第18話 危険な提案

 僕らの旅は順調に進み、目的の帝都に辿り着いた。きっと帝都には大きな図書館があるだろう。僕はそこで呪いについての文献を調べるつもりだ。


「旦那、着きやしたぜ。ここが帝都の中心でさぁ」


 ひょっとするとザビンツ帝国の帝都はセラフィーロ王国の王都よりも大きいのかもしれない。そんなことを感じさせる街並みが広がっていた。


「みんな。僕は図書館へ行こうと思っているんだけど、みんなはどうしたい?」

「旦那。先に宿を取りましょう。下手すると満室になっているかもしれませんぜ」

「そうだね。そうしようか」


 ロサルの提案を受け、僕らは宿屋を探し始める。探している途中に冒険者ギルドを見つけ「午前中文献を調べて、午後はクエストをこなすのもありだな」と。泊まる宿屋が決まったあと、そのことをみんなに伝えることにた。


「りょうかい、レイユ君」

「わかりました」

「みんなゆっくりしてね。僕、図書館へ行くよ」

「あっしもついて行きましょうか? 地味めがねで――」


 僕はウォーターボールでロサルの頭に水をかけた。


「大丈夫、一人で行くよ」


 ◇


 帝都の図書館はセラフィーロ王国の王都の図書館と同じくらい、いや、それよりも大きな建物だった。


(でっかいなぁ)


 図書館の中に入る。僕は図書館の入り口近くにある、貸出カウンターのところにいる職員に声をかけた。


「すみません」

「はい、何でしょうか?」

「呪いの紋についての文献を探しているのですが、どこにありますかね?」

「それなら、閉架書庫に――」


 どうやら、呪いに関する文献は閉架書庫にあるみたいだ。僕は職員の方に案内され、呪いにまつわる文献があるコーナーへ行く。


「ここから三つの本棚が該当します」


(多いな。これ調べるのに何か月もかかるのでは?)


 職員の方に許可をもらい、閉架書庫にある本を数冊持ち出して、二階にある読書スペースへ。


「よいしょ。じゃあ、読みますか」


 読み終わったら閉架書庫に返し、また持ち出して本を読む。集中していたこともあり、この日は日が暮れるまで図書館で過ごした。


 ◇


 翌日。僕が図書館に行っている間に、ミム達にはギルドで情報収集してもらうことにした。お昼前に図書館で文献を読み終え、ギルドへと向かう。ギルドでミム達と合流するとロサルから言われた。


「旦那、この人探しのクエストたくさんあって面白そうでっせ。何でも美人さんばかり行方不明になっているとか」


(ロサルさぁ。いくら女好きだからって、それでクエスト選ぶなよ)


「それにもう一つあるんですよ、旦那」

「ん?」

「このギルドに首筋に紋がある冒険者がいるんですよ、偽旦那と同じ紋。ほら、あそこ」


 ロサルがしめした方を見ると、ガタイがよい男が一人と、すらっとしている男三人の冒険者がいた。


「怪しいと思うんですよ。あの偽旦那に姐御も姐さんも攫われたかもしれないじゃないですか?」

「そうだね。とりあえず、今日は情報収集が終わったら宿屋に戻ろう」


 僕らはギルドでの情報収集を終えたあと宿屋に戻り、人探しのクエストと口封じの呪いの紋がある冒険者について話し合った。


「彼らについて行けば、多分、行方不明になった人達が見つかるかもしれない」

「旦那、呪いヤロウにどうやってついて行くんですか?」

「そこなんだよね。バレたら、もうチャンスが無いかもしれないし」


「レイユ様。提案があるのですが――」


 ◇


「じゃあ、くれぐれも気をつけて」

「だいじょうぶい! 何かあったらレイユ君に助けてもらうから」


「心配だなぁ」

「護身用の短剣も用意できたので、大丈夫かと思います」

「うん。でもミム、油断しないでよ」


 作戦会議の結果。ミムの提案を受け、僕らは囮捜査をすることにした。念のため亜空間魔法でテレーザに印を付け、場所を確認しながら追いかけていく予定だ。


 ◇


「お嬢さん方」

「えっ」

「ちょっとお時間いいですか?」

「はい。大丈夫ですよ」

「じゃあ、このお兄さんの顔にどこかおかしな所があるんだけどわかる?」

「えーっと」


「俺の目を見て、『ヒプノシス催眠』」


「はい……」「はい……」


「じゃあ、あっちに馬車があるから行こうか」


「(コクン)」「はい……」


 ◇


 無事にミム達は接触できたみたいだ。男達にバレないように彼女達のあとを追いかける。


「旦那、遅れないでくださいよ」

「うん、わかってるって」


 しばらくミム達のあとを追いかけると、ちょっと違和感のある幌付きの馬車見えた。おそらくあの馬車にミム達は乗るのだろう。


「ロサル、先に行くね」

「ちょ、ちょっと旦那!」


 僕は急いで馬車に近づく。男達とミム達が乗り込んだのを確認したあと、浮遊フロートを使って、幌の上に静かに乗った。


(ミム達の動き、何か違和感があったな)


「じゃあ、出してくれ」

「はい」


 馬車が動き出す。


(ロサル、頑張って走ってきてるな)


 ロサルは馬車に追いつくと、馬車の後ろにしがみついた。「あれは腕力が無いと振り落とされるな」と思いながらも、ミム達の会話が聞こえてくるかどうか耳を傾けた。


 ◇


「今日は大当たりだな」

「ああ、こんな美人二人連れていったら親方様も喜んでくれるぞ」

「報酬が楽しみですね」

「まあな。そろそろ俺達にも女を分けてもらいたいんだけどな」


かしらがいるのか。しかし、おかしいな。こんな会話なのにミム達の声が聞こえてこない)


 馬車は二十分ほど帝都を走り、郊外に出ると大きな館が見えてきた。きっとあの館の中に行方不明になった人達がたくさんいるのだろう。


(ロサル、ちゃんとしがみついているかな?)

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