Cause and effect/不等価交換
新emuto
プロローグ:Birthday
僕は瓦礫の中から目覚めた。
一体どうして。何が起きたんだろう。分からない。何も覚えてない。
僕は一人。父さんと母さんは見当たらない。どこから飛んできたか分からないものが上に被さっている。暗くて周りが見えないから前に、ひたすら前へと這っていく。頭からギシギシという音が聞こえる。やっと見えた自分の手は真っ赤で、まるでナイフをザクザク刺されたかのようだ。這いつくばりながら進むと、目の前にはおかしな景色が広がっていた。立ち上る黒い煙とボウボウと燃える建物だったナニカ。
その時にやっと気づいた。辺り一帯で火事が起きたのだと。床にはガラスの破片が広がっていて、たまたま履いていたスリッパのまま歩きだす。
それは今までの人生で一度も見たことがない光景だった。煙で視界がぼやけているのに、周りからは細々とした声が聞こえる。できるだけ見ないように前へ進む。でないと、狂って叫びだしそうだった。
「私はどうでもいいので……この子だけでも助けてください……」
そんな言葉を発しながら赤と黒のナニカを差し出してくる女性。女性は瓦礫に隠れて下半身が見えない。僕にはもうどうしようもないことだった。
「助け……」「くる……しい……」「パパ助け……」
どこからか聞こえる。女性や男性、子どもの声。僕にはもうどうしようもないことだった。どうしようもなかった。だから、どこを目的地にするでもなく歩いた。死からの逃避行じゃない。それしかできなかったんだ。
やがて、焼け焦げた場所にたどり着いた。運が良かった。振り絞った気力はそこで途切れ、背中から倒れこむ。感覚はもうない。まるで糸の切れた人形だ。日常とはこんな簡単に壊れるものだったのだろうか。
「きっついなあ……」
ふとそんなことを独り言つ。まるで他人事のようにつぶやく。
全身から力が抜けていき、目をつむる。幻聴まで聞こえてきた。
「ピ……誰か……ヨ……いないの……か……」
なぜだか急に体が熱くなってきた。同時に傷の痛みも増すがそんなの関係ない。誰かの声が確かに聞こえたんだ。今のは幻聴なんかじゃない。まだ動ける。何とか声の聞こえる方向へ手を伸ばす。
その手を誰かが掴んだ。
「間に合った!間に合ったよな!」
返事の代わりに頷く。見知らぬ男に助けられたようだ。
「よかった……本当に……」
男は大粒の涙で顔をクシャクシャにしながら僕の手をいつまでも握っている。対して、僕は何のリアクションも取れずに呆けた顔をしていた、だろう。
今でも忘れられない、何者かに感謝するように微笑むその笑顔が。
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