3-9 天才シナリオライターは、寝取り野郎の脳を破壊しました

そしてさらに1ヶ月が経過し、僕らはまたご主人様の元に呼び出された。

……また、給料を渡す必要があるからだ。

だが、僕らはその他にももう一つご主人様にプレゼントするものがあった。




「ウヒヒ、お前たち、今日もよこせよ、金」

「はい……どうぞ」


そう言って、代表のイグニスさんは含みを見せた笑顔と共に、ドスンと給料を渡す。

それを見たご主人様は驚愕の顔をした。



「お、おい。……なんだよ、この大金……」

「後、これは我々からの献上品です。どうかお納めください」


だがそれには答えずに、イグニスさんは僕らが作ったゲームソフトを一緒に手渡した。


「これ……『臆病ものの隠し砦』じゃん! 確か昨日新聞に載ってたゲームだよな? お前ら、よくわかってんじゃん! ボクのやりたいゲームを持ってくるなんて!」

「そう言っていただければ幸いです」


そこまで言って、ご主人様は僕達がこれを持ってきた理由を理解したようだ。



「……待てよ、このゲーム、確か品薄だよな……。それを持ってきたってことは……まさか……」


そう言ってご主人様はパッケージの裏を見る。

そこには『セントラル・クリエイト』と書かれていた。


それを見たご主人様は顔を引きつらせる。


「お、おいおい……。まさか、このゲームって……労働奴隷の、お前たちが作ったのか?」


その質問に、僕らは笑みを浮かべて答えた。


「ええ、イラストは俺が」

「企画・販売は私が」

「そしてシナリオは僕が。ご主人様……努力は無駄じゃありませんでしたよ」



「な……そんな、嘘だろ……パシリのお前が……?」


特に、僕のシナリオが採用されたことがショックだったのだろう。

ご主人様は少しふらり、と体を揺るがせる。


「じ……じゃあ、このお金も……」

「ええ。今作が大ヒットしたので、社員にボーナスを出しまして。我々の取り分が、それです」

「ふ、ふーん……僕も、あの時最後まで書いていれば……僕がシナリオライターだったのかな……」



ご主人様が途中までシナリオを書いて挫折したことはすでに二人には伝えている。

だが、ニルセン社長は首を振った。


「失礼ながら難しいでしょう。……ミケルの開花した才能に勝てる人は、当分出ないでしょうから。……一度ゲームをやってみれば、それが分かると思います」

「く……くそおおおおおおお! おい、性奴隷2号! 酒!」



ご主人様は後ろにいた彼女たちにそう叫ぶ。

かなり強い酒だが、『性奴隷2号』と呼ばれるニルセンさんの元妻は、なみなみと注いだものを持ってきた。



「はあい、ご主人様? やけ酒ですよね? た~っぷり飲んで、忘れちゃいましょう?」

「うん。……ぷはあ……」


そしてご主人様はそれを一気に飲み干した。


「もう一杯!」

「はあい、ご主人様? 沢山買ってきておきましたから、好きなだけ飲んでくださいね?」


そう言って二杯目を注ぐと、ご主人様はそれもあっという間に飲み干した。

彼女たちはご主人様に対して隷属するように暗示をかけられている。



「もう一杯!」

「は、はい……」


……だが、流石にその無茶な飲み方を見て、次第に心配そうな表情になってきた。

少しでも慰めようと考えたのか、彼女たちはご主人様の身体をベタベタと触りながら、必死で持ち上げようとしている。



「さ、さすが! 働かないでこんなに面白いゲームができるなんて、ご主人様凄~い!」

「本当ですよね! あの、クソミケルが『努力を積み重ねて、ようやく才能を開花させて作ったゲーム』を、何の努力もせずに自分の手に出来た気持ちはどうですか?」



……あれはフォローになっているのか?

それはご主人様も思ったようで、ぽつりとネガティブにつぶやいた。



「ボクは、この数年……なにをやってたのかな……」



その発言に対して、彼女たちは少し考えた後、必死な表情で答える。



「ほ、ほら! 私たちとセックスしてたじゃないですか!」

「そうそう! 性奴隷も3人いますよね! 働かないで、人の稼いだお金でお腹いっぱいご飯を食べられて、しかもセックス三昧! ほら、ご主人様言ってたじゃないですか! そういう『寄生虫ライフ』を満喫するのが夢だったって!」


「本当! ご主人様すごいです! えっと、その……。うん、何一つ結果を残していないのに、こんなに可愛い性奴隷がいるなんて、本当にすごいです! ほら、おっぱい触ってください!」

「う、うん……」


そう口々にほめそやしながら、必死で誘惑するような表情で答える。



「あ、あの! 私たちは死ぬまで、ご主人様だけの奴隷ですよ?」

「ご主人さまはなにも変わらなくていいんです! あの偽旦那みたいな『精神的な成長』なんてしないで、ずっと今のまま『幼い子どものまま』でいいんですよ!」

「そ、そうですよ! 折角だし、そのゲームやりましょう? そこにいるクソミケル達を追い出して、ね?」

「それが終わったら、またセックスしましょ? お酒飲みながら、嫌なことなんて忘れて、ね?」



「……ああ、そうだな……お前たちは帰れよ」


ご主人様はそう言うと、元気なさそうに僕達を追い返した。





帰る道すがら、僕らは3人で互いに話をしていた。


「……どうしたんですかね、ご主人様……」

「ふむ……分からんな。せっかく我々の自信作を持ってきたのに、あの態度は理解できん……」

「ご主人様も、あのゲームをやるの、楽しみにしていたのにな……」


ニルセンさん達はそう言うと、不思議そうに首を傾げた。

どうやら、ご主人様にあのゲームを持ってきたことには、他意はなかったようだ。



「まあいい。とにかくこのゲームのおかげで、私の会社も多くのクリエイターを抱えることが出来た」


先日のコンペで落ちた人たちも、ニルセン社長の人徳に惹かれたのか、よくシナリオを持ってきてくれるようになったらしい。

そのうちの何本かは、次のゲームに採用されたとも話を聞いている。


今回のゲームのヒットのおかげでセントラル・クリエイトの企業規模も大幅に拡大したことで、様々なゲームジャンルに参入できるようになったことも、ニルセンさんは以前喜んでいた。



「……そういえば、ロングロング・アゴーからも何人か社員が来てくれたみたいですね。確か、元々は営業の人たちだって聞いてますけど」


イグニスさんがそう言うと、ニルセンさんは頷いた。


「ああ。ヨアンと言うインキュバスたちだな。クリエイターだけじゃなくて、営業のような仕事をする社員も必要だからちょうどよかった」



だが、それを聞いて、イグニスさんは不安そうな表情をした。



「ヨアンって確かあったことがあります。あのカス野郎……いえ、リグレの部下でしたね。大丈夫ですか?」


げ、あのクソエルフ……いや、リグレか。

僕はそれを聞いて猛烈に嫌な予感がしたが、ニルセン社長は問題ないとばかりに頷いた。


「ああ。……あのろくでなし……いや、リグレは、我々が作ったゲームのあおりを受けて、居場所を失いつつあるそうだ。だから彼を裏切って、私の元に来たらしいからな」


その発言に、僕は胸がすくような思いがした。

少しはあのクソエルフ、リグレに目に物を見せてやれた気持ちになったからだ。



そしてニルセンさんは答える。


「これからは、人間やエルフだけじゃなく、いろんな種族に喜ばれる会社を目指そう。これからもついて来てくれ、みんな!」


その問いかけに、僕らは「はい!」と叫んだ。

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