Day1④:秘密の敬介君

 夕飯も食べ終わり、俺は物置部屋に1人座っている。ヒヨコはシャワーで汚れを一通り洗い流した後、俺の部屋に段ボールで即席のベッドを作ったのでそこに寝てもらっている。ゆうこは既に帰った後だ。ゆうこの母は彼女が幼い頃に亡くなっており、ゆうこの父は外国人で海外に出張している。俺も数えるぐらいしか会ったことは無い。


「さて、始めますか」


 そして、今から行うのは魔術の鍛錬だ。魔術的にはこの星で起こる現象は、物理的な挙動と人々のイメージの掛け合わせで決定される。言い換えれば、人々が広く抱いているイメージで現象に介入ができるということでもある。例えば、天使には悪に対するカウンター、癒しなどというイメージがある。そのイメージを使うことで、治癒魔術を起動することができる。つまり、魔術とは人々がある概念に対して抱くイメージを利用して現象に介入するということだ。先ほどの天使の例で言えば、ほっとけばすぐ死ぬような傷でも天使のイメージを利用した治癒魔術によって治すことができる。


 俺が六年前の火事から生き延びることができたのもこの治癒魔術のおかげだ。俺のオヤジである唯他衛寿は実は魔術師だった。オヤジは火事の中から俺を救い出した後、治癒魔術を施してくれたのだ。その際、魔術行使に必要な魔力を大量に使うことになった。俺の体に流れ込んだ魔力はほとんどが治癒魔術に使われたが一部は体に残り、そのままにしておくと危険だった。なので、俺は体内の魔力をコントロールするためにオヤジから魔術を学ぶ必要があった。


「dilute and convert」


 魔術はまず詠唱から始める。俺の場合はほぼ自己暗示なので、詠唱も我流だ。自分自身を薄め、イメージを読み取る装置へと変換させていく。


「boost on!」


 まず、自分の体の中にあらかじめ作っておいた疑似神経である魔術バイパスに魔力を流し込んで流れをつくる。これはめったに使われなくて流れが停滞している川に水を押し流して川の流れを再開させる行為に近い。

 次に、使う魔術のイメージを魔術バイパスに通して自身を魔流へと繋げる。俺が使える魔術は数少ない。現在、鍛錬している魔術は拡張魔術だ。拡張魔術は錬金術の一種で、現在も使っている人は少ない。この術のメインになる物体の構造、特性を一度壊してサブとなる別の物質まで拡張する。ざっくりと言えばAというメイン物質にBというサブ物質を合わせてCという別の物質を作り出す魔術になっている。


「connect right to left」


 最後に、使う魔術に必要なそれぞれの工程を踏めばそれで魔術は発動する。もっとも、俺にとってはここが一番難しい。拡張魔術の初歩は同じ物質を繋げて効果を上げるところからだ。俺の目の前にあるのは2つの曲がったバール。2つをただ繋げてより硬くするのは初歩の初歩。今取り組んでいるのは2つを繋げた後、真っすぐにすることだ。一度魔力を通したものに再度魔力を通すのは難しいので、一度通す時に繋げて硬くするのと、形を整えることの2つを一気に行わないといけない。


「よし、まずは構造把握からだ!」

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