青木麗華の指示を受けた加藤健は、すぐさま鈴木陽一の邸宅へと向かった。豪邸の門をくぐると、彼の目の前に広がるのは手入れの行き届いた庭園と壮大な建物だった。夏川警部が出迎え、現場の状況を説明しながら加藤を書斎へと案内する。

「ここが問題の書斎です。」夏川は重厚な木製のドアを開けると、部屋の内部を示した。加藤は一歩足を踏み入れ、周囲を見渡した。壁には鈴木陽一の過去の栄光を物語る数々の賞状や写真が飾られていたが、それらは今や冷たく静かな部屋の装飾品に過ぎなかった。

デスクの上には、まだ乾ききらない水滴が散らばっている。加藤は手袋をはめ、慎重に水滴の跡を調べた。「これが溶けかけた氷の跡だとすると…」

彼はデスクの周囲を丹念に観察し、さらに床に目を向けた。目立たないが、小さな水たまりが足元に広がっている。「興味深いな…」

次に、加藤は部屋全体のレイアウトを確認するために、ゆっくりと歩き回った。書棚には陽一の著作が並び、その中には未発表の草稿が無造作に積まれている。「これが陽一の最後の作品か…」

加藤はその草稿の一部を手に取り、軽く目を通した。そこには、密室トリックを扱った短編が書かれており、陽一の得意とする緻密な描写が続いていた。「まさか…」

その時、加藤はドアの鍵に目を留めた。内側から鍵がかかっていることを確認し、鍵穴を慎重に調べた。「特殊な工具を使った痕跡はないか…」彼は拡大鏡を取り出し、鍵穴の微細な傷を観察した。

「確かに…外部から鍵を操作した形跡はない。しかし、この完璧な密室の中で一体どうやって…」

加藤はさらに窓の周囲を調べた。全ての窓は内側からしっかりと閉ざされており、外部からの侵入は不可能に思えた。しかし、彼は一つの窓枠に微かな擦り傷を見つけた。「これは…」

窓を開けてみると、そこには外部からの痕跡が一切なかった。「やはり、内部からの犯行か…」

彼は再び部屋の中心に戻り、デスクに置かれた電話を手に取った。「麗華さん、現場の写真と詳細を送りました。こちらの観察結果も一緒に送ります。」

電話越しの麗華の冷静な声が返ってくる。「ありがとう、加藤さん。写真と観察結果を確認して、次の手を考えます。」

加藤は電話を切ると、もう一度書斎を見渡した。すべての手掛かりを確認し終えた彼は、現場を出る前にもう一度氷の水滴の跡を注視した。「この氷の謎が解ければ、犯行の全貌が見えてくるはずだ。」

書斎を後にした加藤は、次の調査ポイントに向かう準備を整えた。事件の真相はまだ霧の中に包まれていたが、麗華の鋭い推理と彼の調査が、この謎を解き明かす鍵となることを確信していた。

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