第2話 子爵令嬢の想い
うちの名前はテレーザ・トワール。うちには婚約者がいて、学園でも抜きん出て頭のいい人だ。その人の名前はレイユ・バルサード。初めて見たときはそんなに魅力を感じなかったけれど、彼の真面目で誠実な人柄に少しずつ惹かれていった。「この人と結婚できるのかぁ」と、幸せな未来像をうちは描いていた。しかし、その未来はきっと来ないのであろう。そう思うきっかけとなった出来事があった。
◇
「お呼びでしょうか? 殿下」
「おう、よく来た。テレーザに話さねばならぬことがある」
「何でしょうか?」
「君の婚約者であるレイユ・バルサードについてだが、国賊の疑いをかけられている」
「えっ」
「まあまあ、落ち着いて聞いてくれ」
「はい」
「彼の魔法に関する能力は計り知れないからな、国に対しても影響力のある人物になるであろう」
第二王子であるカイン王子の話を聞きながら「レイユ君は国に認められているのだな」とうちは納得した。
「ただ――、最近の彼の行動に不審な点があってな。それで調べていくうちに王家のことを快く思っていないふしがあるようだ。これから彼が重大なことをしでかすかもしれない」
そんなことは彼はしない。真面目で誠実な彼がそんなことをするはずがない。
「これ以上詳しいことは言えんが、レイユは王家に歯向かうと親父は判断するだろう。捕まったら処刑になるな」
カイン王子の言うことを黙って聞く。
「まあ、俺の力で彼を救うこともできるがな」
うちは落としていた視線を上げ、カイン王子の目を見る。
「まっ、それについては只では動く気は無い。君が条件を飲んでくれたら動こう」
「条件とは?」
「俺の女になれ」
レイユ君を死なせたくない。彼の顔が思い浮かび、うちはそう思った。カイン王子の側室になればレイユ君は死ななくてすむかもしれない。
「ガリ勉伯爵との婚約を破棄して、俺の婚約者になれ。君のような才色兼備な人物が王妃になったら、国民もさぞかし喜ぶだろう」
王妃? 側室ではないということなの? それよりも第一王子を退けて王になるつもりなのか。そんな疑問を持つ。
「いつガリ勉伯爵が捕まるかはわからない。決めるなら早い方がいいんじゃないか?」
うちがレイユ君との未来を諦めるのなら、彼は死なずに助かるだろう。うちは彼に死んで欲しくない。
「わかりました。婚約について前向きに父と相談します」
「早くしろよ。こっちは婚約者の候補に断りを入れるから。候補者も次のお相手を探す都合もあるからな」
カイン王子が立ち去ったあと、うちは一人考える。「この様なことで自分の人生を決めていいのか? いや――」
そう、うちはレイユ君のことが大好きなんだ。だから死なせたくないんだ。自分の気持ちを改めて気づき、父親と相談した上で、うちはカイン王子の婚約者になることを決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます