第22話 カーズ(curse)

「次はファイヤーボールを使って、あそこにある的に当てる。いいね?」

「先生! 俺がお手本を見せてやりますよ」


 学園の実技授業で、同級生にカッコイイと言われるため、俺は自分の魔法を同級生達に魅せつけることにした。


「わかった。ではカイン君、お手本をお願いする」

「了解」


 無詠唱で「ファイヤーボール」を手の上に出す。どうだ凄いだろ。無詠唱なんてザコには使えないだろう。

 ただ、その日の授業ではいつもと違ってファイヤーボールの大きさが小さかった。


「まあ、いい。喰らえ!」


 ファイヤーボールを的を目がけて放つ。的の中心を狙ったが外れてしまい、ファイヤーボールは的をかすめただけだった。あれ? おかしい。


「今のがいい手本だ。ファイヤーボールの大きさをコントロールして、正確に狙う。予備があるから的を壊してもよいぞ。もっともカイン君みたいに少しだけ外してくれると有難いがね」

「先生」

「どうしたカイン君?」

「ちょっと体調が悪いので休んでもいいですか?」

「そうなのか? まあいい、とりあえず医務室へ行って診てもらうといい」


 ◇


「あら、カイン君――って、どうしたの、その額のアザ」


 俺が医務室に入ると、職員は驚いた顔をして、そんなことを言った。


「アザって何ですか?」

「いいから鏡を見てみなさい」


 そう言われたので、俺は自分の顔を見るために鏡を見ると、俺の額には大きなアザのあった。


(何だこれ!)


「カイン君。帰って医者に見てもらった方がいいかも」

「そうですね。そうします」


 ショックだった。何故急に大きなアザが出来たのか。わからない。


 ◇


「カイン様」

「なんだよ」

「陛下がお呼びです。至急陛下の所まで」


 城に戻ると、急に親父に呼び出された。こっちはそれどころじゃないって。ふざけんな。


「親父。呼んだか」


 親父がいる部屋に入ると、たくさんの書類がテーブルの上にあるのが見えた。


「カイン、そこに座りなさい」


 親父に促され椅子に座る。


「カイン、よく聞きけ。ここにある手紙は、以前お前との婚約を希望していた者から届いた手紙だ」

「以前?」

伯爵はくしゃく以上の家の令嬢達が希望を取り下げるということだ」


 どういうことだ? 何で王になる俺への婚約希望を取り下げるんだ?


「どういうこと? 親父、具体的に何て書いてあったんだよ?」

「子爵令嬢を婚約者にしただろ。子爵より位の高い令嬢達のプライドが許さなかったのだな。二番手は屈辱的らしい、みたいなことが書かれておったぞ」


 プライドごときで希望を取り下げるって賢さが足りないな。ホントこいつら馬鹿なんだな。


「ふーん、そうなんだ。親父、それって何か問題でもあるの? こいつらは愚かなプライドで婚約の希望を取り下げただけだろ?」

「問題があるぞ」


(はっ? 何が?)


「今の時点で、子爵と男爵の令嬢からは婚約の希望は無い。言っている意味がわかるな?」


 公爵家、侯爵家、伯爵家からの婚約の希望の取り下げ。そして子爵家と男爵家の家からの婚約希望は無い。要するにこの国の貴族からは婚約の希望がまったく無いと。


「そうなんだ。別に王国内に婚約者がいないなら、他の国の皇女あたりを探してくればいいだろ?」

「誰が探すんだ?」

「えっ」

「誰が探すのかと言ったのだ」

「それは親父が――」

「あのな、カイン。指名手配って何だ? お前の使いの者から話を聞いたぞ」


 あの馬鹿やりやがったな。親父にチクりやがった。


「俺は知らないよ。他の誰がしたんじゃないか?」

「誰がするんだ? トワール令嬢とバルサード令息の指名手配を。お前はバルサード令息を目のかたきにしていたみたいだな」

「っ!」

「まあ、婚約者は自分で探すんだな――、あとな」


 親父から追い打ちをかける言葉がかけられる。


「婚約者が見つからなかったら、ここにお前の住む場所は無い」

「はっ?」

「周囲のことを考えない愚か者を、ここに置いておく必要はないと言っているのだ。王を継承する者は一人でよいしな」


 婚約者がいない。ここにも住めない。何とかして婚約者を探さないと。


「下がってよいぞ。この愚か者」


 ◇


 親父に言われたことがショックだった。それから部屋を出て、しばらく歩くとバカ兄貴に会う。


「カイン」

「何だ、兄貴。今忙しいんだけど」

「お前との婚約を望む者がいなくなったらしいな」

「そうだよ。それがどうしたって言うんだよ」

「そうか――、お前には何を言っても無駄みたいだな」

「はあ? 魔法が使えない分際で偉そうに言うなよ!」

「ああ、そうだな。私には剣しかない」

「そうだよ。ホント目障りだから兄貴は」

「お前に、魔法以外のものはあるのか?」

「何だって?」

「まあ、いい――それより、お前大丈夫なのか?」

「何が?」

「額から目の上まで大きなアザがあるぞ」

「はっ?」


 バカ兄貴の言葉を聞いて俺は急いで、医者の元へ向かう。何が俺の体に起こっているんだ? 途中、鏡があったのでそこで自分の顔を見ると、アザの大きさが学校で見た時よりも大きくなっていた。


「こんな顔じゃ。誰も婚約してくれないじゃないか! クソッ!」


 苛立ち、辺りにあった物を壊していく。それでも腹の虫が治まらず「ファイヤーボール」で窓を壊そうとすると、信じたくないことが起こった。


「えっ、何で?」


 ファイヤーボールが出ないのだ。


畜生ちくしょう!」


 他の魔法も出してみようとするが、何も起こらない。


『はあ? 魔法が使えない分際で偉そうに言うなよ!』

『お前に、魔法以外のものはあるのか?』


 これじゃ、魔法学園の実技試験を合格できないじゃないか。それはすなわち卒業ができないということ。退学して他の学校に行くしかないということ。


「退学に婚約者もいないなんて……。何なんだよ。何でこんな目に遭うんだよ!」


 この後、この騒ぎを聞きつけた者達に押さえつけられ、親父にそのことを報告される。

 そして親父から俺に向けて「荷物をまとめて出ていけ、でなければ幽閉する」と、命令が下されたのだ。

 このことで俺はこれからどう生きればよいのか、正直わからなくなっていた。魔法が使えない。絶望とでも言うべきだろうか。

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