Day2①:いつもの朝

「ピョピョウ!ピョピョウ!」


 何かが胸の上に載っている。重いので横に寝がえりを打つとソイツは俺の顔にフサフサしたものを叩いてきやがった。フサフサで鼻がムズムズする。


「はっくしょん!」


 たまらずに飛び上がると目の前には昨日拾ったヒヨコのようなモノが俺を起こそうとしていた。目が覚めて腹でも減ったのだろうか。対して俺は、昨日鍛錬していた時と同じ服のまま、物置部屋の床の上で横になっていた。おまけに背中も少し痛い。


「うわーやっちまった」


 どうやら、鍛錬しているうちにそのまま寝てしまったようだ。そこに狙いすましたかのようなタイミングでピンポーンという音が聞こえてくる。ゆうこが来たんだ。


「今、出るよ!」


 魔術の事はゆうこに内緒なので、見られるとまずい物だけとりあえず片づけて玄関に向かう。玄関のドアを開けて、彼女を迎える。すると、彼女は俺を見るなり不思議そうな顔をした。


「まだ起きたばっかりなの?」

「ちょっと寝坊しちゃって……」

「起きるの遅いと脳が起きるのも遅くなっちゃうよ」


 ゆうこは頬をムスッと膨らませるが、幸いそれ以上の追及はなかった。我が家の朝ごはんはいつもごはん、レタスとミニトマトのサラダ、スープ、ヨーグルトになっている。テレビをつけるとニュースが流れていた。どうやら近くの駅前にある料理店でガス爆発事故が起こったようだ。


「物騒なニュースだな、俺たちも気をつけないと」

「そうだね~」


 俺とゆうこは電車ではなく徒歩で学校へ向かうのでいつもその駅を利用するわけではない。俺の場合は、バイトで駅の近くに行くが件の料理店とは別のエリアにある。それよりも、昨日のヒヨコについて話をしておかないと。


「ヒヨコについては、とりあえず学校で聞き込みしようと思うんだけどどうかな?」

「いいんじゃない?ついでに、ヒヨコ君を学校に連れて行こうよ!」

「ピョン!」


 ノリノリで提案してくるゆうこと嬉しそうに飛び跳ねるヒヨコ。いや、クラスの連中に何言われるか分かったもんじゃないから嫌なんだが。


「……昨日、言ってたのは冗談じゃなくて本気だったとかそういう話?」

「私、冗談なんて言ったこと一度もないけど?」

「そういやそうだったな……」


 確かにそうだ。ゆうこはやると決めたことはやる、本気マジ本気マジな冗談なんてもってのほかな性格だった。想定が甘かった俺をニヤニヤしながら見上げる彼女。不安すぎる。


「分かったよ……中村先生に見つかったらまずいから学校では俺のバッグの中に入れておこう」



 どのグループから聞き込みをするか話し合いながら学校への道を歩く。裏山に一番近い学校なのだから、何かしら手がかりをつかめると良いのだが。


「外で活動する部活なら何か見てるかもな」

「確かに!それじゃあサッカー部とか陸上部から聞いてみようよ」


 方針は決まったが少し不安になる。裏山でヒヨコを拾った時、あそこには竹林しかなかった。ヒヨコは飼い主と共に裏山を訪ねたがそこで迷子になったと考えるのが普通だ。しかし、それなら飼い主もヒヨコを探すはずだ。それなのに、そのような張り紙やニュースを聞いた覚えは一切ない。


「なあ、コイツの飼い主本当に見つかると思う?」

「そこは私たち次第でしょ」

「ピョンピョン!」


 ゆうこは俺の心配を聞いてもどこ吹く風だ。彼女の明るさにはいつも助けられている。それをありがたいと思う時もあれば羨ましいと思う時もあるのだが、今回は完全に後者だ。


「だよなあ」

「何ナイーブになってんのよ。それじゃ、おじさんに怒られるわよ」


 ゆうこの真っ直ぐさは時がたつほどに光を増していくように感じる。彼女にとってのおじさん、俺にとっての親父だった唯他衛寿。髪はボサボサ、性格もテキトー。それでも俺にとっては彼のような人間でありたいと思ってここまで来た。けれど、やはりその道は険しく俺の信念は虫食いだらけだ。すぐに不安になってしまう。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。早く学校に行こう。聞き込みは昼休みからかな」

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