氷麗の眠り姫は求婚よりも平和な日々を望みます! -攫いの魔女と呼ばれた少女の物語-
みんと@「炎帝姫」2/2完結!
プロローグ 募る想い
東の空に名残り煌めく星を見つめ、青年はふぅと息を吐く。
(もうすぐ。もうすぐあなたに逢えるのですね、フィファニー)
想い続けて幾年月。待ち侘びた夜明けまであと少し。
もうすぐ、あなたに逢える。
柔らかに揺らめくさらさらの金髪と、紺碧に輝く釣り目がちの綺麗な瞳。まだほんの少しあどけない面持ちに長い睫毛を湛えた青年は、
ここに眠るのは十七年前、とある罪を着せられ罪人となった、彼にとってのお姫様。
逢いたくてたまらなかった愛しい人との再会に、胸が痛いほど高鳴り踊り出す。
早く、この夜が明ければいい。
「……失礼致します。殿下、馬車の用意が整いました。そのほか手筈はすべて済んでおります」
すると、夜明け前の空の下、窓辺で頬杖をつく青年の背後に、音もなく一人の執事が現れた。シックなモーニングを身に着け、青年の前で深々と頭を垂れた執事は、春先に似つかわしくない分厚いコートを手に、意を仰ぐ。
焦がれ続けた日々を終え、遂に機は熟したようだ。
「分かった。では参ろうか、私の眠り姫をお救いに」
そう言って、彼の声掛けに立ち上がった青年は、花のような笑みを浮かべると、颯爽と廊下を歩き出した。
追随する執事は音もなく窓を閉め、殿下と呼び従う青年に頷くばかり。
これから二人が向かうのは、罪人を幽閉する「氷壁の塔」と呼ばれる場所だ。
ウィングロード王国に古くから根付く、氷漬けの終身刑。
この世界に数多存在する
王国が、死罪よりもこの氷漬けを上位とする理由は、見せしめの意味がほとんどだろう。
死は誰にとっても重いものだが、罪人の死は終われば人々の記憶から忘れ去られ、また罪人は生まれくる。
その一方、氷壁の塔に罪人が幽閉されているという事実は、恐怖と侮蔑を以って心の片隅に残り続け、人々に語られることだろう。
残酷な王家の判断により、数世紀続くこの刑罰に、青年の心情は複雑だ。
(……だがあのとき、捕らえ次第即時執行を望んだ父の判断により、死罪とならずに済んだことを、今回ばかりは喜ばねばなるまいな。とはいえ、彼女を救うまでこんなにも時間掛かるとは。……もう、あれから十七年、か……)
金装飾を施した豪奢な馬車に乗り込み、青年は過去のあの日を思い出す。
すべての始まりは十七年前。日暮れ時の薄暗い森の中で、ひとり泣く自分に声を掛けてくれた彼女との出逢いが、二人の人生を変えさせた。
これは攫いの魔女と呼ばれた少女と麗しの青年を巡る、真実と恋の物語――。
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