6 お誘い

   ※※※


「・・・で、どうして智花がここにいるんだ?」



待ち合わせ場所で梅田さんが目を細めながら智花に文句を言い始めた。


おいおい、文句出ないんじゃなかったのかよ?



「すみません。大学の友達って聞いたから一緒の方が楽しいかなって思いまして」

とにらみ合う二人の間に入って謝った。


俺の背中から顔を出した智花は

「晴久は私の彼氏なの。だから一緒に来たの。分かった?」

と梅田さんに喧嘩腰の口調で言った。



おいおい。なんなんだ?


「え?前野さん、智花の彼氏さんなんですか?」

と首を大きく動かして顔を近づけてきた。


「はい。付き合ってます」


「まじか・・・」

梅田さんは呟いた。

もしかして、梅田さん、智花に未練があるとか?

再会したら綺麗になってたとか?

大学時代から好きでしたとか?


そんなの絶対許さない。

俺は智花を俺の背中に隠した。



「はあ、まあ智花の言いたいことは分かったんで…いいですよ。一緒に飲みに行きましょう」

智花が梅田さんの顔の前に人差し指を突き指して、

「手、出さないでね」

と警告した。


「出さないよ、多分」

「多分じゃないから!!」


なんなんだ、この会話?

俺の智花に手を出そうなんざ、絶対に許さない!!



俺は智花と手を繋いで目的の店まで歩いて行った。






居酒屋についた俺たちは、半個室のテーブル席で飲みながら話をした。


大学時代の智花の話も新鮮だったし、俺たちの馴れ初めは話していて少し恥ずかしかった。

梅田さんの福岡支店での話も面白かったし、沢山食べて飲んで笑った。


2時間近くたった頃だろうか。

智花がトイレに立った。


智花は隣に座る俺に一言声を掛け立ち上がる。

「一人で大丈夫?」

「うん。大丈夫」

と言った後、前に座る梅田さんの肩に手を当て、小声で何かを囁いた。


梅田さんは片手をしっしっと払った。


「晴久、気を付けてね」

と意味不明なことを言って智花が席を離れた。



俺は二人だけの独特な態度にイラっとした。




「智花は男心が分かってないよね」


そう言って梅田さんは智花が座っていた席に移動してきた。

俺の目をじっと見てくる梅田さんを見て、ああこれが男の色気というやつかと思った。


梅田さんは智花にこの目を使っていたのだろうか?

だから、俺にこうやって牽制を仕掛けてくるのか?


まるで自分の方が智花にふさわしいとでも言うかのように。



年下だからって舐めてんじゃねえぞ。

智花は俺の彼女だ。

取引先だって関係ない。

俺から智花を奪おうなんて思ってるんだったとしたら、絶対に許さない。



俺は見つめてくる梅田さんの目を睨み返した。



梅田さんが俺の肩に触れる。

梅田さんの薄ら笑う微笑みに飲まれそうになるのぐっと耐えて、睨み返した。




梅田さんは微笑みを消して、俺をじっと睨んだ。





智花を奪い合い、睨み続けていると・・・・




「ストーーーーーーーーーップ!!!」



と智花が入って来た。


「本っ当にもう・・・やだ・・・・」

と目に涙を溜めて呟いた。


「「智花」」

俺は焦った。



「晴久は私の彼氏だって言ったでしょ?」

智花は梅田さんの胸をグーで思いっきり殴った。


「え?」


「分かってるって。何にもしてないって」

「それならどうして隣に座ってるのよ?

晴久の肩に手を回しちゃってるのよ?」


「これは・・・その・・・前野君がイケメンだなあって思っちゃって・・・近くで見たいなあって…うっ」

再びグーで殴られている。


目の前で繰り広げられる意味不明な光景と発言に、アルコールの入った俺の脳みそが付いていかない。



「ごめんね、前野君。俺の好みドンピシャだったからさ」

梅田さんは俺に向かって手を合わせて謝った。


「本当に怒るからね」

智花に無理やり席を元の位置に戻されている様子を見ながら一つ質問をした。



「あの・・・もしかして・・・梅田さんが狙ってるのって、智花じゃなくて・・・俺?」



少し間を開けた二人は声を揃えて

「「うん」」

と頷いた。




まじかーーーーーーーーーー!?

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