第25話 対比(contrast)

 俺は城から追い出され、すぐさま王都から旅立った。今はとある町にある路地裏で生活をしている。持っていた金はうに尽きて、仕事をしようにもこの顔じゃ気味悪がられて仕事が見つからない。雨風をしのぎ、残飯を漁る。屈辱だ。そんな日々が続いていたある日のこと。


「ネズミに食わたのかよ、もう残ってねぇじゃん。何で俺が……、親父もバカ兄貴もぶっ殺してやる」

「ほう。お前の恨みはすごいエネルギーだな」

「誰だ!」


 声がしたので振り向くと、ローブを羽織ったヤツが眠っている少女を抱えていた。


「誰と言われてもの。まあ良いではないか」


 怪しいヤツだなと思いながらも、そいつに訊いた。


「お前、ひょっとして魔族か?」

「そうだ。人間ではないな」

「それで何の用だ」

「お主が呪いに詳しそうだから、お願いをしにきた」

「お願い?」

「この娘に人間になる呪いをかけて欲しいんじゃよ。ここに必要な素材もある」


 そう言ってそいつは少女を地面に降ろし、どこからか麻袋を取り出した。


「何で俺なんだ? 素材も用意できるのなら自分でできるだろ」

「いろいろあるんじゃよ。呪いをかけてもらえば、報酬としてこの娘をやろう」


 眠っている少女は俺と同じくらいの歳に見えた。きっと魔族なのだろう。


「この娘を手籠めにするなり、奴隷にするなり、好きにしていいぞ」


 なるほど。奴隷として売り払えば金ができる。この生活ともおさらばだ。人間になる呪いは興味深く、記憶していたので俺はその提案に乗った。


「いいぜ。素材を寄越せ」


 ◇◆◇◆


「師匠、今日も奴隷会館に寄るんですか?」

「そうだな」


 私の師匠はすごい人だ。本人は言っていないが、おそらく鑑定眼の持ち主なのであろう。クエストを行い、寄った先の町でいつも奴隷を探し、師匠のお眼鏡にかなった奴隷は王都へ連れて帰る。もっとも、今のパーティーメンバーのエルフの少年少女も師匠の判断で買ったんだが。


「師匠」

「どうした?」

「聞いてもいいですか? 買った奴隷を王都の奴隷会館に売っていますけど、そんなことをして意味があるんですか? 赤字のときもありますよね?」

「そうだな。アベルには話してもいいか」

「はい、お願いします」

「北の防衛線に王国騎士団と王国魔法部隊の一部を送り込んでいるのは、当然知っているよな?」

「はい、もちろんです」

「王国騎士団の方は問題ないんだが、魔法部隊を揃えるには人材が足りないだろう?」


 私は師匠の言いたいことがわかった。魔法が使える適性のある者。奴隷として働かねばならず、魔法の才能を潰してしまう。そうなる前に師匠が買って拾い上げているのだと。そして王都の奴隷会館経由で魔法部隊に送り込むと。


「いつからそんなことをしているんですか?」

「うーん。いつからだろうな。金が貯まってからやり始めたな」

「そうなんですね。じゃあ、師匠は父上と繋がりを持っていたんですか?」

「いや。繋がりがあるのは奴隷会館の館長だけだな。事情を説明したら、館長は宰相にかけあったみたいだ」

「そうですか」

「ホントに繋がりを作ることができて良かったよ。エルフの王子が捕まって売られていたときには流石にビビった。アイツが富くじを当てていなければ、セラフィーロは火の海と化していたかもしれん」


 パーティーメンバーを師匠は見る。


「師匠はすごいですよね。私も彼も王子だって見抜くんですから」

「まあ、アベルの場合は携えていた剣が王家の物だってわかったからな。マジでマチルダさん無茶振り」


 私はこの師匠がどれだけ国のために貢献しているのかを改めて実感した。私への助言といい、本当に師匠に会えてよかった。

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