第42話 女郎蜘蛛

(どうする。ファイヤーボールかウインドカッターか。いや、攻撃を食らうとマズいからかわすことが最優先だな)


 罠にかかった僕は大蛇を見続け攻撃を待つが、攻撃してくる気配が無い。警戒したままでいると大蛇は首を動かし上を見た。


「旦那?」


(はっ?)


 大蛇に警戒しながら僕も上を見ると、そこにはデカいロサルがいた。


(ん? ん?)


「レイユ君、ごめん」


 声のした方を見ると、今度はデカいテレーザが。そしてデカいミムもいる。


(ああ。罠で飛ばされたんじゃなくて、罠で小さくなったのか)


 大蛇だと思っていたのはメディサだと気づき、「僕は小人になったのか」と現状を把握した。


「罠にかかったみたいだね」


 僕は魔法陣から出る。これからどうしようかと考えていると、ミムが僕を掴んだ。


「うわぁ!」


 ミムは僕を拾い上げ、自分の胸の谷間に押し込む。


(温かっ! あと柔らかい)


「ここが一番安全です」

「あー! ミムミムずるい!」


 僕は突然のことに戸惑ったが、このまま小人のまま動き回るよりもミムの胸の中にいた方がよい。そう考え、ミムの胸の中に留まることにした。


「しかし、こんな罠があるなんて。姐さん迂闊うかつですよ」

「うぅ。ごめん」


 テレーザは僕を見て謝る。


「テレトワしょうがないよ」

「しかしどうします? あっしはこんな罠があるならこの遺跡の中に元に戻る方法があると思うんですがね」

「あー、そうか。状態異常を解く薬があるかもしれないのか」

「デカくなる魔法陣があるかもしれませんぜ」

「そんな罠かもしれない魔法陣に入るのは賭けじゃない?」

「そうっすね旦那。困りましたねぇ」

「まあ、遺跡探索を続けた方が良さそうだね」


 僕達は先ほどよりも警戒を強め、遺跡の中を歩く。その中で状態異常を解く薬が見つかるといいのだけれど。


『うわぁぁぁ!』

『助けて!』


(なんだなんだ?)


 悲鳴が聞こえた方を向くと、見たことのある一人の男がこちらにやってきた。


(ザイル?)


「どけっ!」


 ザイルはテレーザを突き飛ばし、遺跡の出口の方へと逃げていく。


「痛ぁぁ、もう何なのよ!」


 僕は再び悲鳴が聞こえた方を見ると、そこには上半身女性で下半身が蜘蛛。女郎蜘蛛らしき魔獣が人を喰っていた。そして咀嚼そしゃくしながらこちらを見て、獲物を見つけたような目をする。


「フフフ。オンナモイルノカ、キョウハ、タイリョウノゴチソウダナ」


 女郎蜘蛛はその足を動かし、周りにいる人達を切り裂く。


(ザイルが逃げ出すってことは倒すことが難しい強敵だよな)


「逃げよう。ミム、テレトワを担いで走れる?」

「大丈夫、行けます」

「姐御、辿ってきた経路で戻りましょう」


 ミムはテレーザをお姫様だっこして走り始めた。ロサルも後ろに警戒しながら、女郎蜘蛛から逃げる。


(あー、そうか)


「旦那、思ったよりも速いですぜ!」

「とにかく大広間まで行こう!」

「なるほど――、わかりやした!」


「フフフ。ニゲラレルトデモ、オモッテイルノ?」


 僕達は必死で逃げる。


「大広間で二手に分かれればいいんですよね?」

「ロサル大丈夫?」

「大丈夫ですよ旦那。任せてください!」


 大広間に辿り着き、ロサルと二手に分かれる。そして目的の場所に移動したロサルは座り込み、その場に剣を置いた。


「フフフ、アキラメタノカイ」

「走り疲れたんだよ」


 ロサルは両手を軽く上げ、仕方がないという感じのポーズを取る。


「ソウカイ。ナラ、オマエカラオイシクタベテヤル」


 女郎蜘蛛はゆっくりとロサルに近づく。血で染まった口を開き、不敵な笑みを浮かべた。


「ソレジャ、イタダキマース」


「食えるもんならな」


 ロサルと距離を詰める女郎蜘蛛。だがそこには魔法陣が。青い光が女郎蜘蛛を包み、そして光が消えた後には小さくなった女郎蜘蛛がいた。


「ナナナ、ナニ?」


「なあ、蜘蛛さんや。そんなちっこい姿になって、このあっしを食えるんかい? あぁ、そうだ。メディサちゃん、お願い」


 メディサは小さくなった女郎蜘蛛を睨む。


「ヒィー!」


 女郎蜘蛛は魔法陣から逃げ出すと、メディサが追いかけ、パクリと女郎蜘蛛を食べて飲み込んだ。


(喰う方が喰われる方になるとは……。メディサすごいな)


げぇっぷ


「ロサロサすごい。うちにはできないよ」

「旦那が指示してくれたんで、実行したまででさぁ」


 ロサルは「とにかく大広間まで行こう!」の僕の意図を読み取ってくれた。そして囮になり危ない橋も渡ってくれるなんて、本当にありがたい。


「とりあえず、ボスを倒したんで探索を再開しましょうぜ」


 僕達は倒れている人達の中に生きている人がいないか探したが、残念ながら皆、女郎蜘蛛にやられて生きている人はいなかった。


 ◇


「しかし、何もありませんねぇ。罠はありますけど」

「罠があるってことは、何か大事な物があるってことだから、もう少し調べよう」

「そうですね旦那」

「うん」


(ん? こんなところに風?)


 探索を続けていると床の埃が風で舞ったのが見えた。


「ちょっと止まって」

「何ですか旦那。また罠ですか?」

「違う――ミム、降ろしてくれる?」


 僕は床に降り立ち、周りを見る。すると壁に小さい穴があり、そこから風が吹いているのがわかった。


「みんな。僕、この穴に入って中を調べるから待ってて」

「レイユ様、気をつけてくださいね。無理のないように」


 ロサルの肩に乗っていたメディサも床に降りてきて、僕のところに来る。


「メディサも来てくれるの?」


 メディサはコクリと首を縦に振る。僕はメディサと共に小さな穴に入り、中を進んだ。


 ◇


(これは――)


 穴を抜けると大きな空間が広がっていた。


「ゴーレム……、エクスマキーナゴーレムか……」


 大きな空間には階段があり、階段の両側に二体のゴーレムがいて、何かを守っている様に見えた。神聖な場所の様にも感じる。ロストテクノロジーとはこのゴーレムのことを指すのだろうか。周りを見ると、床には数本のスクロールが転がっていた。


「こんなところに無造作に転がっているなんて」


 小さくてなったせいで階段の上がよく見えないが、どうやらスクロールやその他の財宝がそこに眠っているように思えた。


浮遊フロートで行けるかな? いや。小さくなっているし、その影響で魔力切れが起こるかもしれないから、転がっているスクロールだけ貰おう)


「メディサ、このスクロールを運ぶの手伝ってくれる?」


 僕はメディサにお願いし、床に転がっている数本のスクロールを運ぶことにした。


 ◇


 通ってきた穴に戻り、ミム達のもとへ。穴を抜けると周囲を警戒しているミムと、穴を見て出てくるのを待っていたロサルがいた。


「旦那、何かありました? って、何っすかそれ?」

「スクロールだよ」

「スクロール?」

「スクロールを使うと、そのスクロールに応じた魔法が使えるようになる」

「へぇー」

「ざっくり言うと、風のスクロールなら風の魔法。火のスクロールなら火の魔法って感じ。でも魔力が無いと使えないけどね」

「じゃあ、あっしは無理ですね。ちなみに透明人間になれるスクロールってあるんですかね?」


(魂胆が見え見えだな)


「うーん、どうだろ? あるのかな」

「もしあるなら旦那が覚えてあっしに使ってくださいよ」


(いやだ)


「やましいことに使わないなら考えるけど」

「そんなやましいことなんかに使いませんぜ。軽ーく、女湯に入るのに使いたいくらいでっさ」


(それをやましいと言うんだよ)


「レイユ様、こんなエロ猿は放っておいて、レイユ様を元に戻す方法を探しましょう」


 僕達はまずゴーレムのいる部屋に入る扉がないか探したが、それらしき扉は見つからなかった。きっと何かしらの方法で入ることができるのだろうけど、失敗すると罠にかかるかもしれない。その方法を見つけることよりも遺跡の残りの部分を探索することにした。

 遺跡探索は面白かった。内部の構造や壁に描かれていた絵があり、ロストテクノロジーとは程遠いことでも、趣深おもむきぶかい、風情がある。僕達は僕の状態異常を治す方法も探したが、残念ながらその方法を見つけることはできなかった。トンタル遺跡から外へ出て、外壁にあるレリーフを見る。僕は体が小さくなってしまったけど「この遺跡に来れて良かった」と、そう感じた。

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