Day1③:保護ヒヨコ

 見た感じこの生き物は多分ヒヨコ。ヒヨコという表現が一番近い。だが、普通より体が大きい。普通のヒヨコは手のひらサイズが一般的だが、このヒヨコは抱き抱えないと持ち上げられない大きさだ。目の前のヒヨコは突然こちらに向かって鳴きだした。


「ピピ――、ピョピョピョ!」

「うお!変な鳴き方だなー……」

「ちょっと待って!この子ケガしてるよ!」

「ピョピョー……」


 よく見るとこのヒヨコは所々傷ついていた。俺は全然気づかなかったが、ゆうこが気づいてくれた。敵意がないことを示すため、ヒヨコに手のひらを見せる。ヒヨコが触ったり匂いを嗅いでいるのを確認してからヒヨコの傷を詳しく見てみる。すると、ゆうこが言っていた通り赤い傷が羽の周りに幾つかついていてとても痛々しい。


「このヒヨコどうしようか?とりあえずどこかで保護してもらうか、それとも……」

「ねえ、この子敬介の家で保護しない?」


 偶然見つけた謎の生物に少し慌てていたところ、ゆうこは疑問符が浮かぶような提案をしてきた。なんで、自分の家じゃないんだよ。秀じいさんがペット嫌いだからか?


「え?うーん、それはいいけどペットなんて飼ったことないしな……それよりかは学校で保護してもらうのはどうだ?」

「学校で保護しきれる訳ないじゃない!私たちがちゃんとこの子の飼い主見つけてあげないと!」


 その言葉には一理あるが、悩ましいところだ。ヒヨコを再度見る。ヒヨコは何だか不安そうな表情をしているように見える。うーん……拾った人間の責任ってやつなのかな……。


「分かったよ。そのヒヨコは家で保護しよう」

「やった!よかったねー、ヒヨコ君?」

「ピョピョー!」


 ゆうことヒヨコは嬉しそうだ。まさか、ヒヨコと戯れていたいがために家で保護しようとか言い出したんじゃないだろうな?



 ヒヨコは抱きかかえても特に暴れたりはしなかったので、そのまま俺の家に持ち帰って来た。この家は俺とオヤジ、それにゆうこの親戚である秀じいさんとで建てた家だ。元々は俺とオヤジが住んでいて、秀じいさんとの繋がりからゆうこ、俺、オヤジと3人でご飯を食べるのがかつての常だった。オヤジは三年前に他界したので、今は俺とゆうこの2人がこの家を使っている。食事も交代で作るようにしてはいるが、ゆうこは俺より料理が上手いのでどうしてもゆうこの作る頻度が多くなってしまう。ゆうこは気にしていないだろうが、俺にとっては悩みの種だ。


「よし、できたぞ」


 今日の夕飯は昨日ゆうこが作ってくれた南瓜の煮物と、帰りに買った豚バラで俺が作った生姜焼きだ。いつもは焼き加減を間違えたり時間をかけすぎたりするのだが、今日は上手くいった方だと思う。


「「いただきます」」

「ピョン!」


 俺とゆうこが手を合わせて同時に食事を始めると、ヒヨコもそれに続いた。ヒヨコは特にお腹が減っているようには見えなかったが、調べると野菜の葉っぱが食べられると書いてあったので置いておく。すると、匂いを嗅いでから食べ始めたのでとりあえずそれでよしとした。


「今日の生姜焼きは上手くいったんじゃない?敬介も料理できるようになったよねえ」


 ゆうこがニマニマしながら箸を進めている。そのお言葉は純粋にうれしいが、ニマニマしながら言っているのが気に食わぬ。


「うっさいなー、やればできるんだよ俺だって」

「えー、昔は失敗してばかりだったからいつも私と衛寿さんが作っていたのになー」

「ぐっ……」


 俺が言葉に詰まると、ゆうこはケラケラ笑っている。もう6年前になるが、火事にあった直後は大変だった。オヤジである唯他衛寿との生活に慣れなくてはいけなかったし、俺は不器用だったので料理を覚えるのが遅く、オヤジとゆうこに教わりながら何とか上達していった。今はゆうこの助けも借りながら何とか生活している。


「ねね、この子明日学校に連れて行こうよ!」

「どんだけ一緒にいたいんだよ!」

「ピョピョン!」


 こんな日々が続くと、俺は勝手にそう思っていた。今日はたまたまヒヨコのようなナニカを拾っただけで、飼い主さえ見つかればまたいつもの生活に戻ると、当たり前のように思っていた。

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