第43話 疑惑のサリア先生


 部屋の中へ入ると、サリア先生は既にベッドから起き上がっていた。


「大丈夫ですかサリア先生?!」

「あら、おはようございますアラン」

「おはようございます……」


 思ったより元気そうだな。


「侵入者を捕まえたという話を聞きましたが……」

「そうなのです! 今は全身を縄で縛ってお屋敷の地下室に閉じ込めていますから、心配しなくて良いですよ!」


 それ、絶対に脱走されるフラグじゃん。後でこっそりと捕まっている侵入者とやらの様子を見に行った方が良さそうだ。……もっとも、俺にどうにかできる相手なのかは不明だがな。


「悪漢を捕まえてしまうだなんて……サリア先生、武芸も嗜んでいらしたのですわね」


 するとその時、ドロシアが驚いた様子でそう言った。


 俺はその口調に驚いたのだが、そういえばドロシアにはかしこまった話し方をするとお嬢様口調になってしまうという謎の設定があったな。


「素敵ですわ!」


 果たして、ドロシアは一体どこを目指しているのだろうか。一瞬そんな疑問を抱いたが、その答えは言うまでもなく「お嬢さま」だろう。


「いいえ、そうではありません。――悪しき心を持つ者にとって、私の治癒魔法は痛みとなるのです」


 お嬢さまドロシアに問いかけに対し、優しく教えるような口調でそう答えるサリア先生。


「ふぅん、そういうものなんですの?」


 しかし、肝心のドロシアはいまいち分かっていない様子である。


 ――だが、質問してくれたおかげで俺にはなんとなく理解できたぞ。つまりサリア先生も何だかんだで強いということだな! 結果的には付き添いで来てもらって正解だったということである。


「それに、皆さんが私のことを守ってくれましたからね……!」


 それからサリア先生は、枕元に置いてあった何かの本を抱きしめながら呟いた。


 この発言が意味するところは俺にも分からない。その場に居たサリア先生以外の皆が首をかしげている。


 手柄を自分のものとしない謙虚さの表れ……なのだろうか? 


「買いかぶらないでください。――少なくとも、僕は寝ていただけで何もできませんでした」

「そんなことはありませんよ、アラン。……うふふ」


 その様子からして、謙遜しているというわけではなさそうだな。サリア先生は時々ミステリアスだ。少々抜けているとも言い換えることができる。


 実をいうと、先生が現在着ている服もちょっと変だからな。


 胸のあたりに穴が空いていて、メリア先生みたいな露出度になっている。


 おそらく侵入者と戦った拍子にああなってしまったのだとは思うが…… 痴女二人だったらともかく、お淑やかなサリア先生をこんな姿にするなんて許せんな!


  それはそれとして着替えた方が良いのではないだろうか。


「あ、あの……ところで先生……何か着替えを持ってきましょうか……?」


 耐えかねたレスターが、顔を赤らめながら言った。


「いいえ、お気になさらずに」


 しかしあっさりと断られてしまう。


「あ…………はぃ……」


 こっちが気にしてるんですよサリア先生! 謎の鈍感さを発揮しないでください!


「……おや? 顔が赤いみたいですが、大丈夫ですかレスター? 私が熱を計ってあげますから、こちらへ来てください。辛いのであれば、このベッドで少し横になっても――」

「だっ、大丈夫ですっ! 気にしないでくださいっ!」


 まずい、このままではレスターのレスターが男の子になってしまう! というか、おそらくもうなっている! さっきからスカートおさえてるし!


「分かりました……。あまり無理はしないでくださいね?」

「は、はいっ!」


 やはりサリア先生も痴女だったのか……? 血は争えないのか?!


 俺が疑念を抱き頭を抱えていると、サリア先生はこう言った。


「とにかく、今日は大切なお祝いの日ですから……私のことは気にせず楽しんでください!」

「いや、流石にこの状況では……」


 ――その後、レスターとドロシアの誕生日パーティは事の重大さを鑑みて日を改めることとなり、お祝いは俺たちでささやかに行った。


 当然だな!

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転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~ おさない @noragame1118

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