第33話 咎人

「顔に大きなアザの男?」

「そうです。僕と同じくらいの年齢の男で」

「知っているぞ」

「本当ですか!」

「ああ。でも、悪いことは言わねえ。関わらん方がいい」


 僕達はご老人が教えてくれた、カイン王子のいるであろう町に着く。ミムとテレーザ、僕とロサルの二手に分かれて聞き込みを開始すると、すぐに有力な情報を得ることができた。


「この町の娼館のトップだ。何でも呪いで経営を奪ったらしい」

「そうなんですね」

「常連客もおっかなびっくり遊びに行っているよ」

「ありがとうございます」

「おう。気をつけてな、小僧」


(娼館か……)


「旦那。あっし、この町の娼館のある場所知っていますぜ」

「流石、エロ大臣」

「えっへん。おっぱいのことなら、あっしに聞いてください。すぐに行きますか?」

「うーん。下見をしようか。その後、ミム達と合流して作戦会議をしよう」

「わっかりました~」


 ロサルに案内され、娼館へ行く。娼館と思われる建物の前まで来ると、従業員とおぼしき人に声をかけられた。


「ちょっとそこのお兄さん。いい子たくさんいますよ。どうですか? 安くしますから」


「旦那。中も偵察しましょうよ」

「ちょっとそれは危険だと思う」

「そんなこと言わないでくださいよ~」

「中の様子、知っているだろ?」

「へへ、バレましたか」


 ロサルと話をしていると、娼館から数人の男が現れ、僕達の前に来た。


「おまえら、ちょっと来い」


「旦那。この人もこう言っていますから行きましょ」


 ロサルはそう言って、男を油断させ、男の腹に剣のさやをぶち込んだ。


「なっ!」

「客引きなら、そんな大勢で来ないだろうよ。捕まえるもんなら捕まえてみろ!」


 男達が次々とロサルに襲い掛かる。ロサルは一人ずつさばき、男達を倒していった。


「フッ、これだから素人は――。あっしをなめんなよ」


「ほう。随分とやるな、お前」


 声のした方を見ると、因縁の相手、カイン王子がいた。


「おう。これはこれはガリ勉伯爵じゃないですか? 久しぶりだな」

「王子、いや、カイン。お前は何をしでかしたんだ?」

「何って? 別に何もしてないけど」

「嘘をつけ! 魔族に呪いをかけ、嬲ったんだろ?」

「はて、そんなこともあったかな」

「お前のせいで、魔族に目を付けられ、国が危ういんだ!」

「そんなこと知るか! 親父もバカ兄貴も俺をないがしろにするから、そうなったんだろ?」

「お前、本当に自分勝手だな」

「まあ、いいや――」


「隙あり!!」


 ロサルがカイン目がけて、剣を振る。剣が胴をかすると、急にロサルが苦しみだした。


「う、うっ、ぐ、う――」


(呪いか!)


「ああ、こいつバカだな。俺を攻撃したら、呪いがかかるってこと考えてないんだな」


 もしかしたらロサルはこのままだと、息絶えてしまうかもしれない。すぐに駆け寄りたいが、カインが邪魔だ。


「なあ、ガリ勉もかかってこいよ」


 どうすればいいか――、そう考えていると、目の前にいるカインの体にメディサが這い上がっていた。


「なっ、何だ、この蛇は!」


 メディサがカインの首に巻きつき、カインの首を絞めあげる。僕はチャンスだと思いロサルに駆け寄り、解呪を試みた。


「うっ、この蛇、やめ――」


「レイユ君!」


「テレトワ! ポーション! ロサルがヤバい!」


 テレーザの声が聞こえた。彼女達もカインの居場所をつきとめ、ここに来たのだろう。僕は魔法をかけながら、彼女達にロサルの回復を頼んだ。


「レイユ君」

「早く飲ませて!」

「わかった」


 僕は解呪を、ミムは次のポーションの準備。テレーザは懸命にロサルにポーションを飲ませようとした。


「レイユ君、苦しんで飲まないよ」


 悔しい。何で、何で、何で、カインのせいでロサルがこんな目に。


「レイユ様、メディサが」


 いつの間にかメディサがロサルの口元に来ていた。ミムはメディサの視線から意図を汲み取り、ポーションをメディサに浴びせた。メディサは口にポーションを含み、ロサルの口の中へ。テレーザはメディサが動きやすいようにロサルの鼻と顎を押さえ、ミムは口から出てきたメディサにポーションを浴びせた。僕はロサルにかけられた呪いを少しずつはがしていく。


 どのくらいの時間が経ったのだろう。ロサルの体力が残っているうちに、解呪を成功させ、そしてそのままアクアヒールに切り替える。カインを見ると気絶したままだ。


(何とかなりそうだ)


「テレトワ、病院へ連れていくために、助けを呼んで」

「わかった」


「ミム、カインを縄で縛ってくれ。くれぐれも攻撃しないように」

「はい」


 メディサはロサルの頬をすりすりと撫でている。メディサのおかげで何とかなった。


「レイユ様、縛り終えました」

「わかった、ありがとう」


 この後、ロサルは病院に運ばれ、一命を取りとめる。僕はこの咎人に睡眠薬を飲ませ、王都へ連れて帰り、アベル王子に引き渡した。

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