第二章 繋がったあやうい道

第24話 二つ名

漆黒しっこく戦乙女ヴァルキリーだ」

雷撃らいげき天女てんにょもいるぞ」


 この日の朝も僕達は帝都の冒険者ギルドの中に入る。ここ最近はザビンツ帝国の帝都ギルドを中心に、クエストをこなし活動したせいか、ミムには「漆黒の戦乙女ヴァルキリー」、テレーザには「雷撃の天女」という二つ名がいつの間にか付けられていた。


「ホント、図書館のガリ勉が羨ましいぜ。あの二人から熱烈なアプローチを受けているんだよな」


 そう、僕は帝都の図書館に通い詰めているのを他の冒険者に見られて、「図書館のガリ勉」というアダ名が付いた。


(もうちょっとカッコイイ二つ名がいいんだけど――ロサルよりはマシか)


「おっ。エロエロおっぱいのご登場だ」


 何故、ザビンツ帝国の帝都に僕達がいるかというと、時は数週間前にさかのぼる。


 ◇◇◇◇


「旦那!」


「ロサル」

「探しましたぜ。森の中どこを探してもいなかったから焦りましたぜ」

「ごめんごめん。一晩中探すのって大変だったよね」

「何言っているですか? 旦那。あっし、二時間しか旦那達を探してないですよ」

「ん? そうなの?」

「そうですよ、旦那」


 間違いなく僕とミムとテレーザは、魔女の家に一晩泊った。ロサルが二時間しか探していないということは、時間にひずみが生じていたのか。確かにあの魔女ならそんなことをしてもおかしくない。結界も張ってあったし、結界の中の時間の進み方がゆっくりだったのであろう。


「あっ、そうだ。僕の呪い解けたよ、ほら」


 僕はウォーターボールを出して、ロサルに見せる。


「おお。良かったじゃないですか! もしかして、魔女に会ったんですか?」

「そうだよ」

「あちゃー、しまった。旦那と一緒に行動しとけばよかった。せっかくのチャンスが」

「それとね。ミム、こっちに来て」


 僕はミムを呼び、ダークエルフの姿になるようにお願いする。


「へっ? ダークエルフ?」

「うん。ミムの呪い、人間に化ける呪いだったみたい。呪いを掛け直してもらって、今はダークエルフにも、人間にもなれるよ」

「旦那! やったじゃないですか! 白ギャル、黒ギャル、ウハウハじゃないですか!」


(白ギャル、黒ギャル、ギャルって何だ? ロサルが喜んでいるっていうことは、そっちの方面かな)


「姐御の肌、柔らかそうですね」


 そんなことを言いながらロサルがミムに近づくと、ミムがロサルをぶん殴り、吹っ飛んだロサルは木にぶつかった。


「すごい――レイユ様、あたし腕力がしています」

「そうか。ダークエルフだと本来の力が発揮できるのか」

「そうみたいです。人間の姿より、体にキレがある気がします」

「それなら、クエストのときはダークエルフモードの方がいいね」


 ミムは飛び跳ねるなど体を動かし、自分の身体能力を確認している。ロサルは頭を抱えながら起き上がった。


「イテテ。姐御はいつ馬鹿力になったんですか」

「これからはロサル気をつけてね」

「ホントですよ」


 ロサルは腕に着いた、葉っぱを払う。


「レイユ君、あっちが森の出口だと思う」


 テレーザの指さした方には明るい陽の光があった。


「ありがとうテレトワ。じゃあ、行こうか」


 僕達は森の中を進み、ようやく出口へと着く。わだちのある道を見て、ここが馬車の通り道であることがわかった。


「レイユ君、ここどこだかわかる? 来たところじゃないみたいだけど」

「うーん」


「レイユ様、あっちに町があります」

「本当だ」


「どうするんですか旦那」

「とりあえずあの町へ行こうか」


 僕達は町へ向かって歩いていく。途中振り返ると、魔女の棲む森があった場所に、あるはずの森が無かった。


(えっ)


「レイユ君、どうしたの? あれ? あそこに森あったよね?」


 テレーザも振り返り、僕と同じように不思議に思っている。


「そうか」

「何が」

「魔女の棲む森はきっと一つの場所に留まらないんだよ。だから文献にあっても詳しい場所は記載されていなかったんだ」

「へぇー。じゃあ、うちらラッキーじゃん!」


 こうして魔女の棲む森から移動した最寄りの町は、ザビンツ帝国の帝都であった。路銀も尽きかけていたので、僕達はギルドのクエストをこなし、しばらくここで路銀を稼ぐことにしたのだ。


 ◇◇◇◇


「レイユさん。マチルダから手紙を預かっています」


 ギルドの受付にて受付嬢にそう言われる。僕は手紙を受け取り中身を確認した。


(指名手配は無くなった――か)


「レイユ君、それ何て書いてあるの?」

「僕とテレトワの指名手配が外れたって」

「えっ! そうなの?」

「ここに書いてある」


 テレーザに手紙を渡す。


「ホントだ」

「うーん、どうしよう」

「どうしようって?」

「指名手配がされていたから、家族に迷惑かけないようにセラフィーロを飛び出したわけでしょ。指名手配が外されたのなら一度セラフィーロに帰って、今までの事を家族に説明する必要があるのかなって」

「えーー。海でリゾート満喫するんじゃなかったの?」


「旦那。ヌーディストビーチはどうするんですか!」


(ヌーディストのヌも言っていないんだけど……、ロサル)


「リゾートの件はクエスト終わってから考えようか」


 僕達はこの日もクエストを無事にこなし、報酬を得て宿屋へ帰った。


 ◇◇◇◇


「待っておったぞ」


 紫色のフードを被ったご老人に久しぶりに会う。


「お久しぶりです」

「良かったな、呪いが解けて」

「はい。その節は本当にありがとうございました」

「ほほほほほ。ところで」

「はい」

「お主は故郷に帰るべきだぞ。大変な事が起こるかもしれん」

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