第3話 仲良くなれなかったけど、ヒロインのステータスはチート級になってしまった

 アリスが長じるにつれて、さすがに一緒の部屋で寝るのも具合が悪くなった。


 アリスはいつのまにか少女から一人の女性になっていた。


 それにもはやアリスは悪夢も見なくなった。


 まあ……それよりも何よりも問題だったのは……アリスの寝相が非常に悪い……いや悪くなったことだ。


 朝目覚めると、いつのまにか俺の隣にアリスがいる……。


 そんなことが多くなった。


 確かにアリスの寝相は昔から悪かった。


 仕事でアリスと行動を共にした時、やむを得ずに野宿することがあった。


 そんな時、もちろん俺とアリスは別々の寝袋で床につくのだが……。


 なぜか……アリスが俺の寝袋に入り込んでいることが多々あった。


 そして、成長するにつれて、アリスのその妙な癖は治るどころか、悪くなっていった。


 アリスは俺の体を枕と勘違いしているのか、その艶めかしい手足を大胆に絡めてくるのだから……たまらない。


 俺は一応男だし、人並みの欲望もある。


 アリスは客観的に見てとても魅力的な女性だし、何よりもその体もとてもグラマラスに成長——。


 とまあ……こんな具合に、俺もアリスのことを女性として意識せざるを得なくなっていた。


 ついでに言えばアリスは服装の趣味もだいぶ昔と変わった。


 寝る時の服装が以前と比べて、かなり派手……というか女性らしいものになった。


 以前は、普通の薄手の服といったところだった。


 素材は別にして前世のよくある寝巻きといった感じのものだった。


 が、それがある時から、日を追うごとに露出過多な服になっていき……。


 今ではかなり肌を露出させた服……というか下着一枚となった。


 この地方は寒冷地ではない。


 だが率直にいって、その格好では風邪を引くのではと思わず心配してしまうほどに、肌の露出が大きい。


 アリスは何食わぬ顔で寝室でそのような格好に着替える……いや脱ぎだすのだからたまらない。


 正直にいって目のやり場に困ってしまう。


 アリスは俺のことを男として意識していないのだろう。


 それはいい。


 だけど、これでも俺は本能を持った男である。


 寝る時にアリスと向き合う時にどんな顔をすればよいのか……。


「……ご主人様……おやすみなさい……」


 そう挨拶をされたら、無視をする訳にもいかない。


 欲望が顔に出ないように無表情を装うのにも一苦労した。


 アリスの……女性の服装について、俺のような男が触れるのは無用の怒りを招くだけだろうから、俺は素知らぬフリをしたが。


 女性のファッションセンスは今も転生前もさっぱりわからないしな。


 それはさておき、アリスの寝相は良くなるどころか、日を追う事に悪くなる一方であった。


 最後の方は、毎日のようにアリスは俺の隣にいて、その距離もどんどん近くなってきた。


 いつだったか目を開けたら、アリスの顔が俺の目の前にあって、思わずその唇から吐息を感じるほどに密着していたこともある。


 さすがに……毎日この有り様では俺も考えてしまった。


 寝相が悪いどころの話ではない。


 なにせ眠りにつく時は、確かにアリスはベッドで寝ているのだ。


 毎日、寝ぼけてベッドから落ちているであろうアリスの身体も心配になってしまう。


 アリスは女性だし……なにより元王族であり王女である。

 

 こういう所作を俺のような男……ましてや下賤な身分の奴隷商人に指摘されるのは当然好まないだろう。

 

 だから、あまりこの寝相問題について指摘したことはなかった。


 だが、さすがに俺も限界だった。


「アリス……あのさ……ベッドから落ちないようになにか俺にもできることはあるかな? それとそのう……服ももう少し着た方が……ほ、ほら夜は冷えるしさ……」

ある時、俺はついにアリスにこの問題についてそうやんわりと触れてみることにした。

 

 結果は……大失敗であった。

 

 アリスはポカーンとした顔を浮かべた後で、そのまま顔をそらして、どこかへと走り去ってしまった。

 

 目に涙を浮かべていたような気もする。

 

 あの時から、俺とアリスの関係は決定的に破綻してしまった。


 アリスは俺との会話を最小限に抑えるようになってしまった。

 

 せいぜい事務的な仕事の話しかしない。

 

 小言でさえほとんど言わなくなってしまった。

 

 それに、その表情も徐々に無表情になってしまった。

 

 じっと遠くからなにかを伺うように俺を睨んでいることも度々あった。

 

 ……よほど俺が憎いのだろうか。

 

 この時から俺はゲームのシナリオを……つまり俺がアリスに殺されることをリアルに意識するようになった。


 そう……結局のところ、俺はアリスを奴隷にした卑劣な商人だから、そんな簡単に関係など改善するはずもなかったのだ。


 仲が良くなったと一時思ったのも俺の気の所為だったのだろう。

 

 毎度アリスから憎しみをぶつけられていた時もストレスで胃が痛かった。


 だけど、今のアリスの無表情な顔を見る方が心にくるものがある。


 そして今では……目も合わせてくれない。

 

 現に今だってアリスは俺と目があうと、顔を赤くして、ものすごい勢いで顔をそらしてしまった。


 目があっただけで、顔を紅潮させて怒るほど俺は嫌われているのだろう。

 

 アリスに毎日罵られていた頃が、今では懐かしいくらいだ。

 

 まあ……要するに俺とアリスの関係はまるで改善しなかった。

 

 結局のところ転生したからといって俺——35歳=童貞——のコミュ力は変わらなかったという訳だ。


 だけど、それでも5年の月日の中で人は成長する。


 そう……俺のステータスは今ではチート級に——。


 というのが定番だが、俺のステータスはコミュ力と同様にほとんど成長していない。


 大して役に立たないスキル……使うことができる奴隷紋の最大数が増えた……が成長したくらいだ。


 一方で、アリスはあらゆる意味で成長した……いや成長しすぎてしまった。


 アリスの美貌は大人になるにつれて、ますます磨きがかかっている。


 もちろん美貌だけではなく、もともと年齢不相応に発達していたアリスのグラマラスな肢体もさらに……。


 いや……今の問題はそこではない。


 そう……問題なのはアリスのステータスだ。


 俺は自分の唯一役立つスキル「鑑定」をアリスに対して発動する。



【アリス・ルーンホールド】

レベル:999

HP:978000/978000

MP:63400/63400

STR(筋力):8760

VIT(体力):7540

AGI(素早さ):9450

INT(魔力):9999

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