第42話 運命の日
気が付いたら朝になっていた。
「あ、あれ……?」
昨日は寝ずの番をするつもりだったのに、ぐっすりと眠ってしまっていたようだ。なんたる不覚。
確か、廊下でサリア先生と遭遇して「夜更かしをしてはいけませんよ」と言われたところまでは覚えているのだが……その後の記憶がまったく無い。
会話をした後すぐに眠ってしまって、サリア先生が部屋まで運んでくれたのだろうか? だとしたら物凄く恥ずかしいぞ……!
「うーん……でも、そんなに眠くなかったはずなんだけどなあ……」
俺が首をかしげていると、部屋の扉がノックされる。
「あ、アランくん……起きてますか……?」
どうやら、レスターが訪ねて来たらしい。……どうやら、昨晩は何事もなかったようだな。ひとまず安心だ。
「入っていいよ!」
俺がそう返事をすると部屋の扉がゆっくりと開き、純白のドレスに身を包んだ儚げな美少女――もとい美少年(?)のレスターが中へ入ってきた。
恐ろしいことに、お淑やかなお姉さんのような主張しすぎない感じのいい匂いがする。サリア先生にも負けていない。
今のレスターを初見で男の子だと見抜ける者は存在しないだろう。ギルバートが見たら、取り返しのつかないところまで性癖を破壊されてしまうかもしれないな。
「……いつにも増して可愛いね、レスターちゃん」
「もうっ! からかうのはやめてください……っ!」
顔を赤らめながら怒るレスター。
普通、こういうやり取りは許嫁のドロシアとするべきだと思うんだけどな。おかしいな。
「でも……こういう格好をするのも今日でお終いです! ボクはやっと……アランくんみたいな格好をして過ごせるようになるんです!」
「えっ……?」
そんなあ。
「そういえば……魔除けのために女の子の格好をするのは十二歳までだったね」
「はい! これからは、ボクも一人前の男です!」
「……おめでとう」
レスターが男の子だと知って、様子がおかしくなる人間を見られなくなるのかと思うと残念だ。
しかし、よく考えたらレスターはどんな格好をしていようと普通に女の子に見えてしまうのではないだろうか。
「これからは、もう女の子だと思われることもありません!」
「う、うん……ソウダネー!」
本人の指摘したらショックを受けてしまいそうなので、気付かなかったことにしよう。
「明日から、かっこいい黒のマントを羽織って過ごそうと思います! 通り名は『凍てつく漆黒の
「それはやめておいた方がいいかもー」
「えぇっ?!」
そんなことをしたら、今とは別の恥ずかしさを味わうことになるぞ。後からじわじわと効いてくるタイプのやつ。
人はそれを黒歴史と呼ぶ。……この話はもうやめにしよう。
「……ところでレスター。昨晩は何事もなかった? 僕、いつの間にか寝ちゃってたみたいなんだけど……」
俺はひとまず話題を変えるため、少し強引ではあるがそう聞いてみる。
「実を言うとボクもそうなんです。いつでも侵入者と戦えるように、夜通し起きてるつもりだったんですが……廊下でサリア先生と偶然すれ違って少し話した後、気が付いたらベッドに寝ていて……」
レスター、お前もか。
「そっか……。でも何事もなくて良かったよ」
しかし、二人揃ってここまであっさりと眠ってしまうなんて……催眠系の魔法でも使われたのか?
――もしかすると、既に何者かの攻撃は始まっているのかもしれないな。
「問題は今日……ですよね」
レスターが真剣な表情で言ったので、俺は無言で頷いた。
「た、大変よっ! 起きなさいアランッ!」
その時、部屋の扉が勢いよく開かれて中へドロシアが飛び込んでくる。
「……って、もう起きてるじゃない! レスターもいるし!」
真っ赤なドレスに身を包んだドロシアは、俺達の方を見て言った。
「おはようドロシアちゃん。一体何があったの?」
「サリア先生が怪しいヤツを捕まえたのっ!」
「え……?!」
その言葉に驚愕する俺とレスター。
何ということだ。やはり、昨晩の時点で刺客は送り込まれていたらしい。
「だけど、サリア先生もかなり魔力を消耗してるみたいで……と、とにかく来なさいっ!」
「――わかった、すぐ行くよ」
かくして、俺たちはドロシアの案内でサリア先生の元へ駆けつけるのだった。
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