社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第10話 キーアイテムの聖剣がヒロインによって、燃やされてしまったのだが、世界は大丈夫なのか……
第10話 キーアイテムの聖剣がヒロインによって、燃やされてしまったのだが、世界は大丈夫なのか……
ルシウスがゲームのストーリー通りならば、まだ彼は初期レベルである。
それならば、俺の今のステータスでもなんとか一撃程度であれば耐えられるのだろうか……。
しかし、ゲームでは奴隷商人は一撃で屠られていたような……。
このままではやはり俺の命は風前の灯火か……。
俺は、ルシウスが突きつけてきた聖剣の輝きに目をくらませながら、恐怖に体をすくませていた。
と、そこにアリスが俺とルシウスの間に入る。
「あなたごときの人間にご主人様とわたしの神聖な関係は理解できません。それにご主人様の偉大さも……。それよりも……わたしから奪ったご主人様の聖印を返しなさい。さもなければ……」
「あ、あなたはこの卑劣な男に洗脳されているのです。だけど、どんな行為であろうともこの月光剣ならば……こ、この聖剣でわたし……いえ僕がアリス姫……あ、あなたの闇を払ってあげます!」
ルシウスはそういうと聖剣をアリスに向ける。
アリスは、聖剣の光を少しばかり嫌そうな顔をして見ている。
そうか……。
月光剣は、ゲーム上では、光属性値が一番高い部類に入る武器だ。
そして、光属性は当然闇属性に対してかなりの特効がある。
敵の多くが闇属性だから、月光剣はやりようによっては最後——ラスボス——まで使える武器である。
低レベル攻略をする場合は、月光剣は必須の装備といえる。
そして、アリスは先ほど最強の闇属性の魔法を使っていた。
それを踏まえると、理由は不明だが、アリスの属性はかなり闇に振れているのだろう。
となると、今のアリスにとって月光剣はかなり危険な武器になる。
たとえ、レベル差があっても使い方次第ではアリスを傷つけることもできるだろう。
それに何よりもルシウスは主人公だ。
当然主人公補正のようなものが……運命が彼に味方するということが起こり得る。
実際、ゲームのストーリー上ではそういう奇跡的な逆転劇が何度も発生している。
いや何よりもアリスがルシウスに対してなぜこれほどまでに敵意を抱いているのかがまるで不明だ。
奴隷紋は対象の行為を縛りはするが、その精神までは支配できない。
何よりも既に俺はアリスとのつながり……奴隷紋を認識できていない。
つまり、間違いなくアリスの奴隷紋はルシウスによって外されている。
アリスの今の行動は不可解であり、異常なものだ。
このような異常な状態が長く続くとは到底思えない。
やはり、このある意味で千載一遇の好機に俺は逃亡をするべきか……。
と、突然アリスの姿が消えた……。
俺だけでなく、ルシウスも俺同様にアリスの気配を辿れないのか、うろたえている。
「ど、どこにいるのですか! で、出てきなさい!」
「ここですよ。不可思議な力と剣を使うから少し警戒しましたが……この程度の動きも見切れないなんて……」
アリスはいつの間にかルシウスの背後に立っていた。
そして、そのままルシウスに密着すると、耳元で何かを囁いている。
「こんな力でわたしに……ましてや偉大な力を持つご主人様に楯突こうなどと……なんて愚かで身の程知らずなの。そして……何よりも崇高なるご主人様を侮蔑した罪……ただでは済まさない」
「ひっ!」
ルシウスはそう叫ぶと、聖剣を再び振りかざす。
アリスは聖剣を避けずに、そのままマトモに聖剣の剣先を体に浴びて——
「あ、アリス!!」
と俺は思わず叫んでいた。
が、アリスはその聖剣を素手で……いや人差し指一つで止めていた。
ルシウスは顔を青くさせながら、両手で剣に力を入れているようだが、聖剣は微動だにしない。
まるで空間に固定されているかのように、アリスの指先で止まっている。
「なるほど……それなりに魔力を秘めた貴重な剣のようですが……使い手がここまで未熟では……」
アリスは立てた人差し指をわずかに動かす。
その瞬間、パキッと乾いた音がした。
そして、聖剣に小さなヒビが入ったかと思うと、剣の半身ほどのところでポキリと折れてしまう。
俺はその様子を唖然として見ていた。
ルシウスにとっては俺よりもさらに衝撃が大きかったのだろう。
「ああ……そんな嘘だ……こんなのって……わたしの月光剣が……」
そううわ言のような言葉を吐くと、折れてしまった聖剣を地面にポトリと落とす。
そして、ガクリと膝を落とす。
ついで、ルシウスは焦点の合っていない目で、虚ろ気にただ宙を見ていた。
「……どうやら完全に戦意を喪失してしまったようですね……。ですが……まだ終わりではないです」
アリスは、ルシウスの喉元を片手で掴み、そのまま持ち上げる。
「……うぐぅ……や、やめ……は、はなして……」
「……最後の警告です。聖紋を……返しなさい。もし返さないのならば、ただでは死なせない。死に感謝するくらいの痛みと苦痛をあなたのその身体に与えてあげます。そうね……あなた程度ならば……この程度の炎がちょうどよいかしら……」
アリスはもう片方の手を開いて、その華奢で滑らかな指先を突き出す。
と、アリスの指先にはろうそくのような小さな炎が立ち現れる。
あれは……魔法の中では一番低ランクの炎魔法……いやしかしあの色は……。
ついで、アリスはその火の粉を自身の口元に近づけると、ふっと息を吹きかける。
小さな炎は、ゆらゆらと風に流されるように揺らめき、やがてルシウスの近くにあった折れた聖剣に触れる。
その瞬間、小さな火の粉は空間全体を焼き尽くすような大火へと瞬く間に変わった。
真っ二つに折れても未だに神々しい光を放っていた聖剣は業火の渦に巻き込まれる。
それほどの勢いにも関わらず、不思議なことに周りの物は一切燃えていない。
なによりも火の色は赤いというより、むしろ黒いのだ。
これは……暗黒の炎……。
魂を焼き尽くすような痛みを相手に与えるといわれる禁呪。
アリスはやはり闇属性の魔法を完全に習得している。
しかし、いったいなぜアリスは闇魔法を……。
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