社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第19話 アリスサイド02——光属性のアリス姫が闇落ちした理由——
第19話 アリスサイド02——光属性のアリス姫が闇落ちした理由——
わたしは、短剣をかまえながら、息をひそめてその時を待った。
それから十数分後、部屋の外から人の気配がした。
わたしの鼓動は否応なしに一段と高まる。
そして、自分の身体が震えていることに気がついた。
覚悟を決めたつもりだったけれど、わたしはやはりまだ死ぬのが怖いのだろうか……。
いや違うわたしは——
扉が開けられた。
その瞬間、わたしは、勢いよく飛び出していた。
わたしの身体は有り難いことに動いてくれた。
相手が目的の男——奴隷商人——かどうかはわからない。
けれど、どうせこれではっきりわかるはず——。
男の顔を視界に捉えた瞬間、わたしの頭は割れんばかりの痛みが走った。
間髪入れずに全身に激痛が走った。
いままで感じたことのない痛み——野盗に刺された時よりもさらに激しい痛み。
まるで心の臓を……魂を削り取られるような痛み……。
間違いない、この耐え難い痛みは奴隷紋の……魔法の効果……だ。
つまり、この男がわたしの主人……わたしを奴隷にした忌まわしき男だ。
そして、つまりわたしは……もう間もなく命が尽きるということだ。
それにしても……なんて痛み……なの………。
はやく……はやく……わたしの命を奪ってほしい……。
それともこれはやはり罰……なのだろうか。
みなを犠牲にしながらも、帝国への復讐を果たせずに惨めにはてる私への……。
苦しみぬいて死ねという……みなの恨みなのだろうか……。
薄れゆく意識の中で、わたしの脳裏には父上、母上、それに城のみんなの顔が浮かんでいた。
目が覚めた時、わたしの目に映ったもの……。
それが女神……いや悪魔でもわたしの心は今より幾分か晴れやかだっただろう。
だが、わたしの視界には今そのどれでもないものが映っている。
あの男……奴隷商人の陰険な顔がわたしのことを見ている。
わたしは絶望し、混乱する中で、何が起きたのかを必死に考えていた。
なぜわたしはまだ生きているのか……と。
けれども、その答えはすぐにわかった。
奴隷商人の男が教えてくれたからだ。
「……よかった。目が覚めたのか」
奴隷商人という忌まわしい生業をしているのにお似合いの陰険な目つき……。
何を考えているかわからない乏しい表情……。
けれども、わたしは自分でも信じられないが、その男を見た時、不快な感情を抱かなかった。
むしろ……一瞬、温かな感情を抱いてしまった。
相手は奴隷商人……そしてわたしを忌むべき奴隷にした男にも関わらず……。
わたしは王族として幼い頃から、多くの人々と接してきた。
わたしたち王族のもとに集まる人間は何らかの目的と野心を持った人々が大半だ。
わたしはそうした無数の欲深い人々と日々宮廷で暮らす中で、ある時から、相手の表情をみればおおよその感情を読み取る力を得るようになった。
もちろん細かい心情まではわからないし、魔法の能力という訳でもない。
ただ……相手に悪意があるかどうかがわかる……そんな程度のものである。
おそらく複雑怪奇な人間模様が繰り広げられる宮廷で幼い時から過ごした者ならば誰もがこういう能力を身に着けてしまうのだろう。
そして、今わたしの目の間にいるこの男の表情には悪意や恨みはなかった。
本当にただ……わたしのことを心配している……信じがたいことにわたしはそう判断してしまった。
わたしはこの時、自分の直感を疑った。
混乱している頭のせいだと思った。
だけど、結果的にわたしのその感覚は正しかったのだ。
これがわたしの人生を決定的に変えることになるご主人様との運命的な出会いだったのだから……。
だが、わたしがそのことに気づくまではまだしばらくの時間を要することになってしまった。
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