4-2 モラハラ夫は、妻以外の人とデート中、寝取られ現場に遭遇しました

翌日、俺はいつものように妻シンシアが作ってくれた飯を食うと、職場に出かけた。

今日の俺は営業活動ではなく、来月うちの会社で出るゲームのための販促活動だ。


正直、こんな活動は面倒だがニルセン社長の命令なので仕方がない。



「まったくなんで俺がこんなことを……」

「まあまあ、ヨアンさん。早いとこやっちゃいましょうよ」


そうミケルは苦笑しながら声をかけた。

彼は今回の販促で紹介するホラーゲーム『逢魔が時に光る星』のシナリオライターだ。

今ではすっかり売れっ子なのだが、ニルセン社長に恩があるらしく、こういう雑用も引き受けている。


俺は運営会場にいた連中を並べ、指示を出した。



「それじゃ、男共はここにある機材とか、全部設置しておいてくれ」

「え? ……あの……ハーフリングのこいつらもですか?」

「当たり前だろ? 男ならそれくらいやれよな。……で、女の子たちはあっちでチケットを切っておいて。あまり無理しないで良いからな」

「……はい……」



男たちは少し不快そうな顔をしたが、しょうがないだろう。

俺はインキュバスと言う種族の特性もあり、女の子に優しくするようにしているのだから、男共が割を食うのは当然だ。


彼らは多少不満そうな表情を見せていたが、俺の指示通りに会場の準備をし始めた。




「……ふう……できました、ヨアンさん」


しばらくの後、会場の整理をしてくれたバイトの男共がそう言ってきた。

見たところ、とりあえず気になることはない。



「ところで、ヨアンさん? 仕事終わったら俺、ミケルさんに……」

「ああ、うん。よくやったじゃん。それじゃお疲れ。バイト代は後でニルセン社長から貰っておけよ」

「え? あの……」

「ほら、これ以上いると邪魔になるからさっさと帰んな」

「……分かりました……お疲れ様です……」



会場が片付いた以上、もうこいつらには用はない。

それにあいつらも、男である俺と一緒に居るのは気が詰まるだけだろう。


そう思った俺は男共をさっさと帰らせた後、女の子たちの方を見に行く。



「なあ、どうだ、君たちは?」

「あ、ヨアンさん。一応準備できていますよ?」


そう言われて俺は、チケットがきちんと切り分けられ、会場に参加する人たちの分まで揃っているのを確認した。


「うん、ばっちりじゃんか! やっぱり君たちに頼んでよかったよ」

「え、あ、そうですか……」


彼女たちは恐縮するように答えた。

……まあ誰にでも出来る簡単な仕事だったが、こうやって大げさに褒めるくらいの方が女ってのは喜ぶのだろう。


それに見た感じ、若くてかわいい子ばかりだ。俺は思わず尋ねた。


「そうだ、もしよかったらさ、後で打ち上げに行かないか?」

「え?」

「このイベントは重要な奴だからさ。影の功労者の君たちにもお祝いしようかなって思うからさ?」

「あの、その……すみません、今日はちょっと遠慮させてください……」



おや、それは残念だ。

まあいいか。代わりに今日は酒場でよく合うサキュバスのピープちゃんとデートでもしよう。ちょうど、先日買った誕生日プレゼントも渡したいところだ。




そして数時間後、俺はピープちゃんと一緒に近くにある大きなホテルで食事をしていた。


「……ってことがあってさ。まあ今日は疲れたわけよ?」

「へ~? それは大変だったのね。それでイベントはどうだったの?」

「ああ。やっぱりイグニスのイラストは凄いな。またキャライラストをイベントで公開したら、みんなすごい喜んでさ」

「え? ……ひょっとしてヨアンさん、イグニスさんと知り合いなの?」

「まあな。あいつと俺はマブだからな。いつか合わせてやるよ」

「うん、楽しみにしているね!」



……まあ本当のことを言うと、イグニスとは口で言うほどの仲ではない。

だがまあ、ピープちゃんに合わせる機会は当分ないだろうから別に問題ないだろう。

俺は頃合いを見計らって、彼女のために用意したプレゼントを取り出した。


「それと、ピープちゃん。誕生日おめでとう?」

「え? ……なに、この指輪? 凄い、サイズぴったりじゃない!」

「いいだろ? 君のために用意したんだ」

「ありがと! ……はあ、ヨアンさんが結婚してなかったら、私口説いちゃうんだけどなあ……」


そう言ってピープちゃんは喜んでくれた。

このプレゼントは、ここ数か月妻に渡す生活費を減らして、用意したものだ。


「会社がピンチで給料が減らされた」とでも言えば金額をごまかせる。

まったく、社会人経験のないバカな女と結婚してよかった。



「喜んでくれたならよかったよ。……ごめん、ちょっと俺トイレ行ってくるよ」

「え? うん、早く戻ってきてね」



だが俺は、トイレを済ませた後、ロビーの前で信じられない光景を目にした。

……俺の妻が、何故かいつもよりも化粧をしっかりとした状態で、ホテルの上階に上がっていったからだ。


俺は猛烈に嫌な予感がし、後をつけていった。




「ここが、あいつの入って言った部屋か……」


このホテルは、俺の行きつけではあるが妻には利用できないはずだ。

俺が使っていたレストランすら、妻に渡してやっている生活費だけでは到底利用することが出来ない金額だからだ。


俺は、一度深呼吸すると、なんどもドアを叩いた。



「おい、お前! どうしてこんなところに来たんだよ、開けろよ、おい!」


しばらくそうやってドアを叩いていると、ドアの向こうから下卑た男の声が聞こえてきた。


「ん~? ひょっとして君、この子の旦那とかそんな関係~?」


その瞬間、俺は自分の予感が的中したのを確信した。


「ああ、そうだよ! お前こそ誰なんだよ!」

「ウヒヒ! 僕は君のご主人様になる男だよ? ま、入っていいよ」



そういうと男はホテルのドアを開けた。





「な……なんだよ、おい……」

「あれ、あなた?」


そこには俺の妻シンシアが、下着姿で男の膝の上に乗っていた。

男の種族は人間で、年齢は30代後半だろうか。


相当な暴飲暴食を繰り返してきたのだろう、酷い中年太りをしており、また外見の年齢も肌年齢もかなり老けて見える。


さらに、男の両サイドには若く美しい女性が3人、これまた下着姿で男にしなだれかかっていた。


「おい、その男は誰だよ?」


すると妻は、今まで俺に見せていた従順な表情ではなく、心底侮蔑するような表情で俺につぶやいた。



「決まってるじゃない。……私の、ご主人様よ?」




「な、なんだよそれ! おい、お前は誰なんだよ!」


「ウヒヒ! 僕は転移者のリマって言ってね。お前たちから可愛い女の子を寝取って、性奴隷にするのが趣味なんだ~!」

「性奴隷だと……?」

「うん、そう! そうだよね、性奴隷4号ちゃん? ボク、ロリ枠の妻が欲しかったからさ。この間街で見かけて、それ以来狙ってたんだよ」

「はい! このゴミ旦那はもう私の夫とは思っていません! 私の旦那様は~」


そう言って、妻はご主人様のお腹にもたれかかりながら、俺に見せつけるように熱いキスをし始めた。そして、


「リマ様、あなたです! 私の身も心も、全部あげますね?」

「あら、ご主人様ったら、また女の子を奴隷にしちゃって?」

「本当に、素敵ですものねご主人様は?」

「その子はもう抱き飽きたでしょ? 次は私を抱いてくださいね?」

「ウヒヒ! ああ、分かってるって。奴隷ちゃんたち全員、たっぷり愛してやるからね~?」



その男の発言で確信した。

妻シンシア……いや、俺の元妻は、この男に抱かれていたのだろう。

無論、周りにいる美女たちとも、今までに相当な回数セックスをしていたことが分かった。



……羨ましい。

そのことに対して俺は男への怒りと嫉妬に頭が沸騰しそうになった。


「おい、ふざけるなよ!」


そう思いとびかかろうとしたが、この男は突然四角い板のようなものを何もない空間から、突然取り出してきた。


「おっと、君も催眠をかけておかないとね。『君はボクをご主人様として、逆らわないこと』っと」


その瞬間、キイイイン……と俺の頭の中で音がした。


(く……危ないところだった……)

……どうやら、今の板は相手のことを操る力があるようだ。


俺は魔法への耐性の強さが自慢だ。

だからこそ、ご主人様の催眠にはかからなかったようで、正気を保てている。


だが、魔法に弱いハーフリングである妻は、催眠にかかってしまったのだろう。あの魔法には注意が必要そうだ。

俺は妻に対して怒りの気持ちが抑えられない。


「おい、お前! 浮気なんかして、どうなるか分かってんだろうな?」

「何言ってんのよ、浮気してたのはあんたでしょ? どうせここにも、サキュバスの女……ピープって言うんだっけ? ……と来ていたんでしょ?」


だが、妻シンシアも負けじと言い返してきた。

なんだこいつ……いつもは俺の言うことに服従してきたのに。何か魔法でもかけられているのか?



「まさか、まだ気づいてないと思ってたの? ここ最近あんたが、酒場でピープって子と仲良くやってたの、知り合いから聞いてたんだから!」



それを聞いて、俺はしまった、と思った。

俺の家とピープちゃんがいる酒場はそこまで離れていない。

妻シンシアの友人があの酒場に居たとしても、俺は気づけないからだ。


「浮気って、デートしてるだけだろ? お前みたいに肉体関係までは持っていない!」

「だから何よ! ずっと家で私が寂しくて悔しい思いしてたの、気づかなかったの?」

「知らねえよ、そんなこと!」

「知らないんじゃなくて『知ろうとしなかった』の間違いでしょ? ……あのね、今までずっと我慢してたけど……あんたには前から言いたかったことが沢山あるのよ!」



そう言うと彼女は涙目になって、ご主人様は意外そうに首を傾げた。


「うん? ……おかしいな、性奴隷4号ちゃんには、まだ『夫を罵倒すると、性的に興奮するようになる』っていう催眠はかけてないはずなんだけどな……」

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