第27話 記憶
ネネパパが言うには、親方様は町はずれの館にいるらしい。彼の案内で館の近くまで来ると、何やら騒がしい音が聞こえてきた。音のする方を見ると、そこにいたのは、
(メデゥーサ!)
文献で見たことのあるメデゥーサ。その周りには石化された人達もいた。
「みんな気をつけて、あいつメデゥーサだよ。メデゥーサの目から放たれる光を受けると石化するからね」
「旦那。マジで戦うんですか?」
「うん。四方から攻撃しよう」
「じゃあ、あっしが正面やりますわ」
「えっ。一番危険だよ?」
「そのくらい知ってますよ。あっしが引きつけるんで、よろしく頼んます」
「わかった」
僕達はメデゥーサに気づかれないように四方へと動く。メデゥーサの背後に回った僕は、みんなが準備できたところでファイヤーボールを打ち上げた。
「メデゥーサ! あっしが相手だ!」
ロサルが引きつけるうちに、ミムはメデゥーサに近づく。だが、髪の蛇がミムに気づき、ミムに向けてメデゥーサは目から光を放った。
(危ない!)
ミムは高く跳躍して、光を避ける。そしてテレーザが攻撃を仕掛けるが魔法は外れ、「思ったよりもメデゥーサの光が速い。躱せないかも」と、僕はテレーザに下がるように叫んだ。
「テレトワは逃げて!」
テレーザはメデゥーサの光に気をつけながら、バックステップを踏む。
「レイユ君、ごめん! うち無理!」
「三人でやるから、下がって!」
「メデゥーサちゃーん!」
ロサルがヘイトを買って出てくれて、メデゥーサはロサルに向き合った。メデゥーサは目から光を放つ。
「よっこらしょ!」
ロサルは高くジャンプし光を躱す。しかし次の瞬間、
「なっ!」
ロサルが落ちてくるところを目がけて、メデゥーサの髪の蛇が伸びた。
「(ヤバい)ロサルー!」
◇◇◇◇
「ぐすん、ぐすん、ぐすん」
「ねえ、君どうしたの?」
「お前の髪、蛇で気持ち悪いって」
「そうなんだ」
「みんな、石投げるの。もう痛いのヤダ」
「あっしもスカートめくりして、大人に殴られてるよ」
「そうなの?」
「うん。でも何でだろう、その髪カワイイけどなぁ」
「カワイイ?」
「だってみんなつぶらな瞳じゃん。おめめクリックリ」
「ふふふ、そうなんだ。あなたの名前は?」
「あっし? あっしはロサル。君は?」
「うーん。メディサって呼んで」
「わかった、メディサね。ねぇ、一緒に遊ぼうよ?」
「いいの?」
「うん。一人で遊ぶより二人の方が楽しいって」
「ごめん、メディサ。明後日、引っ越すんだ」
「えっ」
「隣の国に行く」
「そうなんだ」
「うん。もっとメディサと遊びたかったけど」
「ううん。毎日遊んでくれてありがとう」
「あのね。大人になってまた会ったらエッチしない?」
「えーー」
「ははは」
「わかった。大人になったら」
「やったー! じゃあ、約束ね」
「ふふふ」
◇◇◇◇
ロサルの顔の前で蛇が止まった。ロサルは驚いた表情をして、蛇と見つめ合う。
「メディサ?」
メデゥーサの動きが一瞬止まる。その隙をミムは逃さない。メデゥーサの背後に回ったミムはそのまま槍でメデゥーサの心臓を突き刺した。
「ウソだろ」
ロサルはメデゥーサに駆け寄る。
「メディサ! メディサなのか!」
メデゥーサの目からは光りが放たれることはなく、その頬には涙が伝っていた。
「そんな……」
ミムが槍を抜くと、メデゥーサから体液が大量に流れる。
「メディサ……」
いつの間にか、ロサルはメデゥーサを抱きしめていた。
「なあ。約束覚えているか?」
メデゥーサは少しだけ首を縦に動かした。
「すまんな。すぐ気づかなくて」
髪の蛇は次々と力なくしなだれる。その中で一匹だけロサルの額に触れていた。メデゥーサはロサルに手を伸ばし、ロサルは「痛かっただろう……」とメデゥーサを抱きしめた。
僕はメデゥーサに近づく。蛇が変色し死んでいく中、ロサルの額に触れていた蛇に手を翳し、魔法をかけた。
「ロサル、もう助からないよ。この子だけ回復魔法をかけるから、メデゥーサから引き抜いて」
ロサルはメデゥーサから離れ、髪の蛇を一つ引き抜く。
「貰うな」
ロサルが引き抜いた蛇の尾は傷ついていて、そこから体液が流れている。僕は魔法をかけて、蛇の傷を治していった。
「レイユ様」
「ミム、ありがとう」
「いえ、あたしはできることをしたまでです」
ロサルはメデゥーサと抱き合っている。僕は親方様を探すことにした。
「この人です」
ネネパパが
「これで口封じの呪いは解けたはず――生きている人達を保護しよう」
ロサル以外のメンバーで、生存者を確認して保護する。館の中にいた人達は全員無事だった。
「旦那」
「ロサル、大丈夫なの?」
「いえ。旦那にお願いがあります。あっしの故郷の村がここから二日ほど北へ行ったところにあります。メディサの亡骸を運んでくれませんかね? そこで埋葬したいんです」
「わかった」
保護した人達の首を確認したが口封じの紋は無く、ネネパパに頼んで町まで連れていってもらうようにした。そして僕達はロサルの故郷へ。
◇
ロサルの故郷に着くと、そこには石化された人々と寂れた建物が連なる風景が広がっていた。ロサルの肩にはメディサと名付けられた蛇が乗っている。「……石になったのか」ロサルはそう呟き、表情は悲しげに満ちたままだ。僕に石化を解く力は無い。どうにかしたかったけれど、何もできなかった。
「姐御、穴掘るの手伝ってくれませんか?」
ロサルはメデゥーサを埋葬するための穴をミムと掘り始めた。掘り終わるとメデゥーサの亡骸を静かに置き、その上から優しく土をかける。埋め終わった後、ロサルは見つけきた大き目の石を墓の目印として、メデゥーサの埋まっている土の上に置いた。
「旦那。亡骸を運んでくれてありがとう」
僕達の旅の一コマ。楽しいときもあれば、そうでないときもある。僕は石化した人々を見た後、ミム達と一緒にロサルの故郷をあとにした。ここから山を越えれば僕の故郷、セラフィーロ王国だ。
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