第29話 魔将
僕達はロサルの故郷からセラフィーロ王国へと旅を続けた。国境を跨いでセラフィーロ王国に入り、そこから王都へ向かって二日ほど旅をすると事件が起こる。
「メディサ、ロサルにべったりだね」
メディサはいつもロサルの肩に乗っている。
「羨ましいでしょ、旦那。あげませんからね」
「大丈夫だよ」
「レイユ様(むにゅ)」
「レイユ君(むにゅ)」
僕とロサルの会話を聞いて、ミムとテレーザが僕にピッタリとくっついてきた。左にミム、右にテレーザ、よくある状況だが何とも気恥ずかしい。
「旦那には姐御と姐さんがいましたな。たまには旦那じゃなく、姐御も姐さんもあっしに引っ付いてもいいんですよ」
ロサルがそう言うと、メディサが尾っぽでペチペチとロサルの頬を叩き始めた。
(メディサは女の子なのかな? きっと女の子だろう)
「冗談だよ、メディサ。嫉妬したんかい?」
メディサはロサルからプイッと顔を背ける。
「メディサかわいい」
「ちょっと、レイユ君。うちにはそんなこと言わないよね?」
「そうかな?」
「酷い。婚約者のうちの気持ち全然わかってないよ」
「レイユ様。あたしに『かわいいね』と言うか、夜のお世話をさせるか選んでください」
「ミムもテレーザもかわいいよ」
「「はぁ」」
そんなことを話していると、威圧感のある男が空にいるのが見えた。男は空から降りてきて、僕達の前に立ちふさがる。
「そこのお前」
その男を一目見て、僕よりも段違いで強いことがわかった。ミムは僕を守るように前に立ち、戦闘態勢になる。
「僕ですか?」
「そうだ。お前に訊きたいことがある」
男のドスの効いた低い声。
「
「娘さんですか」
「そうだ。ちょうどあの魔法使いと同じような年頃だな」
僕は振り返りテレーザを見る。テレーザもミム同様に震え、怯えていた。僕は男に対し正直に答える。
「すみません。わかりません」
「そうか」
男は僕達を睨む。
「娘の気配がな。この国で消えたのだよ。膨大な魔力を持っているお前なら知っていると思ってな。名を何という?」
「レイユ。レイユ・バルサードです」
「そうか。
「お役に立てず、力になれなくてすみません」
男は魔法を放ち、近くにあった木を消滅させる。
「正直に答えろ。本当に娘を知らんのだな?」
「はい。ちなみに娘さんの名前は何と言うんですか?」
「フォイーンだ」
(フォイーン……、やっぱりわからないや)
僕は六魔将の娘の名前を聞いたが、心当たりが全くない。僕が顎に手をやり、考えていると、男は言った。
「空振りか――、お前はこの国の王がどこにいるか知っているか?」
「知っています」
「どこだ?」
僕は地図を思い浮かべ答える。
「ここから南東の方角に進むと、王城があります。おそらくそこに国王陛下はいるかと」
「わかった。レイユとやら、また会おう」
(僕は会いたくない)
「わかりました」
男は上空へ飛んだあと、その姿が消えた。空間魔法を使ったのであろうか。
「旦那、よく平然としていましたね」
「正直怖かったよ。けれど、みんないるから僕が折れるわけにはいかないでしょ」
「あっし、オシッコちびりそうでしたぜ」
「あの、レイユさ――」
「レイユ君。ちょっとここで待っていてくれない?」
「いいけど」
ミムとテレーザは顔を見合わせた後、道から外れ林の中へ。僕の見えない場所へ移動した。
「旦那。姐御と姐さん、たぶん漏らしましたぜ。覗きに行けば――」
僕はロサルにウォーターボールを落とし、メディサは尾っぽでペチペチと頬を叩いた。
「デリカシーが無い。メディサも怒っているでしょ?」
「へへへ、そうですね。ごめんよぅ、メディサちゃーん」
ロサルはメディサの頭を撫でている。今はそうではないが、あの六魔将という男が纏う空気。半端じゃない恐ろしさだった。そんなことを思いつつ、しばらく待つとミムとテレーザが戻ってきた。
「レイユ君、お待たせ」
「お待たせしました」
「旦那、きっとノーパンで――」
僕はロサルに平手打ちをした。テレーザはやれやれといった表情をし、ミムはロサルに冷たい視線を送っている。
「いてててて、アウチッ!」
メディサがロサルの鼻を噛んだ。メディサも思う所があるのだろう。そんなロサルに呆れながらも、僕達は再び王都へ向かって歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます