第9話 左に巨乳美少女、右にはカワイイ美少女。

「おはようございまーす」


 朝、僕はミムとテレーザと共にギルドの中に入ると、ギルドの職員の方々がギルド内を掃除していた。


「おっ、あんたかい。ちょっと待っていておくれ」


 僕に気がついたマチルダさんはそう言って、職員たちに指示を出していた。


「毎日掃除大変ですね」

「毎日はやってないよ。今日は特別」


 マチルダさんがギルドの隅に目を向けたので、僕もつられて見ると、そこには血で汚れた男達が倒れていた。


「えっ、あれって……」

「あいつら深夜に喧嘩したんだよ、まったく。ギルドの外でやってくれっていうんだよ」


 どうやら掃除をしなくてはならなくなった原因は彼らみたいだ。


(迷惑な人達だ――あれ?)


 倒れている男達の中に見覚えのある男がいる。ロサルだ。僕はロサルに近づき話しかける。


「ロサル。ロサル大丈夫か?」

「う、うっ」


 酷い怪我を負っていたので、僕は手をかざしロサルの傷を治していく。


「ロサル、もう少しで終わるよ」

「う、うーん。だ、旦那?」

「うん。レイユだよ」

「すまねぇ。また借りを作っちまった」

「大丈夫、気にしないで。もしかして――」

「昨日、裏切ったヤツらとヤリ合ったんだよ。四対一は勝てねぇ、イテテテ」


 僕はロサル以外の男達を見る。彼らはまだ起きていないみたいだ。


(まっ。彼らにはアクアヒールをかけなくていいか)


「受付開始するよ。さ、並んだ並んだ」


 マチルダさんの声で冒険者の方々が受付に並ぶ。


「ちょっと、あんた。こっち来なさい」


 僕はマチルダさんに呼ばれ、受付の端へと移動する。


「依頼人から地図を預かっているよ。ほら、これ」

「マチルダさん、ありがとうございます」


 僕は紙を受け取り、地図を見る。


「薬師はまだ見つかっていないだどさ。解毒薬ができたのなら、すぐに来てほしいって言われたよ」

「わかりました。すぐに行きます」

「はっ? あんた随分とまた仕事が早いねぇ」

「そうですかね――では、行ってきます」

「はいはい、気をつけてね」


 ギルドの入口へ行こうとするとロサルと目が合う。彼はもう大丈夫みたいだ。僕はミムとテレーザと共にギルドを出てポルコさんの家へと向かった。


 ◇


(この大きい家かな)


 僕らは地図を頼りにポルコさんの家を探す。大きな家の庭で働いていた庭師の方が僕を見ると、何かを言いながら家の中へ入っていった。


「レイユ君、ここ?」

「うん。地図だと、この家」


 僕らが門の前で立っていると、玄関からポルコさんが出てきた。


「ミムちゃん達、よく来てくれた。さっさっ、中へ入って」


 ポルコさんに促され、家の中へ。僕はポルコさんに言う。


「エフゲーアの毒の解毒薬を作りました。毒を飲んだ子はどこにいますか?」

「おお! ホントか! 案内する、ついて来て」


 ポルコさんの後についていき、とある部屋の中へ入る。その部屋のベッドには一人の少年が青ざめた顔をして横になっていた。


(やはり、毒の症状か)


「ポルコさん、これが解毒薬です。僕が彼に回復魔法をかけ続けますので、その間に飲ませてください」

「ありがとう。わかった」


 少年の横に行き、手をかざす。だいぶ体力が消耗していたのだろう、思っていたよりも深刻だった。


「ユル、飲めるか?」


 ポルコさんがユルに解毒薬を飲ませる。この解毒薬の量では完全に解毒はできないだろうが、これで毒による浸食のスピードを抑えることができるだろう。


「ポルコさん。薬師の方は見つかりそうですかね?」


 僕はアクアヒールをかけ続けながら、ポルコさんに聞く。


「いや。見つからん」

「僕、ギルドに戻ったら、残りのツェーハー草で解毒薬を作ります」

「ホントか!」

「はい」

「そうだ! もしよければうちで解毒薬を作ってくれないか? ユルの体調が急変したときの為にも――頼む!」

「わかりました。ツェーハー草を受け取ったら戻ってきます」

「ありがとう! それと、もし宿に泊まっているのなら、うちの客室に泊まりなさい。食事も御馳走する」

「お心遣いありがとうございます。遠慮なくそうさせてもらいますね」


 ◇


 僕らはギルドで預けていた残りのツェーハー草を受け取る。そのまま、ポルコさんの家に行き、僕は広い部屋を借りて解毒薬を作り始めた。


(この量なら失敗しなければ、たくさん作ることができるな)


 調合作業は順調に行き、お昼過ぎには作業を終える。僕はポルコさんを呼んで、解毒薬が出来たことを伝えた。


「出来上がりました」

「助かった。本当にありがとう」

「あの、ポルコさんお願いがあるのですが」

「何だい?」

「お金を借りてもいいですか? 奴隷会館へ行ってミムを奴隷解放をするのと帰りにポーションを買ってきますので」

「もちろんだ。いくら必要だ?」


 僕は解毒薬をポルコさんに渡して、お金を借りる。それからミムを連れて奴隷会館へと向かった。もちろんテレーザもついてくる。


「レイユ様。本当にいいんですか?」

「ん? 何を?」

「あたし、奴隷のままでもいいですよ。従者ですし」

「いやいやいや。ゼッタイに奴隷解放した方がいいって。それに従者は奴隷じゃなくなってもできるでしょ?」

「そうですね。でも、夜のお世話がまだ――」


「ちょっと、ちょっと! 何言っているのミム! それは婚約者のうちの役割! 勝手に取らないでよ!」


 こんなときに僕はどうしたらいいか、わからない。勉強してわかるものなのかな?


「レイユ様はあたし」

「レイユ君はうちの!」


(おいおい)


 左腕にミム。右腕にテレーザ。二人に捕まえられ、困惑する。道行く人達は物珍しそうにこちらを見ていた。


「ねえ、恥ずかしいんだけど、離れてくれないかな?」


 そう言うと、二人は何も言わずに胸を押し付けてきた。やっちまった。逆効果だった。


(もう!)


「一緒に旅をしたいなら、離れてよ」


 不満そうにしながらも、二人は僕の腕を離す。僕は連日、解毒薬の調合を集中して作っていたせいか、奴隷会館に着く頃には、もうクタクタになっていた。


 ◇


 奴隷会館で無事にミムを奴隷から解放し、その帰りにポーションを買いに行く。買えるだけのポーションを買ってからポルコさんの家に着くと、今日泊まる客室へと僕らは案内された。


「この部屋です。どうぞゆっくりしていってください」


(……ベッドが二つね。何か起こるな)


「ミムミムはそっちのベッドね。うち、レイユ君と一緒に寝るから」

「いえ。レイユ様は今日は疲れています。疲れを癒すのは従者の役割です。なので、あたしがレイユ様と一緒に寝ます」

「はあ? 奴隷なんだから譲りなさいよ!」

「もう奴隷じゃないです!」

「だったら、あんた男爵でしょ? うち、子爵だからあんた黙ってなさい!」

「優しいレイユ様はそんな上下関係を気にしません。レイユ様、器の小さい人は放っておいて、あたしと――」


 左腕にミム。右腕にテレーザ。二人に捕まえられ、困惑する。


「ふん!」「ふん!」


(まったくこの二人は……)


「「あっ!」」


 二人は見つめ合い、二人の目はどことなく輝いていた。そして僕の顔を見てにやける。


「ウシシシシ」「ニヒヒヒヒ」


 ◇


(何故こうなった)


 夕食をいただいたあと客室に戻ると、二つのベッドは横並びにくっついていた。ミムとテレーザに促され、ベッドの中央へ。左手にミム。右手にテレーザ。どうやら二人に挟まれて今夜は寝なくてはならないようだ。


「レイユくーん(すりすり)」

「レイユさまぁ(むにゅ)」


 二人は相手にしてくれと積極的にグイグイ来る。けれども昨日今日の調合で疲れ果ててしまった僕は、二人の相手をすることもなくそのまま眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る