Day1①:開口一番

「すけ……けいすけ……」

 誰かの声がする。俺はどうやら寝ていたようだ。いかん。このままだとまずい気がする。しかしながらぶっちゃけると、まだ寝ていたい俺なのであった。完。


「いい加減起きなさい、敬介ー!」

「アイタ⁉」


 声の主はどうしても俺を起こすべく最終手段、脳天への容赦ないチョップを繰り出した。痛みに耐えきれず飛び上がると、俺の目の前には1人の少女が仁王立ちでこちらを睨んでいた。


「何すんだよ、ゆうこ!」

「いくら呼び掛けても寝てるんだからしょうがないでしょ!」


 昼休み、人もまばらで静かな教室の片隅。いつものようにギャーギャーとくだらない言い争いを繰り広げる俺たち。懐かしい夢を見ていた。もう見ることは無いと思っていたのに。


「で、何の用だよ?」

「え?」

「おい、何の用事もなく人の頭にチョップかましたんじゃねえだろうな?」

「ああ、そうだったそうだった!ちょっとこっち来て!」


 そう言って教室の外、人気のない廊下の端まで腕を引っ張られる。よっぽど秘密の話らしい。


「ねえ、隕石が見えたっていうニュース知ってる?」


 そんなことを言い始めるゆうこ。それは何故かこの地元付近だけで目撃情報が出たとキャスターが伝えていたニュースだった。何やら雲行きが怪しいぞ。


「あったな。でも、どこに落ちたとかまでは出てないだろ?」

「そ・れ・が、この学校の裏山にあるかもしれないの!隕石!昨日の夜に裏山の麓が光ってたんだから!ちょっと今から見に行かない?」


 学校でのゆうこはいつもネコを被っている。けど、本当はおてんば娘でたまにこんな思いつきを言って周り(主に俺)に被害を出す。いい加減に勘弁してほしいものだ。


「やだよ、何だってわざわざ裏山に行かないといけないんだよ」

「いいの?中間だけじゃなくて期末も地理教えてあげようと思ったのにな~」

「ぐう」


 俺は地理が苦手なのだ。高校になって習う情報量がえげつなくなってどこから手をつければいいのか分からなくなった。なので、時々ゆうこにコーチングをお願いしていた。嫌な予感しかしないが、背に腹は代えられぬ。


「分かったよ、一人で行かれても危ないだけだし行くよ」

「本当⁉さっすが敬介、お人好し~」

「けど、行くなら放課後だ!裏山なんか行ってたら授業間に合わないぞ!」


 ゆうこは嬉しそうに自分の肘で俺の脇腹をグリグリ押してくる。そこまで舐められるのは癪なので、せめてもの抵抗で行く時間の線引きだけはしておく。


「えー、しょうがないなー」


 桜色の唇が綺麗にすぼめられる。まるでタコの口みたいだ。俺たちはそれからも他愛のない話を続けていた。期末試験の話だとか、ゆうこの親戚の秀じいさんの話だとか。


 キーンコーンと昼休み五分前のチャイムが鳴る。次は体育の時間なので、早めに動かないと遅れてしまう。


「それじゃ、放課後になったらすぐ来てね!」


 ゆうこはニコニコしている。いや……これはニコニコよりニヤニヤだな。


「行くけど、危ないことはしないからな!」

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