社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第11話 主人公が序盤のモブキャラに命乞いするところなんて見たくなかった……
第11話 主人公が序盤のモブキャラに命乞いするところなんて見たくなかった……
清らかで無垢な心を持っていたまさに光属性の申し子たるアリスがなぜこんなにも闇に染まってしまったのだ……。
はっ……まさか俺のせいか。
アリスの俺に対する憎しみがアリスを闇堕ちさせるまで大きくなって……それで……。
アリスの横顔は、いつもと変わらずに美しかった。
だけど、俺は思わずおののき、アリスから目をそらす。
そして、聖剣の方に目をやると、いつのまにか剣を包んでいた火はおさまっていた。
だが……もはや聖剣は影も形もなかった。
完全に雲散霧消してしまっていた。
あの小さな炎だけで聖剣を焼き付くしてしまったのか……。
いったいどれだけの魔力が込められているのか。
もしもっと大きな……高ランクの闇魔法ならばいったいどれだけの威力が……。
そして、それを俺に放たれたならば……。
俺は身体は自然と恐怖で震えていた。
直接アリスと相対しているルシウスは俺以上の恐怖に襲われたのだろう。
その瞬間、ルシウスはタガが外れたように
「やだぁ……いや……や、やめて!! 返す……返しますから!! どうか……」
と、絶叫を上げる。
ついで、ルシウスの片手が光だして、そのすぐ後にアリスの身体も再び妖しい光を帯びだす。
先ほど起こったことの逆再生を見ているような光景であった。
「ああ……戻ってきた……わたしとご主人さまの神聖な絆が……ああ……やはり落ち着くわ……ご主人様の気配がわたしの体に……」
アリスは、呆けたような顔をして、恍惚感に満ちた表情を浮かべている。
そして、まるでとても大切な何かを確認するように紋章が刻まれている下腹部をなでている。
俺もアリスが再び俺の支配下に……奴隷紋が戻ったことを感じていた。
アリスは何かに浸るようにしばらくそのままであった。
やがて、アリスはいつもの無表情に戻ると、ルシウスの身体を持ち上げていた手を離す。
ルシウスは支えを失い、その場に崩れ落ちてしまう。
血とほこりでルシウスの顔は汚れて見る影もない。
兜もどこかに飛んでいってしまったのか、男にしてはやや長めの茶色の髪が無造作に顔に垂れている。
そのせいもあってか、先ほどまでは勇猛果敢な凛々しい騎士というイメージであったが、今のルシウスはかよわい乙女のようにすら見える。
実際ルシウスは、なにか内股をモジモジとさせながら、女の子ずわりみたいな格好をしている。
アリスはといえば、ルシウスに対して興味をなくしたのか、彼から顔をそむけてしまう。
そして……アリスは俺の方を見る。
俺はアリスの真意を測りかねていた。
目の前でいったい何が起きたのかもよくわかっていない。
だが、理由は不明だが、アリスがルシウスを完膚なきまでに倒した……ということだけはわかる。
そして、奴隷紋は未だにアリスの身体にあることも……。
つまり、俺は助かった……ということなのか。
「ご主人様……」
アリスがとらえどころのない美しい青い目を俺に向けている。
一見すれば、怒っているようにはみえない。
だけど……きっといや間違いなく怒っているだろう。
自分の意思を誰かに強制されて不快に思わない人間などいない。
「ご主人様……この者の処遇はどういたしますか? まだ息はあるようですが……」
「え……い、いや……それは……」
俺はあらためて、ルシウスを見る。
ルシウスは死んだような目をして、虚空を見つめている。
恐怖と絶望が入り混じった表情で、虚無感すら漂わせていた。
「うう……ああ……アリス姫……なぜこんなことを……」
と、ルシウスがそう絶望に満ちた呪詛を吐く。
言葉だけではなく口から血が滴り落ちている。
「こんなのって……ない。アリス姫を救うようにみんなから言われて来ただけなのに……なんでこんな目に……わたし死にたくない……死にたくないよぉ……」
と、ルシウスは突如として目の前で、子供のように泣きじゃくる。
言葉づかいも先ほどと一変している。
当初の印象に比べてルシウスはだいぶ幼く見える。
今思えば、先程までのルシウスは妙に演技じみていたように思える。
いやまあ……ゲームのシナリオのセリフだから演技といえば演技なのだが……。
それを差し引いても、なにか無理をしている……いやロールを演じているように思えた。
先ほどの俺には余裕がなかったから、ルシウスのそうした不自然さは特に気になりはしなかったのだが……。
こうして落ち着いて見ると、今のルシウスは勇敢な主人公というより、まるで幼い少女……いや少年のようにすら見えなくもない。
……ルシウスの年齢はたしかアリスよりやや年下設定だったから、幼く見えるのも当然か。
ルシウスは俺にとっては天敵ではある。
が……そういうこともあり、俺はルシウスを横目にして思わず同情心が湧いてしまっていた。
一歩間違えればこうして命乞いをしていたのは俺だったのだしな。
「この者は力はまるで貧弱ですが、おかしな力を使うようです。ここで処分した方がよろしいかと……」
と、アリスが俺の横で物騒なことを顔色ひとつ変えずにさらっと言う。
その様子を見て、俺は思わずまた背筋が冷たくなってしまった。
当然、ルシウスはアリスのその物言いにますます怯えきってしまい、なかば狼狽状態になる。
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