第28話 罪と罰(Crime and Punishment)

 あの日、俺は少女に人間になる呪いをかけた。報酬として貰った少女を毎日なぶり、いろいろ奉仕させた。初めは屈辱にまみれた顔を見て楽しんでいたが、そのうち無表情になり、つまらなくなって奴隷として売り払った。そう、俺には呪いの力がある。魔導書に記載されていた全てを覚えたわけではないが、この力を正しく使えばいい。俺はこれから悪人を懲らしめることを決めた。


 ◇


「お前」

「――ひぃー!」

「あの店の品物を盗んだな」

「ば、化け物――」

「罪を犯した者は罰を受けねばならん。こっちに来い」


 俺は窃盗犯の少年を路地裏に連れていく。少年は俺の顔を見て怯えている様だ。何? 逃げたい? そんなことはさせん。今からこいつを殴り倒し、痛みで罪を償ってもらうのだ。


「な、何ですか、いきなり」

「店主の目を盗んで、りんごを二つ手に入れただろう?」

「そ、それがどうしたっていうんですか! りんご二つだけじゃないですか」

「盗んだことには変わりない。今から反省するんだな」


 俺は少年を押し倒し、馬乗りになる。


「離して――痛い!」


 抵抗するので殴る。


「罪を犯したものは罰を受けなくてはいけないんだよ!」


 この後、俺は少年をこれでもかと殴り続けた。こいつには呪いの力は必要なかったな。りんごを一つかじり、酷い泣き顔の少年を見る。「お前みたいなヤツがいるから、世の中が良くならないんだよ」そう呟き、次の犯罪者を探すことにした。


 ◇


(娼館か)


 街を歩くと娼館を見つけた。そうだ。ここのやつらはアコギなことをして女に春を売らせているのか。正義の鉄槌を加えてやる。


「いらっしゃいませ。お客様」

「おう、ご苦労」

「あちらへどうぞ。あそこにいる女で気に入った嬢をお選びください」

「ふーん。なあ、支配人っているか?」

「何か御用でしょうか?」

「罪のない女に春を売らせているんだろ? ぶっ殺してやるから」

「お客様、そのような言葉は謹んでください」

「早く支配人を出せ」

「仕方ありません。おい、お前ら! こいつを放り出せ!」


 ガタイのイイ男が数人やってくる。バカな奴らだ。俺は呪符を準備し、殴られるのを待った。


「いいから支配人を出せよ!」


 その言葉を聞いた一人の男が俺の顔を殴る。すると呪符が発動し、男はもがき始めた。


「うっ、ぐっ、ぐ、っ」


「痛ぇなぁ。俺を殴った罰だよ。苦しみながら死ね」


 男は倒れ体をくの字にし、痛みに耐えようとしている。店員もあそこにいる女達も何事かと、こちらを見ていた。まあ、いい。俺はこの店の女共が待機している階段状の場所へ行く。


「なあ、この中で銅貨一枚で俺を相手にしてくれるヤツはいるか?」


 女共は俺の顔を見て、戸惑いの表情を浮かべていた。


「ふーん。いないならお前らのおススメの女を聞こうじゃないか」


「あんた新入りなんだから行きなさい」

「えっ、あたしですか?」

「そうよ。他に誰がいるのよ」

「そんな……、何であたしが」


 俺は薦められた女に近づいて聞く。


「お前は何でここで働いているんだ?」

「そ、それは」

「正直に答えろ。死にたくなければな」

「しゃ、借金を……、騙されて」

「ほう、そうなのか?」

「はい。ここの人達がここで働いて借金を返せと……」

「ありがとうな。今から、お前の代わりにこいつら罰を与えるから見ていろよ」


 俺は店員に近づき、殴る。もちろん殴り返してきたヤツはもがき苦しみ始める。それを見た他のヤツらは怯んで、その場に立ちすくみ動けなくなっているようだ。


「しはいにーんは、どこかなぁ? 呼んでこないと皆殺しだぞ」


「わ、私が支配人です」

「ほう、お前が」

「何卒、ここで荒っぽいことは――」

「お前の指示であそこにいる女を不幸の底に陥れたんだろ?」

「……」

「自分のやっていること、わかっていないんだな」


 俺は支配人を殴り倒し、頭、腹と蹴りを入れ続ける。


「なあ、苦しんでいる女はこんなもんじゃないぞ。やられた方はずっと嫌なことを覚えているんだよ! わかってんのかよ、おい!」


 支配人のうめき声が聞こえてくるが、関係ない。這いつくばった野郎を蹴り続けると、俺は声をかけられた。


「まあ、まあ、まあ」

「お前、誰だ?」

「ここの常連ですよ。同じ客なら、ここは穏便に行こうじゃないですか」

「ふーん、そうなのか?」

「そうですよ。悪いことをしているやからもいますが、店員にも騙されて働いているヤツがいるんですよ」

「なるほど」

「嬢の中にも借金じゃなく、生活の為にこの仕事を選んでいる女もいますし」

「ちなみにお前は咎人とがびとか?」

「どうですかねぇ? 少なくとも銅貨一枚で女を抱こうとしているアンタよりはマシだと思いますがね。恐喝でしょ? 立派な犯罪ですよ」

「お前、口が達者だな」

「まあ、海千山千の世界を見ていますから」


 腹が立つ。銅貨の件は俺が悪いかもしれんが、そんなの些細なことだろ。ここで騙した女を働かせて方が断然悪い。


「お前、これ以上逆らうと殺すぞ」

「おーっと。それは勘弁してください。退散しますから」

「さっさと行け」

「じゃ、他の客と共に帰ります。頼みますから全員殺さないでくださいよ。この店が潰れると、俺らの楽しみが無くなってしまいますから」

「てめぇ」

「ひい、こわ」


 常連客の男は俺を上手く躱し、他の客と共に帰っていく。そのあと俺はいろいろ考えたが、ここの連中はあの女の事情を知っている。誰も咎めようとしない、何も言わない。皆、罪人だ。そう、何も迷うことはない、こいつらに罰を与えるべきだな。


「じゃ、続きと行きますか」

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