第8話 裏切られた男

 エフゲーアの毒を解毒するため、僕らはツェーハー草を採りに森の中を進む。この森を抜けた先にある山にツェーハー草が生息している場所があるので、できるだけ急ぎ足で歩いた。


「二人とも大丈夫?」

「大丈夫です」

「だいじょばない」


 テレーザは少し疲れている様子だ。僕は亜空間魔法を使って、中に入れていたポーションを取り出し、彼女に渡した。


「テレトワ、これ飲んで」

「ありがとう、レイユ君」



『ギャギャギャ! ギャシャシャ!』

『うわぁぁぁぁ!』


(何だこの悲鳴)


「誰かが襲われているかもしれない。二人ともここで待っていて」

「ま、待って!」


 僕は音のする方へ全速力で走った。


 ◇


「はあ、はあ」「はあ、はあ、はあ」

「はあ――はあ、はあ」「はあ、はあ」


「何があったんですか!」


 目の前には息を切らした男達の姿が。事情を聴こうとしたが、彼らは僕の横を通り過ぎ、どこかへと逃げていった。


『ギャギャギャ! ギャシャシャ!』


 ◇◆◇◆


「ハメられた――畜生ちくしょう


 クエストを失敗し魔獣から逃れるときに、あっしは臨時パーティーを組んだメンバーに足を切られた。魔獣が目の前にやってくる。はじめからアイツらあっしをおとりに使うつもりだったんだ。


「血が流れすぎだろ――ここまでか……」


 限界まで達し、その場に座り込む。これから魔獣の餌食になるのだろう。あっしの人生はこんなんで終わりなのかと。


『ファイヤーアロー!』


 ◇◆◇◆


 僕は必死に走り、音のする方へと向かう。しばらく走るとゴブリン達の姿が見え、近くには一人の少年が血を流して座っていた。


(ゴブリンナイトだけでなくゴブリンリーダーもいる)


『ファイヤーアロー!』


 一体のゴブリンに命中。続けざまに「ファイヤーアロー」を唱えては、ゴブリン達を一体一体仕留めていった。


「大丈夫か!」

「助かったよ。ありがとう」

「すぐに手当する」


 僕は少年の左足にある傷口に手をかざす。淡い光とともに傷が回復し、左足の流れていた血も止まった。


「すまない。こっちの足もお願いできるか?」

「傷はどこ?」


 少年の右足も治していると、ミムとテレーザが現れ、テレーザから言われる。


「ちょっとぉ。勝手に突っ走らないでよ」

「ごめん、必死になってつい」

「うちらを置いていくなんて、ホントもう!」


 僕がテレーザに言い訳をしていると少年は立ち上がり、足についた土を払っていた。


「旦那、本当にありがとう。あっしはロサルって言うんだ」 

「うん、大丈夫だよ。僕はレイユ」

「旦那がいなかったら、死んでいたよ。助かった――ああ、マジあいつら殺す」

「何かあったの?」

「臨時パーティーを組んでいたやつらに裏切られた。足を切られ囮にされちまった」

「そんな――酷い」

「まあ、冒険者をしていれば日常茶飯事なことなんだよ。油断した――おっ、とっ、とっ、とっ――」


 ロサルはバランスを崩し、ミムの前へ。


むにゅ


 彼の手が伸び、ミムの胸を鷲掴みにした。


ばちーん!


 綺麗なビンタの音が鳴り響く。ロサルは倒れ、ミムは彼を睨んだ。ロサルは頬を撫でながら苦笑いをして言う。


「ごめんごめん、わざとじゃないんだ。目の前に柔らかそうなイイおっぱいがあったから、ついな」


(そのセリフは、わざとって言っているようなものだろ)


「信じらんない。あんたなんかが、あたしのおっぱいを触るなんてあり得ない! あたしのおっぱいを触っていいのはレイユ様だけだから」


(えっ)


「ちょっと何言っているのよ! ミムミム。ねえレイユ君、婚約者のうちがいるのに浮気しておっぱい触ったりしないよね?」


(二人ともやめてくれ)


 バッチバチに火花が見える。


「ふん!」「ふん!」


 彼女達はお互いを見たあと、そっぽを向いた。


「はぁ。その話は置いといて、今はツェーハー草を探しに行くのが優先だ」


「旦那」


 ロサルに声をかけられる。


「あっしもついて行っていいですかね? ゴブリンリーダーが出るとマズイんで。旦那なら瞬殺でしょ? 頼みますよぅ」

「いいよ」


 時間を取られたくなかったので、すぐにロサルにOKを出した。


 ◇


 僕らはロサルと共に山を登り、ツェーハー草の生息しているエリアに辿り着いた。様々な薬草が生い茂り、選別しながら取るのは時間がかかりそうだ。


(四人でまとめて採って、あとで選別するか)


「みんな、この草がツェーハー草。見分けがつかなかったら、取りあえずそれっぽいの物は採って。ギルドに戻ったあと、僕が選別するから」


 四人で手分けして薬草を集めていく。ある程度採ったのち僕が薬草を預かり、ギルドへ持ち帰ることにした。


 ◇


「旦那。じゃあ、あっしはこれで。何か用があったらギルドの簡易宿泊所にいますんで、よろしく頼んます」


 ギルドに戻り、中に入るとロサルからそう言われる。僕は「わかった、そのときは声をかけるよ」と彼に言った後、受付へと向かった。


「いらっしゃい――レイユさん、おかえりなさい。どうでしたか?」


 受付の方にツェーハー草の採取のことを聞かれる。


「はい、思ったよりもツェーハー草がありました。ポルコさんは?」

「薬師の方を探すと言って、ここにはいません。夕方になるかと」


 これから薬師の方を見つけて、受け取ったツェーハー草を渡し、解毒薬を作ってもらう。「時間がかかるな」急いが方がいいだろうと思い、僕はギルドの方に僕の考えを伝える。


「そうですか。では、採ってきたツェーハー草の半分を預けます。残りの半分で僕が調合してみますから、そのことをポルコさんに伝えてください」

「わかりました」

「あと、ツェーハー草を選別するための場所を借りてもいいですか?」


 僕はギルドの脇にある、魔獣の解体所でツェーハー草を選別していく。受付に半分を預けたあと、宿屋へ向かい。その宿で解毒薬を調合することにした。


 ◇


(思ったよりも大変だな)


 僕は宿屋の部屋で解毒薬の調合を始める。薬草大全を見ながら作業。知識・経験不足のためか、中々調合が成功しない。調合作業は深夜までかかり、途中眠くなって眠りに落ちてしまった。


 ◇◇◇◇


(ここは)


「おっ、また来たのかい」


 紫色のフードを被った、ご老人に声をかけられる。


「解毒薬がうまく作れなくて」

「ほうほう。解毒薬とは、なるほど」

「はい」

「毒で自殺を図るとは、冥界のことをよく知らぬのぉ」

「自殺?」

「そうじゃ。自殺者の魂は永久に冥界の奥深くに囚われる。それだけならまだよいが、冥界にいる者達の不満のはけ口になるからのぉ。氷の中から連れ出され、炎であぶられ、ときには鋭利な刃物でめった刺しにされる。痛みは続き、逃げたくても逃げられないからの。バカげた話じゃ」

「それじゃ、自殺でこの世から逃げても報われないじゃないですか」

「そうじゃ。あっ、お主の探している知識はあっちの本棚にあるぞ」

「ありがとうございます。ちょっと見にいきますね」

「ほほほ。まあ、真水の量が多すぎるんだがな」


 ◇◇◇◇


(はっ! 今何時だ)


 起きると空が薄っすらと明るくなっていた。僕は夢の中で得たヒントも使い、解毒薬の調合を続ける。


「よし! できたぁ!」


 解毒薬が完成すると同時に、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


コンコンコン


「はい」

「レイユ様、おはようございます。食べ物を食べていないですよね?」

「食べてないね」

「先ほど、食堂でパンを貰いましたから――」


「レイユくーん! おはよ――って、何なのミムミム」


 ミムとテレーザが、僕の様子を見にきてくれた。


「解毒薬完成したよ。これからギルドへ向かおうと思う」

「レイユ様。パンを食べてからギルドへ行ってください」

「えっ。レイユ君、もしかして昨日の夜から何も食べてないの?」


 僕はテレーザから視線を外し、天井を見る。


「もう! 完成したんでしょ? ほら、食堂へ行くわよ!」

「うわっ! ちょっと!」


 僕はテレーザに手首を掴まれ、食堂へと連れていかれる。そして食堂で僕は彼女達と一緒に朝食を食べた。食べ終わったあとは部屋に戻り、各々おのおの出かける準備をする。解毒薬を持ったことを確認して、僕は彼女達と共に宿屋を出てギルドへと向かった。

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