社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第13話 序盤で主人公が死んだら、ゲームは破綻するよな……
第13話 序盤で主人公が死んだら、ゲームは破綻するよな……
しかしそれでも、俺の視線はさらにアリスの美貌へと目を引かれてしまう。
アリスのその長い睫毛にかかった大きな青い瞳で見つめられると、ドギマギしてしまう。
俺は、アリスの恐ろしさ……いやその強さをもう何度も間近で見ている。
それにも関わらず俺はこんな場違いな気持ちを抱いてしまう。
これが魔性の美しさというやつなのだろうか。
……いや……単にアリスの外見——美しさ——と中身——強さ——のギャップがあまりにも大きいだけか……。
それとも俺が単に本能に突き動かされる愚かな人間なだけなのか。
「い、いや……その……アリスの身体は大丈夫かな……と思って」
俺は半分嘘のようなことを言って、適当にごまかす。
本当は、自分のことしか考えていないのだが。
まあ……アリスのことを気にしているのも嘘ではない。
「………」
と、アリスは一瞬だけ……そうほんの一瞬だけ顔が歪んだ……ような気がする。
がすぐに、いつもの無表情に戻ってしまう。
そして、
「……も、もちろんです。わたしはこの程度の敵に遅れを取るほど弱くはありません」
と、顔をぷいっとそらして、俺から離れてしまう。
どうやら、俺の発言はアリスにとって好ましいものではなかったようだ……。
「フフ……ご主人さまが……わたしを……わたしの身体を見つめてくれて……聖紋を二回も使ってくださって……わたしの身体を使ってくださって……わたしのことを思ってくれて……やはりご主人さまはわたしのことを……フフ」
アリスは崩れ落ちた瓦礫の山の方に移動して、拳を勢いよくブンブンと動かしながら、何やらブツブツと文句を言っているようだ。
俺に対する抑えられぬ怒りをモノにぶつけているのだろうか……。
……それはいいが、アリスが拳を動かすごとに、瓦礫が粉微塵になっているのだが……。
俺は顔をふって、アリスの振る舞いを見なかったことにする。
そ、そうだ……アリスより今はルシウスの方が問題なのだからな……。
俺は身をかがめて、ルシウスの様子を見る。
いよいよ持って、ルシウスの状態は悪化している。
もう……意識も朦朧としている様子だ。
時間は……もうあまりないな。
さてどうしたものか……と俺は考えをめぐらせる。
このまま放って置いたら、ルシウスは遠からず命を落とす。
俺の眼の前で、俺の命令が原因で、若い人間が命を散らす。
正直言って目覚めが悪いし、罪悪感を覚える。
が……ルシウスが死ねば、俺の討伐フラグは消える。
つまり、俺は助かる。
要するに俺は、このゲームのシナリオ……運命を乗り越えたといえるのではないか。
俺にとってはまさに望んでいたシナリオ……ハッピーエンドである。
が……ことはそう単純ではないのかもしれない。
ゲームであれば終わりがある。
が……どんなに望もうとも世界は終わらない。
前世がそうであったように、ハルマゲドンは起きないし、核ミサイルも飛んでこない。
大地震が起きようとも、パンデミックが起きようとも、俺の憂鬱な人生は何も変わらず……いや年を経るごとに悪化していったが……続いていった。
そして、俺の二度目の人生は今後もこの世界で続いていく。
バタフライ・エフェクト……風が吹けば桶屋が儲かる……。
なんでもいいが、要するにここで主人公のルシウスを死なせたら、今後のこの大陸……いやこの世界の動向は大きく変わる可能性がある。
つまり、それは俺の唯一のアドバンテージ——この世界の先行きを知っていること——がなくなることを意味する。
それにもう少し差し迫った問題を考えてもルシウスを今死なせるのは得策ではないのかもしれない。
ルシウスは反帝国のレジスタンス——その後の同盟軍——のリーダーになる人物だ。
ルシウスには俺にはない人望とカリスマ性がある。
まあ……主人公なのだから、ある意味当然の設定ではあるが……。
いずれにせよ、ゲーム内のイベントではルシウスに心酔した有力人物が続々と現れる。
そして、彼ら彼女たちが、ルシウスの仲間になり、帝国支配下の王国が次々と反乱を起こすことになっている。
ゲーム上では、ルシウスのそうしたカリスマ性により、同盟軍の勢いは膨れ上がる。
そして、弱小だった同盟軍の勢いはついに大陸の覇者たる帝国の勢力すら上回り、帝国はついに崩壊に至る……。
というのが大まかなルナティック戦記のストーリーなのだが……。
まあ……その間に闇の眷属やら古の魔獣やらが突如復活して帝国が大混乱になるという王道の話もあるのだが……。
それはさておき、要するにある意味で強大な帝国の崩壊の原因はルシウスの人としての魅力によるものなのだ。
そんな人物をもしこの俺……しかもただでさえ忌み嫌われている奴隷商人……が殺めたとならば——。
間違いなくそうした人々は怒り狂い、報復を誓うだろう。
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