第19話 使えない魔法 そして サイゴの言葉
「ほら、嬢ちゃん達、馬車から降りて」
「はい……」「……」
「そんな急がなくてもいいでしょ。こんな美人のおっぱいを堪能できるなんて、そうそうないですから」
「親方様に殺されたいのか、お前は?」
「へいへい。わかりましたよ」
(おかしい。何でミムは無抵抗なんだ?)
馬車から降りたミムは、一人の男に胸を揉まれている。それを見て、僕は我慢できずに馬車から飛び降りた。
「おい!」
「何だ、こいつ」
「もしかしてツケられていたんじゃないですか?」
「しくじったな。先に片づけるか」
「旦那! 雑魚は任せてください!」
ロサルの声をきっかけに、男達四人との戦いが始まる。こっちにはロサルがいるので、とても心強い。
『ファイヤーボール!』
「ちっ! 魔法使いもいるのか。嬢ちゃん達、こいらをやりな『
「はい……」「……」
ミムとテレーザが短剣を取り出し、こちらにやってくる。彼女達の虚ろな目を見て、彼女達が催眠術にかけられていることがわかった。
(何だって。催眠術師がいるのか)
ミム達がやってくるので、下手に攻撃ができない。催眠術師らしき男を狙って、ファイヤーボールを唱えるが――、
(えっ、出ない)
急にファイヤーボールが出なくなった。「何故でない?」そのことに戸惑っているとミムの攻撃が来た。
(早い!)
かろうじて躱すが、頬を切られる。血がスーッと流れているのがわかった。
「旦那! 姐御と姐さんはあっしに任せてください!」
男三人を倒した、ロサルが助太刀に入ってくれた。そうなると僕がやることは一つだ。催眠術師を殺せば、催眠術が解ける。
(ロサルが時間を稼いでくれている)
「何だ! 『
男の目を見なければいい。そのまま懐に入り、剣で男の腹を突き刺す。
「なっ――」
倒れた男から剣を抜き、すぐさま男の首を切りにいった。
(殺した――これでミム達も……)
振り返りミム達を見ると、ロサルはミムに短剣を突き刺されていて、そのミムもテレーザに。テレーザは復活した一人の男に短剣を突き刺されていた。
「なっ!」
僕はすぐさまテレーザを刺していた男を剣で切りつける。
「うあ!」
男の短剣はテレーザに突き刺さったままだ。
「レイユ君……」
我を忘れ、倒れた男の胸に剣を突き刺す。
「てめぇぇ!」
剣を突き刺され、男は苦しんでいる。
「テレトワ、今、アクアヒールをかけるから――(何でだよ!)」
テレーザに手を
(ファイヤーボールが使えなくなったのと同じことか!)
急いで亜空間魔法でポーションを取り出そうとするが、魔法が使えない。ポーションすら取り出せない。
(急がなきゃいけないのに!)
「あぁぁぁ!」
「旦那……」
僕がパニックに陥っていると、ロサルの言葉が聞こえた。
「ポーション――二つあります。これで姐御と姐さんを……」
急いでロサルに駆け寄り、彼の持っていたポーションを取り出す。二つしかない。
「旦那。迷っている暇はないでっせ――早く姐御と姐さんを……」
「そんな! ロサルはどうすんだよ!」
「あっしはゴブリンリーダーに一度殺されたんです。これで旦那へ恩返しができます」
「何言ってるんだよ!」
僕は急に魔法が使えなくなったことに怒りを感じた。「何でなんだ。どうしてこんなときに魔法が使えないんだ」目の前が涙でぼやけていく。
「旦那……」
「うん」
「サイゴに言いたいことがあります」
「うん」
「おっぱいが揉みたい」
(僕の涙を返せ)
ロサルの「おっぱいが揉みたい」という言葉を聞き、僕は迷わずミムとテレーザにポーションを飲ませることにした。
「テレトワ、飲んで」
「うん……」
テレーザにポーションを飲ませたあと、ミムのところへ。
「ミム、ポーション」
「あ、ありがとう――」
周りを見て、男達がどうなっているか確認する。まだ生きている者もいると思うが動いていない。
(あっ! もしかして)
僕は倒れている男の一人に近づく。運がいい、ポーションを持っていた。そのポーションを奪って、急いでロサルのもとへ。
「ロサル。ポーションもう一つ見つけた。飲んで」
「旦那……」
ロサルに手渡すと、彼はすぐに起き上がってポーションを飲んだ。起き上がれるのにサイゴの言葉なんて、よく言えたものだ。
(これで助かったのか……)
◇
このあと四人で館の中に入り、行方不明になった人達を捜索する。黒幕の親方様は逃げ出したようで見つけられなかったが、行方不明になっていた女性達を助け出すことができた。ロサルが「助けに来ましたぜ、ハニー。あっしの恋人枠空いてますよ」と言って女性達にアピールしていたのを見て思わず苦笑したが、これで僕らは無事にクエストを達成したのだ。ただ一つの問題を残して。
◇◇◇◇
(ここは)
「おや? また来たのかい?」
紫色のフードを被ったご老人に言われる。
「そうみたいです」
「何か困ったことでもあるのか?」
「あっ、そうです。僕、急に魔法が使えなくなってしまって、どうしようかと」
「ほほほ。そうか、魔法が使えなくなったのか」
「はい、そうです」
「お主にできることを、やればいいんじゃよ。他に何ができるかね?」
「そうですね――修練が足りないですけど剣術ですかね」
「そうかそうか。剣に魔法とは随分と優秀じゃの」
僕は黙って続きを聴く。
「わしが言えることはな。できなくなったと弱気にならず、困難に立ち向かう姿勢を崩さないことが大事なんじゃよ。弱さを見せると、そこに付け込まれ悪い気を流し込まれてしまうんじゃよ」
「はい」
「それとな、額に紋が出ていると思うから、確認するとよいぞ」
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