第2話 青木麗華への連絡
鈴木陽一の豪邸から少し離れた高台の一軒家、その書斎の奥に、青木麗華は静かに座っていた。大きな窓から差し込む午後の日差しが、彼女の手元に広げられた漫画の原稿用紙を照らし出す。ペンを走らせる音だけが、静かな部屋に響いていた。
麗華は最近、密室トリックを題材にした新しい作品に取り組んでいた。密室の中でどのように人々が動くのか、どんな心理が働くのか、その一つ一つを細かく描き出すために、彼女は自らの推理力をフルに活用していた。
その時、携帯電話がテーブルの上で震えた。麗華はペンを置き、電話を手に取る。「夏川警部…何かあったのかしら?」と小さく呟きながら、通話ボタンを押した。
「麗華さん、夏川です。ちょっと厄介な事件が発生しました。ぜひあなたの助けが必要です。」
麗華は電話越しの夏川の声に耳を傾け、すぐに状況を理解した。彼女の目が鋭く光る。「詳細を教えてください。」
夏川は現場の状況を簡潔に説明した。密室状態の書斎、鍵のかかった扉、溶けかけた氷の水滴。そして、遺体となった鈴木陽一の姿。麗華は眉をひそめ、心の中で次々と推理を展開した。
「なるほど。密室で凶器が見当たらない…氷の水滴が鍵になるかもしれませんね。まずは、現場の詳細な写真を送ってください。それから、加藤さんに連絡して、現場の様子をもっと詳しく調査させてください。」
夏川は即座に応じた。「了解しました。すぐに手配します。」
麗華は電話を切ると、デスクの引き出しからノートを取り出した。そこには、これまでの推理のアイデアがびっしりと書き込まれていた。彼女は新しいページを開き、夏川から聞いた情報を書き留めた。
「氷の水滴…これは重要な手掛かりになるはず。氷が溶けて水滴となる時間を計算することで、犯行時刻や手口が見えてくるかもしれない。」
麗華は静かに考え込みながら、部屋の隅に置かれた大きなホワイトボードに歩み寄った。彼女はボードに図を描き、事件の全体像を整理し始めた。窓の位置、ドアの構造、デスクの配置、そして氷の水滴の位置。全てを一つ一つ確認しながら、頭の中で犯行のシナリオを組み立てていった。
その時、再び電話が鳴った。今回は加藤健からだった。「麗華さん、現場の詳細な写真を送りました。それから、書斎のレイアウトや証拠の位置も確認しておきました。」
麗華は加藤の報告を聞きながら、ホワイトボードに新たな情報を書き加えた。「ありがとう、加藤さん。すぐに写真を確認します。」
写真が送られてくると、麗華は一枚一枚丁寧に見ていった。デスクの上の水滴、鍵のかかったドア、書斎の全景。それらをじっくりと観察し、頭の中で現場の状況を再現した。
「これで全体像が見えてきたわ。」麗華は独り言のように呟いた。「次は、氷のナイフの可能性を探る必要がある。それがこの密室トリックの鍵になるはず。」
麗華は再びペンを手に取り、氷のナイフの特性や使用方法についてメモを取り始めた。彼女の目は、次第に解明の光を帯び始めていた。この事件の謎を解くための第一歩を踏み出したことに、彼女は確信を持っていた。
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