Day1②:裏山探検隊

「えー、どうやら駅前に不審者が出て声をかけられたという生徒がいるようです。駅前に行かないという生徒も各自気をつけるように!それでは以上、解散!」


 担任である中村先生の声が教室に響き渡る。それと同時に、先生が持つ女性の中でも長い髪をまとめているポニーテールが右へ左へ揺れている。先生は学校の中でもかなりフランクな、それでいてハキハキした性格なので生徒の人気度も高いのだ。その証拠に生徒から悩み相談をされている場面を見かけることも多い。今は帰りのHR(ホームルーム)が終わったところだ。


 放課後、帰宅部の俺がすることと言えば一に誰かの依頼、二にバイト、三に帰る、四に勉強ぐらいのものだ。が、あいにく今日は特大の先約が入っている。


「敬介、今日はもう帰るのか?」


 市川亮太。高一の頃から同じクラスで、付き合いは中学からの友人だ。中学では素行不良、高校からは輝いてやるとバレー部に入ったはいいが長続きせずに一年でやめてしまった根からのヤンキー属性だ。


「ごめん、今日はちょっと用事があって。亮太はどうするの?」

「そうだなー、駅周りぶらぶらして帰るかな」

「そっか、じゃあなー」


 そのまま亮太と別れて、学校の裏山へ向かう。季節は夏目前。耳をすませばミーンミンミンという合唱が聞こえてくる。ふとゆうこに叩かれる前、見ていた夢を思い出す。あれも夏前のことだった。大きな地震が起こり、そこに居合わせたタンクローリーが横転しそのまま炎上。その地域一帯は火の海になった。俺は何とか生き延び、その窮地を救ってくれた男、唯他衛寿の養子になった。


「ククッ」


 当時を思い出すと今でも笑ってしまう。唯他衛寿と最初に出会ったのは病院だった。来るや否や、彼は自分の養子になるか、院に預けられるかどっちがいいなんて言ったのだ。俺は彼の養子になることを選んだ。何となくそっちの方がいいと思ったからだ。けれどそもそも彼が何者か分からなかったので問うてみると彼は少し苦笑いしてこう答えた。


「うーん……通りすがりの旅人かな?」


 その一言から六年、唯他敬介はオヤジのように窮地の誰かを助けられる人間になるのだと定めて生きてきた。けれどもやっぱりそれは遠い道のりだった。高すぎる理想とのギャップを噛みしめながら俺は今日も生きている。

 そんなことをツラツラと考えながら裏山までの一本道を歩いていると、ゆうことの待ち合わせ場所まで来ていた。ゆうこは既に俺を待っていたようで、俺の顔を見ると途端に頬を膨らめた。


「遅いよー!十分ぐらい待ってたんだけど⁉」

「お前が早すぎるだけだろ、ったく」


 実際、帰りのHRの後は亮太と少ししか話してないから単純にHRが終わった時間の違いだ。


「何、ちょっと怒ってる?」


 言い方が気になったのか、ゆうこは怪訝そうな顔をしている。そんなに口悪かったかな。


「ごめん、何でもない。それで昨夜は何が光ってたの?ライトの反射とかじゃ……」

「光ってたのは絶対隕石だってば!」


 そんなことを言い合ってたらすぐ裏山に着いた。裏山と言ってもそこまで高い山ではない。麓は竹林になっていて、まずはそこに隕石とやらの痕跡がないか探すことにした。


「夏休みが終わったらすぐに合唱コンクールあるじゃん?」

「そうだな」

「うちのクラスやけに盛り上がっているから、ついていくのきついんだよね~」


 うちの学校は毎年九月の初めに合唱コンクールがある。今はまだ七月が始まったばかりで、合唱コンクールにはあと二ヶ月近くある。なのにそんなに盛り上がっているということは、それだけ本気ということなのだろう。俺のクラスなんてまだ話題にすら上がってないぞ。


「ゆうこは楽しみじゃないの?」

「楽しみは楽しみだけど限度ってものが~」


 その時、風もないのにガサガサと草と草の擦る音がした。周りには誰もいない。明らかに何かがいる証だ。


「今、何か音がしなかったか?」

「え、そう?」


 音のなる方へ走りだす。もし、良くないものだった場合だとゆうこが危ない。その時は俺が何とかしないと。ちょうど竹の大きさでガサガサの音源が隠れているようだ。回ってみると、そこには黄色と黒の毛色をしたモフモフとした生き物が不思議そうにこちらを見上げていた。


「ハア……ハア……ちょっといきなり走り出さないでよ……」


 ゆうこが後ろから追いついてきた。彼女もこの生き物に気付いたようだ。


「その子、何?」


 もう1度、その生き物を見る。毛色は黄色、所々に黒色。目がクリっとしていてくちばしがとんがっている。そして、大きな特徴は羽がついていることだ。羽は残念ながら自重を支える程の揚力は生み出せそうにないが。つまり、これは……。


「ヒヨコ……かな?」

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