社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第36話 俺だって奴隷商人なんてやりたくなかった……
第36話 俺だって奴隷商人なんてやりたくなかった……
「わたくしが彼女たちの視線に気づかないと思いましたか? この娘たちの視線……何も言わずともわたくしにはわかりますわ。彼女たちはあなたに奴隷にされて……そして、女として恥ずべきことをさせられて……奴隷紋で縛られて……抵抗できずにどんなに無念な想いをしたことか……」
ナタリアはそう言うと、俺の方をきっと睨むと、
「このナタリア・マラセウス……領内の正義を預かる身としてはもはや見過ごすことはできませんわ!」
そう言って、再び剣の切っ先を俺に向ける。
「お、お待ち下さい……わたしは……その……」
俺は、シドロモドロな言い訳をしながら、どうしたものかと頭を必死に動かしていた。
マラセウス……というのは俺が所属する小王国の名前だ。
まさかナタリアは王族……姫ということなのか。
なぜ王族がこんな辺境の街にやってきたんだ……。
ゲームではマラセウス王国の姫なんて全く登場しなかったはずだが……。
いや……確かマラセウス王国は姫が帝国の皇族に嫁いで、属国になったという設定があったような……。
ファンブックか何かのあまりにも細かい表示だから、俺もほとんど覚えていないが……。
いずれにせよ、何故か不明だがマラセウス王国の姫君が俺——奴隷商人——に関する噂を受けて、わざわざ単身この街に乗り込んできた……といったところか……。
それにしても面倒なことになった……。
いくら小王国とはいえ王族を敵に回したら、俺——奴隷商人——のような立場の人間など、すぐに監獄……いや処刑間違いなしだ。
この世界には公正な裁判など気の利いたものはないのだからな。
適当に言いくるめて、退散願おうと思っていたが、ナタリアの態度を見る限り、とても無理そうだ。
いつもは少し衛兵に金でも握らせれば、たいていのトラブルは解決するのだが……。
どうやらナタリアにはそれ……賄賂は通じそうにない。
加えて……ナタリアの言っていることはほとんど正しい。
俺はケモノ娘たちを娼婦としては働かせてはいない。
それは誤りだ。
だが、ナタリアが誤解しているのはその一点のみで他は全て真実だ。
俺は、彼女たちにギルドの仕事を請け負わせたり、傭兵として働かせている。
そして、彼女たちを奴隷紋で縛り、彼女たちの意思を無視している。
ついでに、彼女たちから猛烈に恨まれているのも事実だ。
先ほどから全身に感じている殺気が何よりの証左だろう。
もはやナタリアに向けられたものというより、半分くらいは俺に対して向けられていると言っても過言ではない。
そう……客観的に見れば、明らかに正義はナタリアにある。
が……この世の中は、小説や映画のように単純な善悪だけで回っている訳ではない。
悪役にも悪役の事情があるのだ。
そう……俺だって好き好んで奴隷商人なんてやっている訳ではない。
日の当たる真っ当な道で生きたかった。
こうみえても俺だって努力はしてきたのだ。
ゲーム知識でレベリングをして、一人で生きていく力をつけたかった。
が……俺の能力は全く上がらなかった……というか、レベルがそもそも上がらなかった。
きっと……奴隷商人にはもともとレベルのキャップがあったのだろう。
そういう訳で、アリスやミレーヌたちケモノ娘たちのレベルはどんどん上がるのに、俺はいつまでも初期値のままだった。
上がったのは世知辛い世を生き延びるためのコミュ力だけだ。
そのストレス——代償——で体は傷だらけで、髪まで剥げかかっている。
そして……今に至るというわけだ。
結局のところ、何のスキルもなく、おまけに頼れる人間が皆無の俺はこの世界では、奴隷商人というロールにしがみつくしかない。
その意味では前世と変わらないのかもしれない。
親ガチャにはずれて、頼れる家族も、さしたる能力もない凡人である俺が、社畜として生きていくしかなかったように……。
そして、そんな愚痴を吐いたところで、誰も聞いてはくれないし、事態は変わらない。
それも前世と変わらない。
ナタリアだって聞く耳を持たないだろう。
となれば……ここはいつものように……
「あ、あの……ナタリア様。立ち話も何なんのでとりあえずわたしの屋敷までご足労いただきたいのですが……」
そう……とりあえず問題は先送りするのに限る。
「フン……わたくしはそのような見え透いた時間稼ぎには——」
「ま、まあ……ナタリア様、よいではありませんか。時間はあるのですし。このような場で話す事柄でもないですし」
「そうですよ。ナタリア様。一応この者の話も聞いてからでないと……」
衛兵たちは、俺の方をチラリと意味ありげに見て、ナイスフォローを入れてくれる。
衛兵たちはいつもの手段——賄賂——でどうにでもなりそうだ。
問題はやはりナタリア……か。
「……ふう……わかりましたわ。あなたの屋敷で申開きを聞いてさしあげますわ」
ナタリアはしぶしぶながら、そう言ってうなずく。
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