第7話 俺の死亡フラグが立ちまくっているんだが……

『そう言ってもらえるのは……とても……とても嬉しいわ。どれだけ救出されることを願ったことか……。でも……わたしはもうこの者の奴隷にされてしまっているのです』


『わかっています。でも、大丈夫です。この男は僕が倒します』


『ダメよ……わたしはこの者に奴隷紋で縛られている。命令されれば、わたしはあなたとも闘わなければならない……お願い……逃げて……』


『グフフ……そういうことだ。この奴隷紋がある限り、アリスはわしのものだ。おい、アリス! この馬鹿を殺せ!』


『それはどうでしょうか? 僕にはこの力と聖剣があります』


『な、なんだとお! 奴隷紋が効かない……いや解呪されているだと……馬鹿な……貴様ごときが』


『アリス姫……これであなたを縛る忌まわしき鎖は外しました。さあ一緒に闘いましょう!』


『ありがとう……ルシウス。さあ卑劣な奴隷商人……よくもわたしを長きにわたり、辱めてくれたわね。覚悟なさい!』


『ま、待て! うぐぅ!!』



 そして、『ザシュ!』とスカッとする効果音が流れて、奴隷商人は無様に敗れる……死亡する。


 そう……主人公……ルシウスにはユニークスキルがある。


 それは、奴隷紋の効力を無効化する……つまり解呪するスキルだ。


 奴隷紋の解呪自体は、実のところルシウス以外も行うことができる。


 が……非常に高度な魔力が求められるために、本来ならば、高位の魔術師の力が必要だ。


 それであっても、解呪をするのにはかなりの時間がかかる。


 だから、俺は自分が手配した魔術師がアリスたちの奴隷紋を解呪している間に、逃亡しようと計画していたのだ。


 これなら、アリスが俺に対して復讐をしようとしても、もう俺は遠くへ逃げている。


 まあ……本来ならばそこまで保険をかけておかなくともよいのかもしれない。


 解放すれば、アリスも俺のことなど最早どうでもよいと考えるだろう。


 いくらなんでも、俺に対してそこまでの憎しみを抱いていない。


 俺なりにアリスのことを丁重に扱ってきたつもりだったから、そこまで恨まれていないだろう。


 そう今の今までそんな風に勝手に楽観視していたが……。


 現実はそんなに甘くはなかった。


 先ほどのアリスの殺気を見る限り、奴隷紋が解呪された瞬間に俺の首が宙に飛んでいてもおかしくない。

 

 考えてみれば王族であるアリスが俺のような下賤の輩である奴隷商人の下で5年間もメイドをさせられていたのだ。

 

 アリスの感情的にはとても許せるものではないのだろう。

 

 いやまあ……メイドをすることを俺はアリスに強制していないし、むしろ別のメイドを手配しようとしてもアリスが頑なに反対をしていたのだが……。

 

 って……まあそれはいい。


 ちなみに、アリスを解放しようと俺が手配した魔術師は法外ともいえる金を要求してきた。


 それもあって、アリスの解放が遅れていたのだ。


 奴隷はアリスだけではない。


 今の最古参の奴隷はアリスだが、今ではかなりの人数になった。


 彼女たちもまた解放し、奴隷紋を解呪しなければならない。


 そうなると、莫大な金が必要となる。


 それに逃亡するためにはそれなりの手持ち資金がいる。


 最低限の金でよいが、いくらなんでも無一文で逃げる訳にはいかない。


 前世で流行っていたFIREとまでは高望みしないが、せめて最低限食っていけるだけの金は必要だ。


 このままでは前世みたいに家賃の支払い前に、モヤシしか……いやこちらではスライムの肉か……食べられない生活に——。


 ……って……話がそれてしまった。


 俺の経済状況よりも今はもっと差し迫った問題がある。


 そうルシウスのことだ。


 ルシウスの手にかかると奴隷紋は一瞬で解呪され、無効化することができる。


 この時点でルシウスはまだろくな魔法を覚えていないはずなのに……。


 ゲームをプレイしている時は主人公補正とご都合主義と思って大して気にならなかったが……。


 今の俺にとっては大問題だ。


 ようするに……俺はアリスに対して奴隷紋を使って、ルシウスと闘わせることはできない。


 つまり、アリスのステータスがラスボス以上であろうとも、意味がない。


 アリスが自分の意思でルシウスと闘ってでもくれない限り……。


 だが、そんなのは都合の良い妄想だ。


 俺はアリスに憎まれている奴隷商人なのだから……。


 そして、ルシウスこそはこの世界の……このゲームの……この物語の主人公である。


 ヒロインたるアリスがルシウスの味方になるのは、この世界の摂理とも言える。


 そして、そんなヒロインをさらって奴隷にした俺がルシウスに倒される……いや殺されるのもまた摂理である……。


 俺の脳裏には、その瞬間、アリスと主人公に斬られて、自分が床につっぷす姿が浮かんだ。

 

 俺はおそるおそる、アリスを見る。


 案の定アリスはイベント通り、顔をほころばせて喜んで……。


「救出? 何を言っているのですか……わたしはとうの昔に救われています。5年前に……。それに……帝国への反抗なら既にご主人様がこの地に人々を集めて既にその橋頭堡を築いて——」


「わかっています。でも、大丈夫です。この男は僕が倒します」


「倒す? さっきから……あなたは何を言っているのですか? わたしの話を聞いているのですか」

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