を着ける。僕達は遺跡の入口へ向かい、門をくぐり遺跡の中へ入った。


 ◆


「レイユ君、どこから行く?」


 遺跡の中に入ると大きな部屋があり、たくさんの通路が見えた。


「旦那、通路を間違えると罠があるかもしれませんぜ」


 確かにそうだ。遺跡調査隊が帰って来ないのも、何かのトラブルに巻き込まれたからであろう。


「よし、右から行こう」

「じゃあ、あっしが先頭になります。姐御は殿しんがりをお願いします」


 僕とロサルは通路に罠が仕掛けられてないか、慎重に確認しながら進む。途中、いくつかの分岐があり、直感で行く道を選んだ。


「わぁー。凄いねレイユ君」


 一時間ほど進んだであろうか、僕達は大きく広い部屋に出る。


「あっ!」


 テレーザが何かに気がつき部屋の中央に向かって走る。


「見て、見てぇー!」


(あっ!)


 テレーザが途中にある魔法陣の中に入ろうとしていた。僕は急いでテレーザの元へ近づき、彼女に体当たりし突き飛ばす。僕が魔法陣の中に入ると魔法陣が光だし、僕は青い光の中に包まれた。


 ◆


 青い光が消える。僕は状況を確認する為に周りを見ると、僕と同じ背の高さの大蛇がいた。


(しまった。罠で飛ばされた!)


 大蛇は僕を見つけると、僕を見つめながらこちらに向かってくる。僕は臨戦態勢になり、大蛇と相対峙した。

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